特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 期待される殺菌用・深紫外LED アブストラクト 永松 謙太郎1,安井 武史1,平山 秀樹2,1 1徳島大学,2理化学研究所
人の目に見える光よりも波長の短い光は「紫外線」あるいは「UV」(Ultraviolet) と呼ばれます.紫外線は波長によって性質に違いがあり,図の「UV-A」として分類される波長の範囲は日焼けを起こすことで知られています.
殺菌や消臭に利用されているのが,波長が100nm〜280nmの「UV-C」あるいは「深紫外線」です.なかでも波長が260nm前後の紫外線は細菌やウイルス内部のDNAまたはRNAを破壊する働きがあることが知られていて,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2ウイルス)に対しても活性を失わせる効果があります.
UV-C 波長の紫外線を細菌やウイルスに照射するには光源が必要で,従来は専用の水銀ランプなどが用いられていましたが,最近は小型で扱いやすい LED(発光ダイオード)が主流になっています.
半導体から光を得るLEDが発明されたのは1960年代のことで,当初は波長の長い赤色のみでした.その後,技術の進歩とともに緑色LEDや青色LEDが開発されますが,UV LED の実用化は2000年代まで待つ必要がありました.
紫外領域の光を発する半導体材料の開発,発光の安定化と実用に耐える高品質化および長寿命化,発光効率の向上など,さまざまな技術的障壁を乗り越える必要があり,長い時間を必要としたためです.
なお,半導体内部の電子や陽子はエネルギー的に不連続なバンド(帯)に存在すると考えられていて,電子が満たされた価電子帯と,電子がほとんどない伝導体との間を,バンドギャップ(禁制帯)と呼んでいます.LED の発光波長はバンドギャップ・エネルギーに反比例するため,UV LEDの開発の歴史は,バンドギャップの広い半導体材料の開発の歴史とも言えます.
本稿では,現在の主流になっているアルミニウム (Al),ガリウム (Ga),および窒素 (N) を組み合わせた窒化アルミニウム・ガリウム (AlGaN) などの材料や,UV LED の構造について説明しています.
合わせて,従来の5倍の高効率化が得られるという,執筆者らが手掛けている新たなLED構造についても触れられています.
UV-C は,取り扱いに注意は必要ですが,複雑な形状の表面に存在する細菌やウイルスもくまなく殺菌・不活化できるなど効率的です.ウイズ・コロナ時代にますます活用が広がっていくでしょう.