第8回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞) 受賞者

業績賞受賞者
安野 嘉晃 氏(筑波大学)
業績
光コヒーレンストモグラフィに関する体系的技術基盤の確立と臨床応用への展開

安野 嘉晃 氏は,2001 年筑波大学大学院工学研究科を修了するとともに学術振興会特別研究員となり,2002 年筑波大学物理工学系(後,組織改編により数理物質系)助教に奉職し,2018 年には同大学医学医療系教授に昇任し,その間,フーリエドメイン光コヒーレンストモグラフィー (FD‐OCT) を構想・原理検証から臨床実用化,高機能化まで一貫して研究し,当該技術の基盤確立を通して光工学の発展に貢献しました.

安野氏は,大学院生時代に,回折格子ペアを用いた光パルス制御技術が空間周波数制御による光情報処理と強い類似性を持つことに着目し,光パルス制御と空間領域の光情報処理を接合した「時空間光情報処理」の概念を提唱し,その応用としてパルスの時間遅延の空間展開を利用した金属の表面形状計測を提案しました.

さらに,「時空間光情報処理」の概念を発展させて,低コヒーレンス干渉計 (Time‐domain OCT) の光出力を分光し,スペクトル領域の干渉縞をフーリエ変換して生体の断層を得る新技術を,同時期の国外の研究とは独立に考案し,FD‐OCT 研究の先駆者となりました.その後,ヒト眼底の断層動画撮影・三次元トモグラフィー撮影に初めて成功し,世界初の三次元眼底断層検査装置 (3D‐OCT 1000) が2007 年に医療機器メーカーから上市され,現在では眼科医療になくてはならない検査機器となっています.

最近では,安野氏は臨床イメージングだけでなく,OCT の技術と信号処理技術を融合した三次元トモグラフィック顕微鏡へと研究を発展させています.具体的には,Jones matrix OCT を技術の中核にすえ,そこからえられる干渉信号を「散乱体を対象として新たに構築されたイメージング理論と,それによって設計されたホログラフィック信号処理」,「時間統計的信号処理」,「波動光学シミュレーションと深層学習による計測信号からの画像生成」によって処理し,それらの三技術群全体を「認識論的計測モデル」と呼ばれる新たに構築された思弁的フレームワークで統合する独創性を発揮しています.

安野氏の研究の特色は,革新的な技術の開発・実用化にとどまらず,開発した技術を体系化し普遍的な方法論を確立しようとしている点です.安野氏がこの両方の困難な課題に挑戦して高い業績をあげていることを高く評価でき,故高野榮一氏を顕彰する光工学業績賞受賞者にふさわしいと認められます.

功績賞受賞者
山口 一郎 氏(群馬大学)
業績
スペックル粗面干渉法をはじめとする光計測技術の先駆的研究と光工学発展への貢献

山口 一郎 氏は,1966 年東京大学大学院を修了後,同大生産技術研究所助手に奉職,1967 年理化学研究所に入所し,1985 年理化学研究所光工学研究室主任研究員となり,2002 年群馬大学工学部教授に就任されています.その間,レーザースペックルの理論および実験面から研究展開するとともにホログラフィ干渉計測への独自のアプローチを通して光工学の発展に大きく貢献しています.さらに,2002 年理化学研究所名誉研究員を授与されています.

山口氏は,レーザー干渉においてノイズとされていたスペックルに60年代から着目し,その統計的な静特性および動特性を解明しました.さらに,回折界と像界の光強度分布の相関関数をフーリエ光学の手法を使って求め,スペックル径の分布,粗面の変形による移動と変形,表面粗さへの依存性を明らかにしました.これらの知見をもとにスペックル相関計測という新分野を構築しダイナミックな2 次元変位,歪み測定に応用できることを示しました.更にその理論をホログラフィ干渉縞の局在性などに適用し,ホログラフィへの応用展開を進めました.

さらに,山口氏は,スペックルによる粗面干渉法の基礎づけと粗面の形状や変形の新規な測定法の開発に展開していきました.具体的には,スペックル相関法によって検出されるスペックルの移動量を導出し,粗面の平行移動,回転,歪みなどを,表面に一切の加工を加えることなく非接触で分離測定する方法を考案しました.また,差動配置光学系を使った歪計を開発し,固体材料だけでなく,植物成長も測定可能であることを実証しました.本原理に基づく非接触スペックル歪計は計測機器メーカーによって製品化され,計測器分野で多大な貢献をしています.

また,山口氏は,ディジタル記録と計算機再生によるディジタルホログラフィにおいて,参照光に位相シフトを与え複数枚のホログラムの再生像を記録して物体波を再生する方法を考案し,再生像の画質を飛躍的に向上させました.この手法を,干渉計測,顕微鏡,カラーホログラフィに応用して,従来法より優れた性能が得られることを明らかにしています.

以上のように,山口氏はスペックルの統計的性質に着目し,スペックル相関計測という新分野を構築するとともに,ホログラフィ干渉計測の本質的な課題を解決し,その後のディジタルホログラフィの発展に大きく貢献しました.また,国際光学委員会副会長及びSPIE 理事として世界の光工学発展に大きく貢献しており,光工学功績賞受賞者にふさわしいと認められます.

第8回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞)表彰委員会

委員長
梅田 倫弘
委員
荒木 敬介,岡田 佳子,菊田 久雄,栗村 直,鈴木 孝昌,平野 琢也,的場 修,宮前 博