特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 低温プラズマを用いたウイルスの不活性化(-ウイルス滅のプラズマ刃-) アブストラクト 堀 勝 名古屋大学,伊藤 昌文 名城大学

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防ぐには,三密を避ける,マスクを着用する,手洗いを励行する,といったひとりひとりの心掛けが大切であるのと同時に,物体表面に付着しているウイルス(SARS-CoV-2ウイルス)や空間を漂っているウイルスを「不活化」することが効果的です(ウイルスは代謝の仕組みを持っていないため生物とはみなされておらず,殺菌や滅菌ではなく不活性化や不活化という言葉が使われます).

アルコールや洗剤でウイルスの外殻(エンベロープ)を破壊する方法,波長が260nm付近の紫外線を照射してウイルスのRNAに損傷を与える方法(「期待される殺菌用・深紫外LED」および「深紫外光とウイルス不活化への応用」),HEPAフィルターの空気清浄機を通して捕捉する方法(「空気中のウイルスの捕集」),単純に加熱する方法などが一般に知られています.

図. 名古屋大学低温プラズマ科学研究センターで開発した大気圧プラズマ装置

本稿で提案されているのが「大気圧低温プラズマ」を使った方法です.

プラズマは気体分子の陽イオンと電子とが分離した状態を指し,独特の淡い光を放つのが特徴で,オーロラや雷は自然界におけるプラズマの代表と言えます.身近なところでは蛍光灯やネオンサインがプラズマを利用して発光しています.

気体を数千度以上に熱するとプラズマになりますが,生成するのも扱うのも大変です.より実用的なのが,アルゴンやヘリウムなどの貴ガスに強い電界を与えて常温・常圧で発生させる大気圧低温プラズマです.

大気圧低温プラズマは,工業品の表面処理,医療器具や食品の滅菌,がんや皮膚病などの治療,植物の栽培促進など,幅広い分野ですでに利用されています.

どのような原理で大気圧低温プラズマによって細菌が死んだりウイルスが不活化されるのか,その詳しいメカニズムは解明されていないそうですが,プラズマによって発生する酸化力の強い活性酸素によって破壊されるのではないかと考えられています.

プラズマが最強の武器となって鬼であるウイルスを倒す様子を,執筆者は人気のマンガに例えて「ウイルス滅のプラズマ刃」と表現しています.実際に,紫外線に比べてより短時間で不活化が可能で,環境への残留もなく,変異株を含むあらゆるウイルスに対しても有効といった特徴があります.

大気圧低温プラズマはがん細胞を死滅させる働きもあり,今後,応用技術の発展や装置の小型化・低価格化によって,「プラズマ刃」は人類の強力な武器になってくれるでしょう.

(要約作成・関 行宏=テクニカル・ライター)
注:本稿は2021年2月末時点の情報に基づいています