第6回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞) 受賞者

業績賞受賞者
島野 健 氏(日立製作所)
業績
光学応用システムの先駆的研究開発と民生機器への応用展開

島野 健氏は,1987年,(株)日立製作所中央研究所に入社し,おもに光ディスク光学系の研究開発に従事した後,2007年日立マクセル(株)に転籍し,オプトコンポーネント製品の開発に従事,2011年には(株)日立製作所コンシューマエレクトロニクス研究所に復帰し,同年,同横浜研究所,2019年,同社中央研究所の研究開発グループで光学民生機器の研究開発に従事しています.

島野氏は,入社時の業務に関連して光ディスクヘッド,とりわけ光ディスクが音楽用CDから画像用DVDにも拡張された時代背景も有り,これまで培ってきた光工学技術を活用してDVD/CD互換レンズに輪帯位相シフタを導入して少ない部品で互換性の高い光ディスクヘッドの開発に成功し,製品化されています.この技術は他社特許に多数引用され,他社製品にも大きな影響を与えています.さらに,ブルーレイディスクBDとの3波長互換にも適用でき,CD/DVD/BD同時読み取りが可能な製品に活用されています.この他,BD用高NA(開口数)対物単レンズと球面収差自己補償光学系を開発し,その光学設計の特筆性から様々な学会賞を受賞しています.

一方,島野氏は,入社時の組織に復帰後,光学関連製品の中でも,当時,スマートフォン用カメラモジュールの小型,薄型化のニーズが急速に高まっていたこともあり,実現すべきデバイス要件は「入射光の入射角に起因する符号化開口の影のシフト量の検出」であるという光工学的洞察から本質を見極めました.そのため,大学時代に研究した干渉計測で用いた2枚のフレネルゾーンプレートによるモアレ縞を想起し,レンズレズカメラとして活用する着想に至り,実機デモ検証に繋がりました.近年,従来のレンズカメラとは異なる原理の撮像技術の研究開発が注目されていますが,その潮流の一つの契機を作った意義は非常に大きいと言えます.

以上のように,島野氏は新規な技術要素に対して常に高い視点から素性を見極め,関連分野の技術を牽引する成果を多くあげてきました.とりわけ,実用化された多くの技術とともに関連技術の融合発展を促すような業績も高く評価でき,光工学業績賞受賞者にふさわしいと認められます.

功績賞受賞者
黒田 和男 氏(宇都宮大学)
業績
フォトリフラクティブフォトニクスに関する先導的研究と光学分野発展への顕著な功績

黒田和男氏は,1976年東京大学生産技術研究所助手に奉職し,1993年には同大学教授に昇任,2012年に同大学名誉教授となりました.同年宇都宮大学オプティックス教育研究センター特任教授に就任し,2021年同センター名誉フェローとなっています.

黒田氏は,東京大学生産技術研究所に着任早々,気体レーザー及び金属蒸気レーザーの研究に従事していました.さらに,1980年代初期から,光吸収により物質内に生じた電界により屈折率が変化するフォトリフラクティブ効果に研究の軸足をシフトし,以後,国内外におけるフォトリフラクティブフォトニクスの中心的存在かつ同分野推進の原動力となってきました.

黒田氏は,多様なフォトリフラクティブフォトニクス研究分野の中でも,新規材料の探索および位相共役波の発生に関する研究を中心に据えてきました.新規材料では,GaP,GaN,AlN等の半導体におけるフォトリフラクティブ効果を初めて発現させたり,半導体量子井戸材料,リラクサー系強誘電体,有機ポリマー材料など,特徴ある新規材料の開発および材料固有の諸定数の計測や推定などフォトリフラクティブ効果に関する基礎研究の構築に多大な貢献をしました.また,ピコ秒パルス光を用いた位相共役波発生や二重位相共役鏡の実現など応用についても優れた着想を発揮するとともにその実行力で同分野の中心的存在として活動し,国際会議のメンバーを長年にわたり務め国際的な進展にも寄与しました.

黒田氏は,応用物理学会の位相共役・光波ミキシング研究会の代表幹事や微小光学国際会議,レーザーディスプレイ国際会議等の議長を多数務め,国内外の光学分野の進展と拡がりに貢献してきました.さらに,新たに発足した日本光学会の初代会長を務め,我が国の光学研究および光学産業界全般の進展に尽力しました.また,黒田氏は,光学および量子エレクトロニクス分野は言うに及ばず,物理学全般を深く理解し幅広い知見を通して,多くの研究者・学生に多大な影響を与えてきています.

以上のように,黒田和男氏の長年にわたる功績は,研究を通してフォトリフラクティブフォトニクスの発展,大学・学会活動における光学分野の発展と若手人材の育成に大きく寄与するもので,光工学功績賞受賞者にふさわしいと認められます.

第6回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞)表彰委員会

委員長
梅田倫弘
委員
荒木敬介,岡田佳子,栗村直,小林喬郎,鈴木孝昌,平野琢也,宮前 博,渡辺正信