新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理
新型コロナウイルス禍により,国内外で多数の尊い人命が奪われ,1日も早い収束が望まれています.ワクチンや特効薬が見つかっていない現在の状況は17世紀にヨーロッパで大流行したペストを思い起こさせます.その17世紀に活躍した科学者の1人にアイザック・ニュートンがいます.彼が英国ケンブリッジ大学トリニティカレッジの学生であった時期に,ロンドンでペストが大流行し,大学が閉鎖となりました.大学が閉鎖されている期間,彼は生まれ故郷のウールスソープで過ごし,万有引力の発見など,大きな業績をいくつも挙げています.そのため,この期間は「ニュートンの創造的休暇」といわれています.新型コロナウイルス感染防止のために,いろいろな自粛が求められている我々もこの時期を有効に過ごし,将来へつなげることができればと考えています.
科学技術が飛躍的に進歩している21世紀の現在,新型コロナウイルスの姿を電子顕微鏡で捉えることができ,そのサイズは100nm程度であることがわかっています.このサイズは半導体デバイスや光の波長を頭に置くと,「応用物理」分野でよく取り扱うサイズであることに気付きます.また,遺伝子解析などにより,その正体が白日の下に晒(さら)されつつあり,ワクチンや薬の開発が驚異的なスピードで進んでいます.新型コロナウイルスの感染診断で使われる手法はさまざまありますが,その中には多くの「応用物理」が使われています.一方,性能や機能をより一層高めるために,「応用物理」へ大きな期待が寄せられています.応用物理学会では,この新型コロナウイルス禍において「応用物理」の果たす役割の重要性を再確認したく,本コラムを企画しました.本コラムが,「応用物理」に関係する研究者のみならず,将来「応用物理」の研究に携わる学生の方々にとって,新しい発見や気付きの一助となることを願っています.
1 新型コロナウイルスの実態
1-1 概論
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1-1-1 人類と感染症村上 裕彦株式会社アルバック 未来技術研究所2020.7.1
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1-1-2 新型コロナウイルスとの戦い村上 裕彦株式会社アルバック 未来技術研究所2020.7.1
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1-1-3 将来の戦いに備えて村上 裕彦株式会社アルバック 未来技術研究所2020.7.1
1-2 感染
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1-2-1 コロナウイルスのエアロゾル感染シミュレーション池田 圭株式会社アテナシス2020.7.1
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1-2-2 2変数を用いた感染者数推移のキネティクス解析武安 光太郎,中村 潤児筑波大学2020.8.31
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1-2-3 K値を用いたCOVID-19の感染状況のマクロ解析中野 貴志大阪大学核物理研究センター2020.8.11
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1-2-3-2 新型コロナ感染流行ダイナミクスの理解と施策の評価池田 陽一1,佐々木 健志1,中野 貴志1,21大阪大学感染症総合教育研究拠点,2大阪大学核物理研究センター2023.2.6
本コラムは「K値を用いたCOVID-19の感染状況のマクロ解析」(2020年8月)の続編です.
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1-2-4 空気中のウイルスの捕集瀬戸 章文金沢大学2020.7.1
1-3 診断
2 新型コロナウイルスを観る
2-1 ウイルス観察と医療(総論)
2-2 ウイルスの観察
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2-2-1 顕微鏡によるウイルス観察永山 國昭N-EMラボラトリーズ(株)山口 正視千葉大学・真菌医学研究C2020.7.17 改訂
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2-2-2 創薬を目指したSPring-8/SACLAの構造生物学研究山本 雅貴理化学研究所2020.7.8
2-3 ウイルスタンパク質のシミュレーション
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2-3-1 ウイルスタンパク質の動力学と創薬〜スーパーコンピューターによる分子動力学シミュレーション沖本 憲明,小松 輝久,泰地 真久人理化学研究所2020.7.16
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2-3-2 新型コロナウイルスのタンパク質に対するフラグメント分子軌道計算による解析事例望月 祐志立教大学2020.8.11
2-4 遺伝子情報を観る
3 新型コロナウイルスを診る
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3-1 非接触体温計測木股 雅章2020.7.1
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3-2 血中酸素濃度計:パルスオキシメータ小林 直樹日本光電工業株式会社2020.8.26
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3-3 PCR法による検査(原理)永井 秀典産業技術総合研究所2020.7.22
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3-4 新型コロナウイルス迅速検査(蛍光LAMP法)後藤 浩朗キヤノンメディカルシステムズ株式会社2020.7.14
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3-5 抗原・抗体検査(イムノアッセイ)と新型コロナウイルス感染症の診断民谷 栄一産業技術総合研究所,大阪大学2020.7.21
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3-6 X線CTとAI画像診断1 —新型コロナウイルス感染症とCT検査の果たす役割—木暮 陽介順天堂大学医学部附属順天堂医院2020.7.29
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3-7 X線CTとAI画像診断2 AIによる画像診断支援藤田 広志岐阜大学2020.7.13
4 次世代検査/評価技術
4-1 バイオセンサ概論・総論
4-2 光による検出技術
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4-2-1 比色法を用いたタンパク質分析:ウイルス検査高井 まどか東京大学2020.9.1
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4-2-2 化学発光酵素免疫法を用いた分散型抗原検査システム堀井 和由,狭間 俊介,永井 圭介シスメックス株式会社2020.7.21
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4-2-3 次世代検査/評価技術局在・表面プラズモン共鳴羅 希,寺田 侑平,齋藤 真人大阪大学2020.8.3
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4-2-4 近接場光学(エバネッセント光)による検出技術藤巻 真産業技術総合研究所2020.8.5
4-3 電気・電子による検出技術
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4-3-1 電界効果トランジスタ(FET)によるバイオセンシング高村 禅北陸先端科学技術大学院大学2020.10.26
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4-3-2 イオン電流 ナノポアと機械学習を用いたウイルス検査筒井 真楠,鷲尾 隆,川合 知二大阪大学2020.7.6
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4-3-3 インピーダンスでPCRをモニターする:ウイルス検出小型・可搬型リアルタイムPCRの実現へむけて山下 一郎,信澤 和行,
Huanwei Han大阪大学2020.7.27
4-4 力(粘弾性)による検出技術
5 関連技術
編集委員
藤原 康文(大阪大学), 平野 嘉仁(三菱電機), 久保野 敦史(静岡大学), 栗村 直(物質・材料研究機構), 眞正 浄光(東京都立大学), 武田 健一(日立製作所), 民谷 栄一(大阪大学), 豊田 晴義(浜松ホトニクス), 納谷 昌之(富士フイルム), 前畑 京介(帝京大学), 苅米 義弘(事務局), 五十嵐 周(事務局)