特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 人類と感染症 アブストラクト 村上 裕彦 株式会社アルバック 未来技術研究所

人類は誕生以来さまざまな感染症と闘ってきました.たとえば,今からおよそ100年前には通称スペイン風邪が世界的に大流行し,全世界の死者数は数千万人に達したとされています.ペストや天然痘なども多くの人を苦しめてきました.

こうした感染症は細菌またはウイルスによって引き起こされます.ちなみにスペイン風邪はインフルエンザウイルスの一種が原因でした.

ウイルスは遺伝情報となるDNAまたはRNAという核酸を内部に持っていますが,変異(遺伝情報の変化)のスピードがきわめて速く,しかも,宿主であるコウモリなどの野生動物と人間とが接する機会が増えたこともあって,人間に感染する新たなウイルスがしばしば登場するようになっています.

2002年に中国広東省で発生したSARS,2012年に中東で発生したMERS,そして2019年年末に中国武漢で発生し世界へと広まった新型コロナウイルス感染症「COVID-19」のいずれもが,新たなウイルスによって引き起こされています.

(c) 2020 JSAP.
図 現在発見されている7種類のコロナウイルス

新型コロナウイルス感染症は,コロナウイルスに分類されるウイルスの一種を病原としています.コロナ(corona)とは王冠(crown)を意味するギリシャ語で,太陽を囲むプラズマがコロナと呼ばれるのと同じように,王冠の装飾に似た突起(スパイク)がウイルスの周囲に見られることからそう呼ばれています.

人間に感染するコロナウイルスは現在7種類が見つかっています(図).一部の風邪の原因とされるのが4種類と,先ほど挙げたSARSとMERS,そして新型コロナウイルスです.

細胞膜に覆われている細菌とは違って,新型コロナウイルスを含むウイルスの多くはエンベロープと呼ばれる脂質の膜で覆われています.石鹸やアルコールが感染対策として有効とされるのは,これらが脂を溶かす性質を持つためで,エンベロープが壊されることでウイルスの機能は失われます.

人間などの宿主の体内に取り込まれたウイルスは,気管や肺などの細胞の内部に巧みに入り込み,DNAまたはRNAを複製するとともにエンベロープの元になるタンパク質を生成して増殖していきます.

(要約作成・関 行宏=テクニカル・ライター)
注:本稿は2020年5月末時点の情報に基づいています