特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 血中酸素濃度計:パルスオキシメータ アブストラクト 小林 直樹 日本光電工業株式会社

空気中の酸素(O2)は私たちの生命の維持に欠かせない存在で,肺で取り込まれ赤血球に含まれるヘモグロビンと結合し,動脈を通って全身の組織に供給されます.仮に心肺機能が低下すると,体に酸素が行き渡らず,息苦しさを感じたりときには深刻な病状に陥ることもあります.

酸素を体内に適切に取り込めているかを把握するために,「動脈血酸素飽和度」または単純に「酸素飽和度」という指標が古くに考案されました.すべてのヘモグロビンのうち,動脈中で酸素と結合しているヘモグロビンの割合を表した値で,健康な人であれば95〜99%程度を示します.

酸素飽和度を求めるにはかつては採血が必要でしたが,1974年に日本光電工業の青柳卓雄氏が,体を透過した光の変動を利用して脈拍と酸素飽和度を測定する画期的な「パルスオキシメータ(pulse oximeter)」の原理を発明しました.その後メーカーの技術開発によって指先を挟むだけの小型パルスオキシメータも実用化され,今ではなくてはならない医療機器のひとつになっています.

なお,パルスオキシメータで測定した酸素飽和度は「SpO2」と表記されます.Sは飽和のSaturation,pは脈拍:pulse,経皮:percutaneous,末梢:peripheral などを意味します.

図 赤色光と赤外光の透過によって酸素飽和度を求めるパルスオキシメータの測定原理

パルスオキシメータの構造は比較的簡単で,指の爪に波長660nm前後の赤色光と波長900nm前後の赤外光を当てて,指紋のある側でそれぞれの透過光を受光します(図).

ヘモグロビンは,酸素と結合しているときは赤く見え,結合していないときは赤い光を吸収し黒っぽく見えます.一方で赤外光の吸収は結合の有無でほとんど変わりません.つまり,酸素と結合していないヘモグロビンが多ければ,赤外光に比べて赤色光だけがより多く減衰することになります.こうした性質を利用して,ふたつの波長の透過光の減衰率から酸素飽和度を求めるのが,パルスオキシメータの仕組みです.

パルスオキシメータは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の病状把握や回復後の経過観察でも活用されています.病状が短時間のうちに重症化する場合もあり,SpO2のモニタリングはきわめて重要といえます.

(要約作成・関 行宏=テクニカル・ライター)
注:本稿は2020年8月下旬時点の情報に基づいています
パルスオキシメータの原理を発明した青柳卓雄氏は2020年4月に老衰のため亡くなられました.
その功績に敬意を表します.