公益社団法人 応用物理学会

特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 DNAシーケンサ アブストラクト 武田 健一 日立製作所 研究開発グループ

DNA(デオキシリボ核酸)は「生命の基本設計図」とも呼ばれます.アデニン(A),グアニン(G),シトシン(C),チミン(T)と名付けられた4種類の塩基(有機化合物)のいずれかが0.3 nm(ナノ・メートル)間隔で並んだ一本鎖(いっぽんさ)DNAがペアとなって,有名な二重らせん構造を形作っています(図).

DNAにはAGCTの配列によって遺伝情報が記録されていて,それら配列全体を「ゲノム」と呼びます.

ゲノムの解読は,生命の進化や病気の解明などに有益な情報をもたらしてくれます.実際に,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2ウイルス)の解明のほか,創薬やワクチン開発,再生医療,難病治療,イネなどの品種改良,犯罪捜査などに広く活用されています.

AGCT配列の解読作業をDNAシーケンシング(またはDNA配列解析)と呼び,これを行う専用の装置を「DNAシーケンサ」と呼びます.DNAシーケンシングでは,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性確認にも用いられている,DNAの部分的な複製を大量に作り出すPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)などの手法が活用されています.

なお,新型コロナウイルスは,DNAではなく一本鎖のRNA(リボ核酸)をゲノムとして持っています.そのままでは処理できないため,逆転写酵素という特殊な酵素を用いてRNAの情報を相補的DNA(cDNA)に転写してからシーケンシングを行います.

シーケンシング方式の開発や高性能なDNAシーケンサの登場によって,ゲノム解読技術は日々進化を続けています.現在市販されているDNAシーケンサは主に四つの世代に分類されます.

  • 第一世代:サンガー法に電気泳動を組み合わせたシーケンシング方式を採用.装置がコンパクトでデータの信頼性が高いため,今も根強い人気があります.
  • 第二世代:基板上に多数のDNA断片を固定しDNA合成反応を行いながら,シーケンシングする方式.処理の並列度を高めて速度を向上させています.
  • 第三世代:平均で1万程度の塩基長を一度に読み取れる一方で,1回の読み取りでは誤差が大きいという課題があります.
  • 第四世代:DNA分子の物理的・化学的性質を直接読み取る方式です.たとえば,微小な穴に一本鎖DNAを通したときに,塩基の種類によって流れる電流が変化する性質を利用して塩基の配列を読み取る,これまでにない方式のシーケンサです.
図 二重らせんを形づくっているDNAの構造
(要約作成・関 行宏=テクニカル・ライター)
注:本稿は2020年6月中旬時点の情報に基づいています