第12回女性研究者研究業績・人材育成賞(小舘香椎子賞) 受賞者

女性研究者研究業績・人材育成賞(小舘香椎子賞)表彰委員会
委員長 近藤高志

女性研究者研究業績・人材育成賞は,(研究業績部門)応用物理学分野の研究活動において顕著な研究業績をあげた女性研究者・技術者,または,(人材育成部門)女性研究者・技術者の人材育成に貢献することで科学技術の発展に大いに寄与した研究者・技術者または組織・グループを顕彰することを目的としています.本賞は,小舘香椎子先生(日本女子大学名誉教授,応用物理学会フェロー)の日本女子大学理学部退職に際しての感謝の会におけるご祝儀,および小舘香椎子先生からのご寄付を基金として設立されました.第12回女性研究者研究業績・人材育成賞については,機関誌『応用物理』7,8,9月号および学会ウェブページに掲載された公募に対して2021年10月31日までに推薦のあった候補者について,表彰委員会で慎重な審議・選考を行った結果,小野円佳氏(研究業績部門),李ひよん氏(研究業績部門[若手]),神谷武志氏(人材育成部門)を受賞者と決定しました.

なお,授賞式は2022年春季学術講演会(ハイブリッド開催)の初日3月22日(火) に現地にて行われます.また,研究業績部門の受賞者による受賞記念講演も同学術講演会の会期中に行われますので,是非ご参集ください.

研究業績部門受賞者
小野円佳氏(北海道大学 電子科学研究所 准教授 / AGC 株式会社 材料融合研究所 主幹研究員)
業績
酸化物ガラスの構造制御による高機能化

光ファイバに代表されるシリカガラスは,世界中の数多の研究者の手で低損失化が追求されてきました.小野氏の成果の中心となるシリカガラスの損失低減は,プリフォームの段階とはいえ従来記録を半減させており,ファイバ通信やレーザー材料の世界を大きく変える可能性をもっています.

小野氏はまず陽電子消滅による構造解析手法をガラスに適用し,空隙構造を詳細に捉えることに成功しました.空隙の大きさはガラスの損失と強く相関し,空隙を散乱体と見れば,光ファイバのレイリー散乱強度の温度依存性を定量的に説明できることを見出しました.これを基に「圧力を印加して空隙を小さくすれば,損失を低減できる」と着想しています.そこで,高温溶融状態のシリカガラスに高い静水圧を印加して空隙を縮小し,上記レイリー散乱を半分以下まで抑制できることを示しました.原子のない空間(空隙)を定量観測して光散乱を制御する画期的な発想と言えます.

同氏は発光や電子スピン共鳴,陽電子消滅,光散乱,等の物理的な現象をガラスの特性評価に次々に導入し,結果を合成手法にフィードバックすることで上記以外にも特性の優れたガラスを創出してきています.

他方学術界での活動もめざましく,応用物理学会フォトニクス分科会において,分科会幹事(2018.4~2020.3)を勤め,分科会誌フォトニクスニュース編集長(2019~2020)として大きな貢献をなしています.また国連が認定する国際ガラス年(2022)においても日本実行委員会委員として活動しています.

同氏は,今後ガラス・フォトニクスの分野を担う国際的な人材として,本賞の受賞者にふさわしい研究者であります.

研究業績部門(若手)受賞者
李ひよん氏(芝浦工業大学 工学部 情報通信工学科 助教)
業績
光ファイバを用いた分布型センシング技術に関する研究

李ひよん氏は,東京工業大学の修士課程時代から現在に至るまで,一貫して光ファイバを用いた分布型センシング技術に関する研究に携わってきました.具体的には,散乱スペクトルの形状を活用した「傾斜利用ブリルアン光相関領域反射計」という新システムを提案し,動作を実証しました.本システムには,リアルタイム動作性や世界最短のホットスポット検出能力など,従来のシステムにはない数多くの利点があることを実験的・理論的に解明しました.並行して,プラスチック光ファイバを用いた種々のセンサの開発も推進してきました.最近では,従来の光ファイバ型モード間干渉センサの概念を一新し,感度を有する領域を制御可能な独自の手法を提案しました.

同氏は,これらの研究成果を国内外の学会で積極的に発表してきました.わかりやすく発表する能力に優れ,本分野で権威ある国際会議であるPOF2017やAPOS2018での発表賞を含め,東京工業大学手島精一記念研究賞(博士論文賞)やエヌエフ基金研究奨励賞など,多数の受賞経験があります.また,学会発表だけでなく,査読付ジャーナル論文の執筆にも注力しており,応用物理学会刊行のApplied Physics Expressをはじめ,Journal of Lightwave TechnologyやOptics Expressなど,現時点(博士号取得から2年経過)で14編の論文を筆頭著者として掲載しています.さらに,共同研究への貢献も著しく,多数の共著論文も有しています.加えて,応用物理学会傘下の光波センシング技術研究会(LST)の常任幹事として,日本の光学業界を盛り立てる活動にも献身的に関わっております.

以上のように,同氏は新進気鋭の若手研究者として,今後も新たな成果を発信し続け,学術界に多大な貢献を果たすことが期待されます.

人材育成部門受賞者
神谷武志氏(東京大学 名誉教授)
業績
応用物理学会における人材育成・男女共同参画活動と学術・社会連携への展開

神谷武志氏は,応用物理学会において早い時点で,女性研究者の育成を主眼とする研究グループの設置に関与され,実践する基盤づくりに積極的に携わるという先導的役割を果たされてきました.2001年他の学協会に先駆けて「男女共同参画委員会」が発足しました.この委員会に委員として大いに貢献され,従来の活動をさらに強化するためにシニア部門,社会貢献部門へと発展させ,副幹事長を務められました.

神谷武志氏の専門分野である光学の分野では,女性研究者の啓発と育成を図ることを目的として,1993年に,コンテンポラリーオプティクス研究グループが設立されました.設置時の幹事6名は全員女性で,光学各分野の指導的立場の男性研究者10名がアドバイザーとして参加しました.神谷氏は,当研究会の基盤を作り,その後の28年間にわたる継続・発展に大きな貢献を果たされました.この研究会が女性研究者育成にもたらした実績が大きいことは,20名近い博士取得者が育ち,大学・企業研究機関で研究を続けていること,同時に応用物理学会の各種委員会の委員,代議員,各種奨励賞および科学研究費,競争的資金の採択者としても活躍していることからも明らかです.

そして,1992年に,私立女子大学唯一の理学部が日本女子大学に設置されたのちは,非常勤講師として基礎教育を通して理系女性の人材育成に尽力をされ,多数の理系女性人材を社会へ送り出すことにも大いに貢献されました.さらに遡って1980年代,中国からの女性留学生がまだ希少だった時代には,国の支援が十分ではなかった教育・研究環境の構築に尽力されて,2名の留学生の国立大学での工学博士・工学修士の取得にも貢献されました.

上記のように,神谷武志氏は,人材育成・男女共同参画活動と学術・社会連携への展開に多大な貢献をされており本賞の受賞者としてまさにふさわしい方であります.

2021年度女性研究者研究業績・人材育成賞(小舘香椎子賞)表彰委員会

委員長
近藤高志
委員
有吉恵子,加藤一実,小寺哲夫,庄司一郎,筑本知子,德田崇,藤原聡,渡邉恵理子