カーボンニュートラルへの静かなるエネルギー革命
パワー半導体のデバイス開発から最先端の学術研究まで シンポジウム『奮闘する日本の先端パワー半導体』
【開催概要】
- 経済産業省から清水英路氏が登壇し,パワー半導体を政策面から語る.
- パワー半導体の世界市場で確固たるシェアを持つ三菱電機から西川和康氏が登壇.
- 九州大学応用力学研究所,産業技術総合研究所,名古屋大学未来材料・システム研究所などアカデミアからもキープレイヤーが集結.
公益社団法人 応用物理学会(東京都文京区)は,第85回応用物理学会秋季学術講演会(2024年9月16日(月)~20日(金))を朱鷺メッセ(新潟市)ほか2会場およびオンラインで開催します.その一環として,2024年9月17日(火) に一般の方を対象としたシンポジウムを朱鷺メッセおよびオンラインで開催.このシンポジウムは,2050年カーボンニュートラルを実現するうえでキー・テクノロジーとなるパワー半導体の企業による最新のデバイス開発動向から,大学や国立研究所等における最先端の学術研究までが一堂に会します.経済産業省から清水英路氏,サンケン電気から吉江徹氏,ロームから喜多川聖也氏,三菱電機から西川和康氏,ミライズテクノロジーズから藤原広和氏,九州大学応用力学研究所から齋藤渉氏,産業技術総合研究所(AIST)より田中保宣氏,名古屋大学大学院工学研究科,兼未来材料・システム研究所より須田淳氏そして長岡技術科学大学より日下佳祐氏が参加し,講演を実施します.シンポジウムの参加申込は下記をご覧ください.皆様のご参加をお待ちしております.
パワー半導体の性能向上は,静かなるエネルギー革命
発電やデータセンターなどの社会インフラから,身近なところではスマートフォンや冷蔵庫,電気自動車まで,あらゆるデバイスの制御と電力の変換を行うパワー半導体は,この社会を支える半導体だ.2050年のカーボンニュートラルを実現するために欠かせない技術の一つとされており,日本は国を挙げてその高性能化および社会実装に取り組んでいる.
「基本的に,電気で何かを動かす際には必ずパワー半導体が関わってきます.この技術は特定の分野に限らず,社会のあらゆる場面で重要な役割を果たしています.たとえばパワー半導体は電力系統における交直・周波数変換や電車,自動車におけるモーターの制御,エアコンや冷蔵庫等のインバータ,データセンターやPC,スマホ等の電源など幅広い分野で使われており,電気・電子機器を動かす元となります.つまり,パワー半導体の性能向上こそが,カーボンニュートラルに向けた静かなるエネルギー革命と言えるのです」と同シンポジウムの世話人である先進パワー半導体分科会(常任)企画幹事の児島一聡氏(産業技術総合研究所)は話す.
とくに現在は次世代半導体であるSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった,「ワイドバンドギャップ半導体※」に注目が集まっており,企業や研究機関で開発が進められている.また,日本が誇る自動車産業にとって,電気自動車の車載向けパワーデバイス開発が加速していることも,近年の動向である.
「産業用として,最先端のパワー半導体が車載向けに注力し,開発されていることは注目すべきポイントです.昨年から各社が工場への投資を増加させているニュースが多く報じられていますが,特に車載向けの需要が高まっており,この分野が重要な焦点となっています.また,日本各地でパワー半導体の製造が進められる中,新潟県は積極的に工場やファウンドリー(受託生産会社)の誘致を進めています」と同シンポジウムの世話人である先進パワー半導体分科会副幹事長の矢野裕司氏(筑波大学)は話す.
今回のシンポジウムでは,経済産業省の清水英路氏による,パワー半導体に関する国および地方自治体の取り組みについて,サンケン電気の吉江徹氏,三菱電機の西川和康氏をはじめとするデバイスメーカーによるパワーデバイス開発と応用の現状,さらに産業技術総合研究所の田中保宣氏らによる大学や国立研究機関による最先端の研究開発状況が紹介される.講演を通じて,日本の先端パワー半導体技術の現状と,2050年のカーボンニュートラル実現に向けた業界動向を広く,深く知ることができる内容だ.
パワー半導体を通して見る世界と日本,そしてこれから
同シンポジウムでは,国内外のパワー半導体開発における最新動向,具体的な社会実装例などが,三菱電機やロームといった世界的なプレイヤーの講演によって語られる.世話人によるコメントともに,招待講演の一部を紹介する.
『パワーデバイスの進化と応用機器の動向』 西川 和康氏 (三菱電機株式会社)
三菱電機の西川和康氏による講演では,これまでのパワーデバイスの進化と応用機器の変遷,SiCパワーデバイスの開発状況とその応用機器について紹介される.具体的な応用例として紹介されるものに,SiCパワーデバイスによる鉄道車両用システムがある.鉄道車両システムでは,SiCの適用により電力消費源であるモーター損失と機械式ブレーキ損失が低減し,鉄道システム全体の消費電力を約30%,インバータの重量を約65%減少させている.「パワー半導体はEVやハイブリッド車など,自動車の応用例が目立ちますが,三菱電機が開発するような鉄道車両システムに使われています.社会インフラに活用されることで,エネルギーの効率的な社会利用を促す好例です」と同シンポジウムで世話人を務める栗村直氏(NIMS)は話す.
