特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 PCR法による検査(原理) アブストラクト 永井秀典 産業技術総合研究所
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まって以来,各都道府県から毎日発表されるPCR検査の結果に一喜一憂することも多くなりました.
PCRとは「Polymerase Chain Reaction」(ポリメラーゼ連鎖反応)の略で,ターゲットとするDNAのコピーを大量に作成する方法として開発され,バイオテクノロジーや事件捜査(鑑識)など,さまざまな分野で活用されています.
新型コロナウイルス感染症の場合は,鼻から採取した粘膜や口から採取した唾液の中に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2ウイルス)が含まれているかどうかを調べるために使われます.
その人が陽性でウイルスを持っていれば,PCR検査によってDNAが大量に複製されて検出が可能になります.一方,その人がウイルスを持っていなければ,PCR検査を行ってもDNAは複製されません.
なお,新型コロナウイルスはDNAではなくRNAを持つタイプですので,RNAからDNA(相補DNA)を作成する逆転写(Reverse Transcription)というステップを最初に行う必要があり,そうしたPCRは専門的にはRT-PCRと呼ばれます.
結合させて2本鎖DNAを複製するステップを,温度を上下させながら繰り返していく.
PCRでは,検体(鋳型DNA),検出したいDNAの一部に合致する短いDNAプライマー,DNAの材料となる核酸モノマー(ヌクレオチド),それらを結合させるポリメラーゼ酵素を混合したのち,温度をおよそ90 %deg;Cに上げて2本鎖DNAを1本鎖に分離するステップと,温度を下げてDNAを複製するステップとを繰り返します.プライマーに適合するDNAが検体に含まれていれば,DNAは2倍,4倍,8倍と増えていきます.
ただし,温度の上げ下げにはどうしても時間がかかるため,検体採取,前処理,後処理を含めた検査時間をいかに短縮するが課題になっていました.
本稿の後半では,数十µm〜数百µm幅の微小な「マイクロ流路」を用いて,温度の上げ下げ時間を従来の数分の一に短縮した技術を紹介しています.すでに検査機器メーカーから製品化されていて,PCR検査時間の短縮に寄与することが期待されます.