公益社団法人 応用物理学会

第8回女性研究者研究業績・人材育成賞(小舘香椎子賞) 受賞者

女性研究者研究業績・人材育成賞(小舘香椎子賞)表彰委員会
委員長 近藤高志

女性研究者研究業績・人材育成賞は,(研究業績部門)応用物理学分野の研究活動において顕著な研究業績をあげた女性研究者・技術者,または,(人材育成部門)女性研究者・技術者の人材育成に貢献することで科学技術の発展に大いに寄与した研究者・技術者または組織・グループを顕彰することを目的としています.本賞は,小舘香椎子先生(日本女子大学名誉教授,応用物理学会フェロー)の日本女子大学理学部退職に際しての感謝の会におけるご祝儀,および小舘香椎子先生からのご寄付を基金として設立されました.第8回女性研究者研究業績・人材育成賞については,機関誌『応用物理』7,8,9月号および学会ウェブページに掲載された公募に対して2017年11月20日までに推薦のあった候補者について,表彰委員会で慎重な審議・選考を行った結果,松尾由賀利氏(研究業績部門),藤井茉美氏,溝尻瑞枝氏(研究業績部門[若手])を受賞者と決定しました.人材育成部門は受賞者なしとなりました.

なお,授賞式は2018年春季学術講演会(早稲田大学)の初日3 月17 日(土)夕刻に行われます.また,研究業績部門の受賞者による受賞記念講演も同学術講演会の会期中に行われますので,是非ご参集ください.

研究業績部門受賞者
松尾由賀利氏(法政大学理工学部教授)
業績
レーザー分光とアブレーションによる原子分子基礎過程の研究と原子核研究に向けた展開

松尾由賀利氏は,レーザー分光とレーザーアブレーションにより,アブレーション応用から原子分子の精密レーザー分光を用いた基礎物理まで,幅広い分野で数々の研究成果をあげてこられました.通常の熱的方法では原子化が困難な高融点金属や大きな分子に対して,レーザーアブレーションを利用して低温ガスや超流動ヘリウム環境下に原子,分子,イオンを静かに導入することに成功しました.これら特異な環境下での原子分子のエネルギー準位間隔がわずかに変化する様子を詳細に測定し,エネルギー状態間の移動の研究を大きく発展させました.一方,アブレーション自身の基礎過程研究に精密レーザー分光の手法を適用しました.個々の原子分子の挙動を,ドップラー効果の微小な違いから見分けること,時間分解撮像法で追跡することで,応用物理学上重要なプロセスであるレーザーアブレーション過程の解明に大きな進展をもたらしました.さらに,低温液体ヘリウム中での精密レーザー分光で培った技術を生かして,加速器で生成された少数個のイオンビームを捕獲し,原子核の構造を調べる研究に取り組むなど,常に独想的な組み合わせの研究を行っています.

松尾氏の活動は研究のみならず,学会理事,国際会議組織委員,日本学術会議会員と多岐にわたります.応用物理学会では,英文誌編集,男女共同参画など各種委員会で活躍し,2013 年度APEX/JJAP 編集運営委員長として,同誌のクオリティとステータスの向上に尽力されました.また,女子中高生夏の学校で講師を務めるなど,若い世代の理系選択を積極的に支援しています.以上のように,研究,学会,人材育成と広く活躍する同氏は,本賞の受賞者として誠にふさわしい研究者です.

研究業績部門(若手)受賞者
藤井茉美氏(奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科助教)
業績
酸化物半導体薄膜トランジスタの信頼性解析および高性能化に関する研究

藤井茉美氏は大学院から一貫して酸化物半導体薄膜トランジスタの信頼性解析に関する研究を行ってきました.学生時代に自ら研究テーマを立ち上げ,素子作製プロセスから電気特性の解析まで,幅広い知識と経験を有します.特に酸化物半導体素子からの発熱現象や,印加電圧パルスの変化による劣化現象などを世界で初めて報告し,シミュレーションを取り入れた理論計算と実験結果との検討から,素子信頼性解析の分野で目覚ましい成果を挙げました.これらは,現在の有機ELディスプレイ開発に貢献する研究であり,実際に社会に役立つ研究を行っています.近年は,より酸化物半導体素子の品質を高めるべく,低温でフレキシブルな素子開発に向けたプロセス開発を実施しています.特にイオン液体などの有機物を取り入れ,これまでの1/10程度の超低消費電力な酸化物半導体薄膜トランジスタを開発しました.これはフレキシブル化と低消費電力化を両立できる新たな手法です.さらに,有機/無機界面で生じる未知なる現象の理解に取り組んでおり,学術的にも新たな進展が見込める重要な研究を実施しています.

博士号取得後,一度は企業へ就職し,産業現場の実態を学んだうえで大学研究者としての学術研究に取り組んでいるため,産業界への貢献を視野に入れたバランスのよい研究を実施できるものと期待できます.現在は一児の母としての仕事もこなし,学会参加が困難な状況であっても精力的に研究を推進しており,後進へのロールモデルとしても期待できる若手女性研究者です.

研究業績部門(若手)受賞者
溝尻瑞枝氏(名古屋大学大学院工学研究科マイクロ・ナノ機械理工学専攻)
業績
フェムト秒レーザー還元を用いた3次元金属/半導体微細構造の直接描画プロセスの研究

溝尻瑞枝氏は,大阪大学博士課程にて学位を取得後,独立行政法人産業技術総合研究所での勤務を経て,名古屋大学大学院工学研究科マイクロ・ナノ機械理工学専攻の助教として採用され,フェムト秒レーザー還元を用いた3次元金属/半導体微細構造の直接描画プロセスに関する研究を中心となって遂行しました.本研究は,CuOやNiOの酸化物ナノ粒子と還元剤の混合溶液にフェムト秒レーザーパルスを集光照射して熱還元を行い,金属や半導体微細構造を大気中で描画形成するものです.一連の研究の中で,同氏はCuOナノ粒子還元においては,レーザー照射条件の制御により,CuとCu2Oが選択的に描画形成できることも見いだしています.この選択的描画技術は,Cu2O測温部,Cu配線部からなるCu/Cu2O複合マイクロ温度センサを,任意部材上に大気中で描画形成する技術として応用展開しています.さらに,2次元金属微細パターンの積層化により,3次元金属/半導体微細構造の描画形成へも発展させ,中空構造を有する3次元マイクロ流量センサ作製などマイクロデバイス作製へ展開しています.このように従来法では酸化が問題となり困難であった,非貴金属系金属や半導体微細構造を大気中で形成する「3次元微細プリンタ技術」への新しいアプローチを行っています.同氏はほかにも熱電デバイスや新規磁区観察法など,応用物理分野,材料分野,マイクロ・ナノ機械理工学分野と分野横断的に活躍され,本年3月からは,長岡技術科学大学産学融合トップランナー養成センター産学融合特任准教授への栄転が決まり,ますますの活躍が期待されます.

2017年度女性研究者研究業績・人材育成賞(小舘香椎子賞)表彰委員会

委員長
近藤高志
委員
有吉恵子,加藤一実,小寺哲夫,庄司一郎,筑本知子,藤原聡,渡邉恵理子(事務局)