特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 非接触体温計測 アブストラクト 木股 雅章
体温は体の健康状態を知るもっとも基本的な指標です.古くは水銀体温計が使われていましたが,最近は電子式が主流で,測定値の変化から予測して30秒程度の短い時間で検温できる製品も増えています.
新型コロナウイルスの発生で注目されているのが「非接触温度計(体温計)」です.温度分布がカラーで示されるサーモグラフィー・カメラで映している様子や,スポット式の小型の器具をおでこにかざしている様子を,テレビのニュースなどでご覧になったかたも多いでしょう.
非接触での測定は,測定時間が短いこと,相手に負担を掛けずに済むこと,体温計を毎回消毒しなくて済むこと,などのメリットがあり,空港の入国ゲートのほか,ビルや施設の入場口で使われています.
非接触温度計は物体(人体)の赤外線放射を計測して温度を求めています.たとえば鉄を熱すると数百℃で赤くなり,さらに熱するとオレンジ色から黄色へと色が変わっていきます.色は温度に依存するため,色が分かれば温度が分かるという仕組みです.
実は私たち自身もそうした光(電磁波)を発しているのですが,可視光(380nm〜780nm)の範囲を超えて波長が数µmから10µm程度と長い赤外線なので,肉眼で捉えることはできません.
その代わり,赤外線を検出できる特殊なセンサーを使うことで,人体や物体の温度を測定することができるのです.
赤外線センサーにはさまざまな方式がありますが,一般的な非接触温度計に使われることの多いタイプのひとつが,温度による電気抵抗の変化を検出するタイプです.こうしたセンサー・デバイスは,レンズによって集められた赤外線のエネルギーによってセンサーの温度が適切に変化するよう,熱の伝わりやすさを示す熱コンダクタンスの低減などを主な柱に,さまざまな技術改良が加えられています.
一見すると便利そうな非接触体温計ですが,外気温の影響を受けやすい,おでこや頬など測定箇所によって温度が異なる,病気の診断に必要となる体の深部の体温は測定できない,といった課題があります.実際にある人物の顔を撮影した画像(図)からも,おでこや目の周辺は比較的温度が高い(黄色)のに対して,口や頬の周辺は温度が低い(赤)ことが分かります.そうした制約を理解したうえで利用するといいでしょう.