特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 X線CTとAI画像診断2 AIによる画像診断支援 アブストラクト 藤田 広志 岐阜大学
AI(アーティフィシャルインテリジェンス:人工知能)という言葉をよく目にするようになりました.AIは広い意味を含みますが,コンピュータの中に擬似的な神経網(ニューラルネットワーク)を作って,画像の分類,音声の認識,文章の翻訳などを実現する「ディープラーニング」と呼ばれる技術を指すことが一般的です.ちなみにディープとは,ニューラルネットワークの層が多い(深い)ことを意味しています.
ディープラーニングが得意とするのが画像の認識です.そのためX線検査や超音波検査など数多くの画像を扱う医療分野とは相性が良く,画像から病気を診断するシステムの開発が大学病院や医療機器メーカーで進められています.一部はすでに実用化され,医師と同等レベルの読影(画像から病変や異常を読み取ること)精度も実現されています.
なお,ラーニングという言葉が入っているように,ディープラーニングではコンピュータに「学習」させる作業が必要です.健康な人の画像と,ある疾患の画像をそれぞれ大量に読み込ませ,ニューラルネットワークの構造を決めていきます.
胸部CT画像に写ったすりガラス状の病変をディープラーニングで検出し,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の肺炎の診断に役立てようという取り組みが,世界中で急ピッチで進められています.なおCTとは,X線を使って体の断面を撮影する装置です.
研究や評価用にCOVID-19の多数の症例を集めた胸部CT画像のデータベースがカナダやロシアなどで構築されているほか,臨床用の診断支援システムがイスラエルや中国などから製品化されています.また,米マウントサイナイ医科大学からは,COVID-19患者の胸部CT画像をディープラーニングに与えたところ,経験豊かな放射線科医師よりも検出精度が高かった,という報告も上がっています(図).
Reprinted by permission from Springer Nature: Nature Medicine, X.Mei, H-C.Lee, K.Diao, et al. (19 May 2020)
日本は人口あたりのCTの保有台数が世界一多く,新型コロナウイルス感染症の診断でも積極的に活用されています.ディープラーニングを活用することで,医師の負担を減らしつつ,より精度の高い診断が実現できるのではないかと期待されています.