特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 次世代検査/評価技術 局在・表面プラズモン共鳴 アブストラクト 羅希,寺田侑平,齋藤真人 大阪大学

本稿で取り上げている「表面プラズモン共鳴」は,物理学の中でもイメージが掴みにくい現象のひとつでしょう.

まず,プラズモン(plasmon)という聞き慣れない言葉について説明しましょう.雷やオーロラの発光はプラズマ(plasma)の働きによってもたらされています.プラズマとは気体の電子と原子核とが離れてそれぞれが自由に動き回る状態を指します.これを固体の金属に当てはめてみると,金属内部ではそれぞれの原子から電子が離れ自由に動き回っていて,プラズマと似た状態にあると考えられます.この自由電子の振動(プラズマ振動)をプラズモンと呼んでいます.

とくに金属の表面では,入ってきた光(電磁波)の特定の波長とプラズモンの振動とが共振を起こすことが分かっていて,これを「表面プラズモン共鳴」と呼びます(図a).さらに,金属表面にnmオーダーの凹凸があると,表面プラズモンはナノ構造の近くに集中して「局在表面プラズモン共鳴」が起こり(図b),共鳴波長に応じた色として見えます.実はこうした現象はステンドグラスや江戸切子の着色原理にもなっています.

図 (a) 表面プラズモン共鳴の概略,(b) 局在表面プラズモン共鳴の概略,
(c) 特定の物質と結合させたときの光学特性の変化の例

局在表面プラズモン共鳴の代表的な応用がバイオセンサーです.

ナノ構造を持たせた金属薄膜の裏面に,特定のタンパク質や抗体と結合するリガンドを付着させておきます.リガンド側に試料を流したとき,対象とする物質が含まれていればリガンドに結合して薄膜の電気的特性がごくわずか変化し,その結果プラズモンの共鳴波長もわずかに変化して,最終的には薄膜表面の吸収波長や色の変化として現れてきます(図c).それを光学的に読み取って電気信号として出力することで,対象物質の存在を検出する仕組みです.

リガンド次第で,さまざまな抗体,ホルモン,アレルギー,がんマーカーなどの検査が可能です.電気信号として出力されるため,検査の効率化も図れます.

本稿では,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で重症化の一因となっているサイトカイン(免疫情報伝達物質)を検出するバイオセンサーの研究状況についても報告されています.

表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーはまだまだ発展の余地があり,感染症への応用を含めて,今後の開発が期待されます.

(要約作成・関 行宏=テクニカル・ライター)
注:本稿は2020年7月下旬時点の情報に基づいています