公益社団法人 応用物理学会

第9回女性研究者研究業績・人材育成賞(小舘香椎子賞) 受賞者

女性研究者研究業績・人材育成賞(小舘香椎子賞)表彰委員会
委員長 近藤高志

女性研究者研究業績・人材育成賞は,(研究業績部門)応用物理学分野の研究活動において顕著な研究業績をあげた女性研究者・技術者,または,(人材育成部門)女性研究者・技術者の人材育成に貢献することで科学技術の発展に大いに寄与した研究者・技術者または組織・グループを顕彰することを目的としています.本賞は,小舘香椎子先生(日本女子大学名誉教授,応用物理学会フェロー)の日本女子大学理学部退職に際しての感謝の会におけるご祝儀,および小舘香椎子先生からのご寄付を基金として設立されました.第9回女性研究者研究業績・人材育成賞については,機関誌『応用物理』7,8,9月号および学会ウェブページに掲載された公募に対して2018年10月31日までに推薦のあった候補者について,表彰委員会で慎重な審議・選考を行った結果,鄭宇進氏(研究業績部門),朱慧娥氏,西山明子氏,前神有里子氏(研究業績部門[若手])を受賞者と決定しました.人材育成部門は受賞者なしとなりました.

なお,授賞式は2019年春季学術講演会(東京工業大学)の初日3月9日(土) 夕刻に行われます.また,研究業績部門の受賞者による受賞記念講演も同学術講演会の会期中に行われますので,是非ご参集ください.

研究業績部門受賞者
鄭 宇進氏(浜松ホトニクス株式会社 中央研究所 産業開発研究センター 主査)
業績
外部共振器を用いた安定な狭帯域高出力半導体レーザーに関する研究

鄭宇進氏は,出身である中華人民共和国 重慶大学にて光科学の研究者としてのキャリアをスタートした後,静岡大学工学部(浜松キャンパス)に留学のため来日し,静岡大学工学研究科博士課程において工学博士学位を取得されました.2人の子供の育児期間を経て,浜松ホトニクス株式会社に入社し,現在まで17年以上の間,同社中央研究所において半導体レーザーの高機能化とその応用に関する技術の研究開発を行ってきました.

この間,半導体レーザーと外部共振器技術を融合することで課題であった高出力半導体レーザーの狭帯域化および高ビーム品質化の道を開拓してきました.例えば,世界で初めて1枚のVolume Bragg Gratingを利用し,同時に2台の高出力半導体レーザースタックの発振波長の狭帯域化とその中心波長のシフト量を抑制する技術を実現しました(2015年APEX Spotlightsに選出).またこの狭帯域化された半導体レーザーを励起光源に用いて,光吸収線幅が狭く半導体レーザー励起が困難とされていたCsアルカリガスレーザーの発振を世界で初めて成功させました.さらに同氏は,スーパールミネッセントダイオードと外部共振器技術を組み合わせて,二波長を発生する光源を開発し,広帯域な可変THz波の発生の可能性を示すなど,レーザー・フォトニクスのフロンティアを切り拓いてきました.

また同氏は,多数の関連特許を出願することで,開発した技術の実用化・製品化に貢献するなど,民間企業で働く女性研究者のロールモデルとして現在も活躍中であります.

研究業績部門(若手)受賞者
朱 慧娥氏(東北大学 多元物質科学研究所 助教)
業績
強誘電性高分子の超薄膜化と電子デバイス応用に関する研究

朱慧娥氏は,従来,強誘電性を発現するために加熱・延伸処理を必要とした強誘電性高分子ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用い,少量の両親媒性高分子ポリ(N-ドデシルアクリルアミド)(pDDA)の存在下,気水界面を利用するLangmuir-Blodgett(LB)法により,最小膜厚2.3nmのPVDF超薄膜が得られ自在に積層できること,さらに超薄膜に含まれる結晶相について,97%という高い割合で強誘電性を示すβ相が占めていることを見いだしました.この技術は結晶性高分子の超薄膜作製技術の進展に大いに貢献し,超薄膜であることを最大限に生かし,6.6µCcm-2という超薄膜としては非常に大きな残留分極を示すこと,PVDFの導入割合についてX線光電子分光法により追跡し,ほぼ定量的に導入されることを突き止めました.作製工程において溶媒を適切に選択することで,PVDFの結晶相を制御できること,さらに導電性高分子とPVDFの混合超薄膜を作製することで,低消費電力型抵抗変化メモリデバイスへの応用が可能であることを実証しています.これらPVDF超薄膜の作製・評価・応用に関する一連の研究成果に対し,2012年応用物理東北支部講演会第17回講演奨励賞,2013年有機分子・バイオエレクトロニクス国際会議ポスター賞等,非常に高い評価を得ています.強誘電性高分子の超薄膜化は,ナノサイエンス・ナノテクノロジーに基づく柔軟で変形可能なフレキシブルエレクトロニクスの次世代応用技術に重要な要素であり,材料と応用物理に対する独自の感性を発揮してきた同氏は,新進気鋭の若手研究者として今後さらなる活躍が大いに期待できます.

