第2回女性研究者奨励育成貢献賞(小舘香椎子賞) 受賞者

女性研究者奨励育成貢献賞(小舘香椎子賞)表彰委員会
委員長 上田 修

女性研究者奨励育成貢献賞は,学会活動を通じ,(A部門)応用物理学分野の研究活動において著しい成果をあげた女性研究者,技術者,または,(B部門)男女共同参画活動の推進,人材育成に貢献することで科学技術の発展に大いに寄与した研究者,技術者を顕彰することを目的として,小舘香椎子先生(日本女子大学名誉教授・マルチキャリアパス担当学長特別補佐)の日本女子大学理学部退職に際しての感謝の会におけるご祝儀,および小舘香椎子先生からのご寄付を基金として,2009年に設立されました.第2回女性研究者奨励育成貢献賞の選考は,「応用物理」2月号および応物HPに掲載された公募に対して2011年4月15日までに推薦のあったA部門5件およびB部門5件(委員推薦含む)の候補者について,表彰委員会において慎重な審議を行った結果,加藤一実氏(A部門)および渡辺美代子氏(B部門)を第2回女性研究者奨励育成貢献賞(小舘香椎子賞)の受賞者に決定しました.

なお,授賞式は2011年秋季学術講演会(山形大学)の二日目8月30日(火)午後に行われます.また,両氏の受賞記念講演は,2012年春季学術講演会(早稲田大学)の会期中に行われますので,是非ご参集ください.

A部門受賞者
加藤一実氏(産業技術総合研究所 先進製造プロセス研究部門 テーラードリキッド集積研究グループ 研究グループ長)
業績
溶液法を用いた機能性酸化物薄膜集積化デバイスに関する先導的研究と強誘電体メモリへの応用

加藤一実氏は,溶液化学を駆使して高度に構造制御された機能性酸化物薄膜を創出し,これらをシリコン半導体などの基板上に集積化する研究で常に先導的な成果を発信してきました.特に,層状ペロブスカイト強誘電体薄膜を形成するための複合金属アルコキシド原料,並びにそれを利用した低温成膜プロセスを開発し,強誘電体メモリ応用に適した誘電特性と安定性,さらには集積化プロセスへの適合性を実証することで強誘電体メモリ実用化の一翼を担った女性研究者として世界的に評価されています.

同氏の一連の研究は,テーラードリキッド技術という新しい技術領域を開拓し,この成果で日本セラミックス協会学術賞を受賞(2007年)するなど,材料技術の分野でも高く評価されています.今日では,強誘電体メモリ応用に留まらず,圧電素子や環境センサーなどの電子デバイス開発からエレクトロセラミックス材料の創製に至る様々な産業分野で注目される技術となっており,これら成果は第3回ものづくり日本大賞優秀賞(2009年)にも選定されています.

また同氏は,本学会での精力的な研究発表(JJAP掲載22件)はもとより,JJAP編集委員(2007年・貢献賞受賞),論文賞委員,また東海支部幹事として学会活動を支えると共に,所属機関では,グループ長としてテーラードリキッド技術を利用した未来型素子の基盤技術開発・実用化開発を指導・推進しています.

このように,加藤氏は,応用物理学分野の研究活動において著しい研究成果をあげているばかりでなく,学会活動を通じて世界をリードする,本貢献賞の受賞者としてふさわしい女性研究者です.

B部門受賞者
渡辺美代子氏((株)東芝 経営変革統括責任者)
業績
応用物理学会における大規模アンケート企画をはじめとした男女共同参画活動の先導的推進

渡辺美代子氏は,企業において研究者から技術管理や経営管理の部門リーダーを歴任され,2007年には,「半導体の表面・界面における物性研究及び応用物理学会における学会活動への貢献」で第一回応用物理学会フェローを授与されました.界面のバンド不連続の測定方法確立,クラスターの固体表面への堆積実証など,半導体表面・界面の世界的研究者として際立った業績をお持ちであり,産業界から科学技術と事業の推進を図ってこられました.

応用物理学会においては,理事,評議員,人財育成・教育事業委員会委員長など数多くの委員を務められ,男女共同参画委員会では立上げからその推進にご尽力されています.2001年に実施された会員全員を対象とした大規模調査アンケートでは,その企画から解析,報告に至るまで強いリーダシップを発揮され,若い世代に比べ高い年齢で男女差が大きいことや女性の子供人数が男性より少ないことなど問題点を具体的に数値で明確にし,検討すべき課題を整理して示されました.この成果は,近年の男女共同参画社会実現へ向けた活動の指針となりました.

また,学術会議の会員として,社会全体に向けて応用物理の必要性・重要性を提言されると共に,現在31学会が正式加盟している男女共同参画学協会連絡会の立上げにもご尽力され,広い視野から男女共同参画社会を推進され社会を牽引されています.

このように,渡辺美代子氏は,女性研究者の理想のロールモデルであり,男女が共に充実し能力を発揮できる社会の実現に向け,真摯に献身的な活動を続けられている,本貢献賞の受賞者としてまさにふさわしい方です.

2010年度 女性研究者奨励育成貢献賞表彰委員会

委員長
上田 修(金沢工大)
委員
高井まどか(副委員長),百瀬寿代(事務局),小長井誠,奥村次徳,波多野睦子,黒岩丈晴,駒井友紀