『ロームが取り組むワイドバンドギャップ半導体』 喜多川 聖也氏 (ローム)
ロームは業界トップクラスのSiC(炭化ケイ素)や従来型Si(シリコン),GaN(窒化ガリウム)など,ワイドバンドギャップ半導体材料を次々に採用し,パワー半導体を提供している.近年,GaNデバイスとしてノートPCのACアダプターでの採用が始まり,データセンター用電源への採用検討も進んでいる.こうした状況を受け,ロームは2022年に第一世代 GaN HEMT (EcoGaN™) の量産を開始している.「これからの時代,AIやビッグデータの活用に伴い,データセンターの電力消費量が何十倍にも増加すると予測されています.そのため,効率の良い電源の確保は非常に重要です.自動車分野だけでなく,情報系の分野においても,効率的な電力管理がますます重要になると考えられます」と同シンポジウムの世話人である先進パワー半導体分科会(常任)企画幹事の土方泰斗氏(埼玉大学)はコメントする.
『SiC パワー半導体の現状と今後の展開』 田中 保宣氏 (産業技術総合研究所)
EVの世界規模の普及に伴い,SiCパワーデバイスの社会実装が急進展している.こうした背景を受けてグローバルな市場で各企業がSiCパワーデバイスのシェア獲得競争を繰り広げる中,日本のパワーデバイスメーカーは遅れを取っている.これからの10年,20年先を見据えた持続的な産業競争力強化のためには,産業界とアカデミアの連携を強化し,次世代技術を開発することが不可欠となる.本講演では,モビリティを中心に普及が進むSiCパワーデバイスの社会実装の現状および課題について紹介される.
「日経ビジネスによる2023年の半導体メーカー別売上ランキングを見ると,日本の三菱電機,富士電機,東芝,ロームは世界市場で依然として重要な位置を占めています.これらの企業が合計で市場の約17%を占めており,日本のパワーデバイス業界は依然として競争力を持っています.しかし,中国の台頭により,半導体ロジックやメモリ分野で日本がシェアを失った過去のように,再び同じ道を辿る危険性があります.産業とアカデミアが連携し,新しい材料技術に積極的に取り組むことが必要です.日本は現在もパワーデバイス分野で世界と競争しているという認識を広めるために,このシンポジウムが何らかの役割を果たせればと思っています」と同シンポジウムの世話人である先進パワー半導体分科会幹事である新井学氏(名古屋大学)は意気込みを語る.
日本を代表するプレイヤーたちの講演とともに,参加するすべてのひとが静かなるエネルギー革命の一翼を担うきっかけとなることが期待される.
編集・執筆/森 旭彦
【スケジュール】
シンポジウム『奮闘する日本の先端パワー半導体』
- Opening 10:30 〜 10:35 矢野 裕司 (筑波大学,先進パワー半導体分科会副幹事長)
- 1) 応用物理学会会長挨拶 10:35 〜 10:50 木本 恒暢 (京都大学,応用物理学会会長)
- 2) 化合物半導体を用いたIPMのゲート駆動技術 10:50 〜 11:20 吉江 徹 (サンケン電気株式会社技術開発本部プロセス技術統括部 担当部長)
- 昼食・名刺交換 11:20 〜 13:00
- 3) 経済産業省からのご講演 ー今後の半導体戦略についてー 13:00 〜 13:30 清水 英路 (経済産業省 商務情報政策局 情報産業課 デバイス・半導体戦略室長)
- 4) ロームが取り組むワイドバンドギャップ半導体 13:30 〜 14:00 喜多川 聖也 (ローム株式会社システムソリューションエンジニアリングアソシエイトフェロー)
- 5) パワーデバイスの進化と応用機器の動向 14:00 〜 14:30 西川 和康 (三菱電機株式会社 先端技術総合研究所 先進パワーデバイス技術部Chief Expert)
- 6) 電動車用パワー半導体の進化と開発動向 14:30 〜 15:00 藤原 広和 (株式会社ミライズテクノロジーズ)
- 休憩・名刺交換 15:00 〜 15:20
- 7) シリコンパワーデバイスの技術動向 15:20 〜 15:50 斎藤 渉 (九州大学)
- 8) SiCパワー半導体の現状と今後の展開 15:50 〜 16:20 田中 保宣 (産業技術総合研究所)
- 9) GaNパワーデバイスの現状と今後の展開 16:20 〜 16:50 須田 淳 (名古屋大学大学院工学研究科,兼未来材料・システム研究所)
- 10) WBG半導体によるパワエレ用途拡大と課題 16:50 〜 17:20 日下 佳祐 (長岡技術科学大学)
- Closing 17:20 〜 17:25 田中 保宣 (産業技術総合研究所, 先進パワー半導体分科会前幹事長)
【参加方法】 シンポジウム『奮闘する日本の先端パワー半導体』
オンライン参加
参加費 無料
応用物理学会大会HP内の「一般公開シンポジウム」のページに,ZoomウェビナーのURLを掲載いたしますので,クリックしてご参加ください.どなたでもご参加いただけます.当シンポジウムについては,当日のみ御覧いただけます.後日録画配信はありません.
一般公開シンポジウムページURL:
https://meeting.jsap.or.jp/opensymposium
現地参加
参加費 有料
現地参加いただく場合は,「応用物理学会秋季学術講演会」への参加申込が必要です.
会員 :12,000円
非会員:23,000円
(2024年8月30日までの早期参加申込割引価格)
シンポジウムのみの販売はございません.以下URLよりお申し込みください.
お申し込みいただきますと,参加票が発行できるようになります.当日は,ご自身で参加票を印刷して,直接会場にお越しください.会場付近に参加票ホルダーがございますので,参加票を首から下げて聴講ください.受付はございません.こちらの参加票で,9月16〜20日に開催の第85回応用物理学会秋季学術講演会の全ての講演(有料セミナー除く)にご参加いただけます.
第85回応用物理学会秋季学術講演会 参加申込ページURL:
https://meeting.jsap.or.jp/registration
【お問い合わせ】
公益社団法人 応用物理学会
OBTgeneral-matters
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