研究業績部門(若手)受賞者
西山明子氏(電気通信大学 情報理工学研究科 学術振興会特別研究員)
業績
光周波数コムを用いた高分解能・高感度分子分光の研究

西山明子氏は,福岡大学大学院において学位を取得後,学術振興会特別研究員として電気通信大学に在籍し,光周波数コムを用いた高分解能・高感度分子分光の研究を行ってきました.同氏は2台の光周波数コムを用いた分光法であるデュアルコム分光法が,気相分子のドップラーフリー高分解能計測に応用可能であることに着目し,いくつかの新しい高分解能分光手法を開発,実証することに成功しました.これらの新手法により,従来,単一周波数モードレーザーの掃引によって長時間と多大な労力をかけて得られていた高分解能分子スペクトルを,光周波数コムを用いた広波長域の同時計測によって一挙に取得することが可能になります.さらに,同氏は,デュアルコム分光法の応用性を高め,さまざまな分子の測定に適用できるようにするため,分光法の基盤的な高分解能化にも取り組み,光周波数コムのモードフィルタリング技術や蛍光観測への適用,変調分光法,共振器分光法を用いた高感度分光法を開発し,成果を上げました.これらの成果は,最先端のファイバーレーザー技術と分子分光技術を組み合わせたことによって得られたものであり,光周波数コムおよび分子分光技術の適用性を大きく広げるとともに,光計測分野をはじめとした応用物理学の広範な分野における重要な基盤技術の進展に貢献しました.同氏は本年4月より,海外学振研究員としてニコラス・コペルニクス大学(ポーランド)に派遣され,光周波数コムを用いた高感度分子分光の研究を行う予定であり,本研究のさらなる発展と同時に,同氏のますますの国際的な活躍が期待されます.

研究業績部門(若手)受賞者
前神有里子氏(産業技術総合研究所電子光技術研究部門 シリコンフォトニクスグループ主任研究員)
業績
CMOSバックエンド互換プロセスを適用したシリコンフォトニクスの高度化の研究

前神有里子氏は,国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)において,シリコンフォトニクスデバイスの研究開発に取り組んでいます.特に,CMOSバックエンド互換プロセスを適用したシリコンフォトニクスの高度化を進め,バックエンド材料である酸窒化珪素(SiON),窒化珪素(SiN),低温成膜水素化アモルファスシリコン(a-Si:H)などを用いて,シリコンフォトニクス用高効率ファイバ結合器,受光器,高効率・高速光変調器などの幅広いデバイス研究開発に取り組んできました.これらの取り組みに基づき,バックエンドフォトニクスと総称されるシリコンフォトニクスの新たな研究開発分野が展開されています.

同氏は,SiON加工時に発生するシリコン導波路へのダメージを低減し,光損失を低減する新規スポットサイズコンバータ構造を提案,設計,試作を行い,世界最高水準の低損失結合を実現しました.また,容易に高い精度で加工が可能なa-Si:Hを装荷導波路として用いた全く新しい変調器構造を提案,設計最適化,試作を行い,高効率・高速変調を達成しています.研究成果として得られたデバイス構造については,大規模集積試作が可能であり,将来の産業化に直結する300mmCMOS試作ラインへの導入を進めています.これらの技術は,所属機関が推進する,大学・企業が参画するシリコンフォトニクス技術を中心とした新しいイノベーション推進拠点を構築するためのコア技術です.同氏には,今後も新たな研究成果を創出し続けるとともに,広くアカデミアや産業界への貢献が期待されます.

2018年度女性研究者研究業績・人材育成賞(小舘香椎子賞)表彰委員会

委員長
近藤高志
委員
有吉恵子,加藤一実,小寺哲夫,庄司一郎,筑本知子,藤原聡,渡邉恵理子