特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 X線CTとAI画像診断1 —新型コロナウイルス感染症とCT検査の果たす役割— アブストラクト 木暮陽介 順天堂大学医学部附属順天堂医院
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は別名を新型肺炎と呼ばれるように,肺炎が典型的な症状のひとつとして現れます.肺炎とは文字通り肺が炎症を起こした状態を指し,咳,息苦しさ,胸の痛み,発熱などが自覚され,ときには重症化する場合もあります.
肺炎の診断に用いられる手段のひとつが,放射線の一種であるX線を使った,健康診断でもおなじみの胸部X線画像(レントゲン写真)です.肺が炎症を起こしていると,本来は黒く写るはずの肺に白いもやもやが見られるようになります.
一般的な胸部X線画像は平面画像ですが,体の周囲からくまなくX線で撮影したのち,コンピュータによって輪切り画像や立体画像を合成する装置が1970年代に開発されました.コンピュータ断層撮影を意味する「Computed Tomography」の頭文字を取って「X線CT装置」と呼ばれています.
日本は人口あたりのX線CT装置の台数が世界一多く,新型コロナウイルス感染症の診断・診療にも積極的に活用されています.X線CT装置は技術革新がめざましく,さらなる高画質化が進んでいるおかげで,細部まで明瞭な画像が得られるようになっています.
新型コロナウイルス感染症による肺炎の場合,他の肺炎とは異なり,X線CT画像にはすりガラス状の陰影や網状の「crazy-paving pattern」(図)が特徴として現れることが,これまでの症例から分かってきました.
そうした画像の読み取り(読影)には経験を要しますが,AI(人口知能)をその一助に使おうという取り組みが始まっています.なかでも画像認識を得意とするディープラーニング(深層学習)技術の応用研究が盛んです.
中国の武漢市黄陂区人民病院で行われた研究では,4,352枚の3次元肺炎画像の中から新型コロナウイルス感染症による肺炎画像をディープラーニングを用いて抽出させたところ,感度(問題ありを問題なしとしない)90%,特異度(問題なしを問題ありとしない)96%など,優れた読影性能を示したことが報告されています.
X線CT装置は,さらなる低線量・高画質化に向けた開発が進められていますが,今後はAIの活用にも期待が寄せられています.