会長あいさつ
会長就任にあたって
新型コロナウイルスの急拡大で,近い将来ですら予測の難しい時代に突入しました.この2年間に,緊迫した国際情勢,SDGsの急速な普及や2050年カーボンニュートラル目標の設定,国家レベルでの半導体戦略の見直し,DXの推進や自動運転技術の目覚ましい進展など,大きな変化が立て続けに起こりました.その多くは応用物理に密接に関連しています.応用物理は社会を根幹で支え変革を可能とする学問・技術領域といっても過言ではありません.
この度,公益社団法人応用物理学会の第61期・62期の会長に選任されました.応用物理学会の目的は,応用物理学・関連学術分野の研究促進・成果普及により社会の発展に寄与することです.より複雑化し多様化する社会にあって,応用物理学会の役割はますます重要になりつつあります.応用物理学会の事業運営に全力をもって貢献したいと思います.
現在の応用物理学会の運営体制は,歴代会長のさまざまな改革により築かれてきました.財満鎭明前々会長は盤石な財務体制を確立されました.波多野睦子前会長はコロナ禍をむしろ変革のチャンスと捉え,学会運営をフレキシブルに変化させる体制を整えられました.この安定した運営基盤の上で私たちはより自由に新事業に挑戦することが可能になっています.
今期発信したいことは,第1に学術講演会の「対面重視」の姿勢です.オンライン会議では,多くの人が集まり混沌からイノベーションを生みだすという応物特有の力が失われつつあります.状況が許すかぎり学術講演会については感染対策を万全としたうえで「皆が集まる」ことを軸としたハイブリッド開催とし,本来の活性化した応物を取り戻します.一方,各種委員会などは適宜オンラインとします.
第2は,応用物理学会における企業の重要性です.応物の特徴は何といっても産業界や社会との接点が多いことです.しかし企業からみた学会の役割は,成果発表の場から情報収集・ネットワーク構築へと変化してきました.これを受けて,昨年は産学連携委員会という新しい企業参加型の枠組みを立ち上げました.今期も学術のみに偏らず社会実装まで視野に入れた応物ならではの企画・仕組みを企業の皆さんと検討していきます.
第3は,人材育成・教育の重要性です.これまで実績を挙げてきた小中高生向けのリフレッシュ理科教室に加え,企業の若手向け教育,リカレント教育にも注力します.突然追い風となった半導体を例にとっても,アカデミア・産業界を問わず地道な人材育成が手薄になっていた可能性があります.応物に揃(そろ)っている錚々(そうそう)たるシニアな会員の知見を活用し,基礎から実践までさまざまなレベルの教育プログラムを提供していきたいと考えています.
会員数の減少など難しい課題は山積していますが,機関誌・論文誌出版,支部,分科会,研究会・新領域グループ,チャプターなどでも,ダイバーシティ&インクルージョンを進めつつサービス向上に努め,優秀な事務局スタッフとともに学会運営に邁進(まいしん)してまいります.これから2年間,どうぞよろしくお願い申し上げます.

応用物理学会 会長
東京大学生産技術研究所