特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 K値を用いたCOVID-19の感染状況のマクロ解析 アブストラクト 中野 貴志 大阪大学核物理研究センター
感染症が発生した場合,感染の広がり(伝播・でんぱ)を予測するために,数理モデルを用いたさまざまシミュレーションが行われます.なにも対策しなかった場合の最悪のシナリオはどうなるか,それぞれの感染防止策に対してどの程度の効果が期待できるか,医療体制はどこまで耐えられるか,収束はいつごろ見込まれるかなど,シミュレーションから得られた知見は感染対策や政策決定に活用されます.
同時に,感染者数や死亡者数などの日々のデータからさまざまな指標が導き出され,感染状況の把握や対策効果の検証が行われます.
指標としては,陽性率=陽性者数÷PCR検査数,死亡率=一定期間における死亡者数÷総人口,増加率=ある期間の新規陽性者数÷その前の期間の陽性者数,などがあり,式は省略しますが一人の感染者が何人に感染させるかを表す実効再生算数も重要な指標として使われています.
本稿で紹介している「K値(K indicator)」は,執筆者が独自に開発した指標で,一週間の感染者数を累積の感染者数で除して求めたもので,累積感染者数推移を指数関数で近似した場合の指数係数の時間微分に対応します.一週間を期間として設定しているのは,曜日ごとの変動の影響を排除するためです.
ここで,
K(d):日付dにおけるK値
N(d):日付dにおける累積感染者数
N(d-7):日付dから直近7日前までの新規感染者数
K値は0から1の範囲をとり,新規感染者数の増加が少なくなるほど0に近づきます.また,感染の波があったとき,経過日数の関数として一定の傾きで減衰することが,いくつかの国を対象にした分析から明らかになっています(図).すなわち,傾向の大まかな把握に用いることができるのではないかと考えられています.
ただし,冒頭で述べたような数理モデルではないため,新たな流行の波の発生を予測する目的などには適しません.また,流行の波が発生するごとに,算出の前提となる累積感染者数をリセットして考える必要があるなど,運用と解釈には若干の注意が必要です.
K値は新たな提案のひとつであり,今後,論文の査読(ピア・レビュー)や実効性の検証が進められていくでしょう(※).
本コラムの続編として「新型コロナ感染流行ダイナミクスの理解と施策の評価」(2023年2月)があります.