第5回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞) 受賞者
第5回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞)表彰委員会
委員長 梅田倫弘
光工学業績賞・功績賞は,光工学の研究開発において顕著な業績をあげた研究者・技術者を顕彰することを目的とし,故高野榮一氏からのご寄付を基金として2010年に本会に設立された高野榮一光科学基金の事業のひとつとして2017年に制定されました.
第5回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞)の受賞者の選考は,規程に従い,機関誌『応用物理』等で,2021年10月31日まで業績賞の推薦を募り,また,推薦委員からも業績賞と功績賞の候補者推薦を募りました.推薦委員からの推薦については,8月30日までに業績賞8名,功績賞9名の推薦を頂きました.表彰委員会にて,推薦委員からの推薦者について一次審査を行い,業績賞4名,功績賞5名を本審査に進めることとしました.昨年から繰越された候補者も含め,業績賞11名,功績賞8名の候補者について,二次審議をおこなった結果,以下の2名をそれぞれ,第5回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞)受賞者に決定しましたので報告いたします.
なお,授与式は第69回応用物理学会春季学術講演会(ハイブリッド開催)の初日2022年3月22日(火) に,現地にて執り行われます.また,同学術講演会において,受賞者による受賞記念講演が行われますので,是非ご参集ください.第69回応用物理学会春季学術講演会のプログラムおよび参加方法についてはホームページ https://meeting.jsap.or.jp をご参照ください.
- 業績賞受賞者
- 美濃島 薫 氏(電気通信大学)
- 業績
- 光周波数コムによる光の時空間制御・操作技術の創出と光学計測への貢献
美濃島薫氏は,通産省工業技術院計量研究所(当時)に入所し,計測標準研究部門・長さ標準研究室長となり,周波数測定基準として提案されていた光周波数コム技術の広範な可能性に着目して標準研究等の業務に従事し,のちに電気通信大学に移り,光周波数コムの概念と応用性を拡張し,光波を自在に制御・操作するツールとして,光計測の質的変革を実現することに大いに貢献しています.
美濃島氏は,標準研究に携わる中,光周波数コムが単なる「光周波数のものさし」に留まらず,異なる物理量をつなぐ制御性をもち,様々な分野において新たな計測技術の創出が可能であるとの着想を得ていました.この考えに基づいて,「光周波数コム長さ計測」法を研究開発し,光周波数コムの主要な応用のひとつとして,確立させました.同時に,実用光源として広く利用されているファイバレーザーの光周波数コムによる世界初の光周波数絶対計測を実証するなど,実用性を高める光源開発に取り組み,国家標準改定に貢献する基礎を築きました.
美濃島氏は,さらに光周波数コムの概念と応用性を拡張し,様々な科学・技術分野に潜在する計測ニーズに解を与える「知的光シンセサイザ」の研究を世界に先駆けて提案し,その優れた性質を極限まで生かした光計測の質的変革を実現させています.また,基盤技術として,デュアルコム光源の開発,光周波数コムのコヒーレント合成・制御による光電場波形の直接観測・操作の実現などの成果をあげています.さらに,物性評価や新規材料開発を促すデュアルコムによる時間分解分光や複素物性の高スループット計測,モード制御による分光測定の高精度・高感度化,光周波数コムの波形・位相制御を用いた超高速光多次元情報変換と全光演算,および,その活用による完全無走査の超高速3次元形状計測など,単なる精密計測の領域に留まらず,極めて適用範囲の広い基盤技術を多数創出しています.これにより光周波数コムに無縁と思われていた科学技術・産業分野への波及と展開が始まっています.
以上のように,美濃島氏の光周波数コム研究への情熱は,現状に留まることを知らず我が国の国際的地位を先導する研究者として高く評価でき,光工学業績賞受賞者にふさわしいと認められます.
- 功績賞受賞者
- 武田 光夫 氏(宇都宮大学)
- 業績
- 光計測・光情報処理・イメージング分野における先駆的研究と光工学発展への功績
武田光夫氏は,キヤノン(株) を経て電気通信大学で長らく教育研究に携わり,光計測・光情報処理・イメージングの分野における先駆的な研究を通じて,光工学と情報工学の統合と,情報光学の発展に貢献され,のちに宇都宮大学オプティクス教育研究センターに移り特任教授として後進の指導育成とともに我が国の光学分野の発展に大きく寄与されています.
武田氏の主要な功績の一つである「フーリエ縞解析法」と呼ばれる空間キャリア縞解析法を世界に先駆けて提案するとともに,3次元形状計測,非球面干渉計測,プラズマ診断,燃焼解析,フェムト秒アト秒領域の超短光パルス計測,電子線干渉による極微弱磁場計測,原子格子欠陥像のサブオングストローム歪計測,EUV投影光学系のサブナノメートル波面計測,X線シアリング干渉による医療計測など,科学計測,産業計測,生体医用計測を含む広範な分野で応用展開がなされています.この業績に対して,Dennis Gabor Award (SPIE, 2010),Chandra S. Vikram Award (SPIE, 2017),Emmett N. Leith Medal (OSA, 2020)を受賞され,国際的にも高く評価されています.
光情報処理の分野では,光波動場の非線形ダイナミクスを利用した複素ニューラルネットや光インターコネクションの先駆的研究を行い,イメージングの分野では,「コヒーレンスホログラフィー」と呼ばれるコヒーレンス関数の生成・制御技術を提案し,さらに散乱媒質を透視するホログラフィー相関映像法に発展させました.
さらに,武田氏は,研究を通した光工学への貢献の他に,応用物理学会理事,応用物理学会日本光学会幹事長,国際光工学会(SPIE)理事などを歴任して学会活動に貢献されました.また,日本光学会幹事長のときに「高野榮一光科学基金」の設立に尽力するとともに,高野榮一氏の遺志に沿った最初の助成活動として光設計研究グループのODF国際会議を支援されました.
以上のように,武田光夫氏の長年にわたる功績は,研究を通した光工学の発展,関連する多くの産業の創出,大学・学会活動における光学分野の発展と若手人材の育成に大きく寄与するもので,光工学功績賞を受賞するのにふさわしいと認められます.
第5回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞)表彰委員会
- 委員長
- 梅田倫弘
- 委員
- 渡辺正信,荒木敬介,小林喬郎,本宮佳典,岡田佳子,栗村直,鈴木孝昌,平野琢也