特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 電界効果トランジスタ(FET)によるバイオセンシング アブストラクト 高村 禅 北陸先端科学技術大学院大学
金属は電気を通す一方で,ゴムやプラスチックは電気を通しません.前者を導体,後者を絶縁体と呼びます.半導体(セミコンダクター)は両者の性質を合わせ持った材料で,導通状態と絶縁状態とを外部から制御できるのが特徴です.
半導体材料を使った代表的なデバイスが,多くのデジタル回路に用いられているFET(Field effect transistor:電界効果トランジスタ)です.
三つの端子を持つFETはスイッチのような素子で,ゲート端子に電圧を与えるとソース端子とドレイン端子の間が導通して電流が流れます.
この性質を利用して,電解液や溶液に含まれる生体関連物質によってスイッチを作動させようというアイディアが生まれました.こうした素子を「FETバイオセンサ」と呼んでいます.
本稿ではFETバイオセンサの原理や構造を説明しています(図).スイッチの制御端子に相当するゲートは,通常のFETでは半導体材料であるシリコンを用いて形成しますが,バイオセンサでは検出したいターゲットの生体分子にのみ結合するプローブ分子と電解液などで構成します.プローブ分子としては,抗体,人工的に合成したDNA片,酵素などが用いられます.
プローブ分子にターゲットとなる細菌やウイルスなどが結合すると,FETがオンとなってソースとドレイン間に電流が流れます.その特性の変化(図(c) の電圧-電流カーブ)からターゲット物質の存在を検出するのがFETバイオセンサの大まかな原理です.
なお,通常はゲートの下側にごく薄い絶縁膜を設けますが,ゲート端子に与える電圧が低く,かつ,溶液がFETの基板材料に対して電気化学的に作用しない場合,絶縁膜を省略して検出感度を高めることが可能です.こうした構造を電気二重層トランジスタと呼び,その概要についても紹介しています.
バイオセンサには特別WEBコラムの他のトピックで紹介しているようにさまざまな方式があり,その中でFETバイオセンサは,コストがやや高いといった課題がありました.ただここ最近は急速な勢いで研究開発が進んでいて,新型コロナウイルス(SARS-CoV-2ウイルス)の存在をシート状の炭素原子(グラフェン)を用いて直接検出するFETバイオセンサも試作されるなど, 今後の進化が注目されています.