第4回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞) 受賞者

第4回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞)表彰委員会
委員長 黒田和男

光工学業績賞・功績賞は,光工学の研究開発において顕著な業績をあげた研究者技術者を顕彰することを目的とし,故高野榮一氏からのご寄付を基金として2010年に本会に設立された高野榮一光科学基金の事業の1つとして2017年に設立されました.

第4回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞)の受賞者の選考は,規程に従い,機関誌『応用物理』などで,2020年10月31日まで業績賞の推薦を募り,また,推薦委員からも業績賞と功績賞の候補者推薦を募りました.推薦委員からの推薦については,8月31日までに業績賞14名,功績賞7名の推薦をいただきました.表彰委員会にて,推薦委員からの推薦者について1次審査を行い,業績賞4名,功績賞2名を本審査に進めることとしました.また,今年度は公募から2名の業績賞推薦がありましたので,昨年から繰り越された候補者も含め,業績賞9名,功績賞7名の候補者について,表彰委員会にて2次審議を行った結果,以下の2名をそれぞれ,第4回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞)受賞者に決定しましたので報告いたします.

なお,授与式は2021年3月16日(火) よりオンライン会議として開かれる第68回応用物理学会春季学術講演会の初日に執り行われます.また,同学術講演会にて,受賞者による受賞記念講演が行われますので,是非ご参集ください.第68回応用物理学会春季学術講演会のプログラムおよび参加方法についてはホームページ https://meeting.jsap.or.jp をご参照ください.

業績賞受賞者
渋谷眞人氏(東京工芸大学名誉教授)
業績
位相シフト法に代表される光設計技術の発展とレンズ光学の振興への貢献

渋谷眞人氏は,日本光学工業株式会社(現ニコン)に入社し,最先端の光学設計・開発に従事し,多くの優れた業績を上げました.後に,東京工芸大学に移り,学生の指導に尽力されています.現在も同大学名誉教授として,執筆や講演を通して,我が国の光学界の発展に寄与しています.

渋谷氏の業績として第1に挙げられるのは位相シフトマスクの発明で,半導体露光装置の解像力を上げる画期的な超解像技術として現在も広く使われています.半導体露光装置は,マスクに描かれたパターンを光学系を通して半導体面上に塗布したレジスト上に結像し,微細パターンを形成する装置です.従来の結像理論によれば,レンズの開口数と光の波長で決まる回折限界があり,それより微細なパターンは解像しないと考えられていました.渋谷氏は当時の常識を打破し,マスクに0°と180°の位相変化を導入すれば,回折限界を超えた解像力が実現可能であることを発見しました.渋谷氏のこの考え方は,その後,照明光のコヒーレンスやマスクパターンを自在に設計し,所望の像を得る現代的な光リソグラフィー技術の先駆けとなりました.

渋谷氏は,光学の基礎の分野でも多大の貢献をしています.特に,同氏はMTFの研究を通して平面波展開法の重要性を指摘し,従来の幾何光学に基づく結像理論を,平面波展開で解釈し直すと,光学系の本質を捉えられることを見いだしました.渋谷氏は特に正弦条件に着目し,平面波展開により,正弦条件の波動光学的な意味を明らかにしました.

渋谷氏の業績を列挙すると,上述の位相シフト法の発明に加え,MTF計算法の吟味と球面収差がある系の正弦条件の導出,半導体露光装置の結像評価の基礎となるスカラー回折理論の厳密化,フィゾー型干渉計における高次デフォーカス補正,半導体露光装置のローカルフレアの起源の解明,幾何光学的MTFの意義の明確化,奇数次を含む非球面の光学設計など多岐にわたります.また,「回折と結像の光学」(大木裕史氏と共著)や「レンズ光学入門」などの著作は,光学設計研究者・技術者の育成教育に大いに貢献しました.

以上を要するに,渋谷眞人氏の光学基礎理論,光学設計の分野への貢献は顕著であり,光工学業績賞受賞者にふさわしい研究者と認められます.

功績賞受賞者
伊賀健一氏(東京工業大学名誉教授)
業績
面発光レーザーとその応用に関する先駆的研究ならびに微小光学における長年にわたる顕著な功績

伊賀健一氏は垂直共振器面発光レーザーの発明者として国内外に広く知られています.面発光レーザーは現在では,高速光ファイバーやデータセンターなどの光通信や,レーザープリンター,マウス,最近ではスマートフォンの顔認証システムなどのレーザー光源に使われています.同氏はこの業績により2005年度第6回応用物理学会業績賞(研究業績)を受賞されています.

しかし,伊賀氏は光工学の分野でもう1つ重要な貢献を果たしています.それは,我が国に微小光学という研究分野を創設し,その発展に寄与したことです.微小光学における同氏の研究業績は,分布屈折率平板マイクロレンズアレイなどの光学素子の開発が挙げられます.これは,面発光レーザーアレイと組み合わせて2次元並列光情報処理を目指す研究で,その後のマイクロレンズ技術の発展に大きく寄与しました.また,応用物理学会に微小光学研究グループ(現微小光学研究会)を設立し,30年近く代表を務め,研究会や国際会議を企画運営し,微小光学の基礎と応用に関する研究開発の啓蒙活動に重要な役割を果たしてきました.

さらに伊賀氏は,日本学術振興会理事,電子情報通信学会会長,東京工業大学学長などの要職を歴任し,我が国の科学技術振興や若手研究者・技術者の育成に尽力されました.

以上を要するに,伊賀健一氏の長年にわたる功績は,光工学の発展,関連する多くの産業の創出,若手人材育成に大きく寄与するもので,光工学功績賞を受賞するのにふさわしい研究者であると認められます.

第4回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞)表彰委員会

委員長
黒田和男
委員
荒木敬介,梅田倫弘,枝松圭一,小林喬郎,本宮佳典,渡辺正信