第11回女性研究者研究業績・人材育成賞(小舘香椎子賞) 受賞者

女性研究者研究業績・人材育成賞(小舘香椎子賞)表彰委員会
委員長 近藤高志

女性研究者研究業績・人材育成賞は,(研究業績部門)応用物理学分野の研究活動において顕著な研究業績をあげた女性研究者・技術者,または,(人材育成部門)女性研究者・技術者の人材育成に貢献することで科学技術の発展に大いに寄与した研究者・技術者または組織・グループを顕彰することを目的としています.本賞は,小舘香椎子先生(日本女子大学名誉教授,応用物理学会フェロー)の日本女子大学理学部退職に際しての感謝の会におけるご祝儀,および小舘香椎子先生からのご寄付を基金として設立されました.第11回女性研究者研究業績・人材育成賞については,機関誌『応用物理』7,8,9月号および学会ウェブページに掲載された公募に対して2020年11月13日までに推薦のあった候補者について,表彰委員会で慎重な審議・選考を行った結果,板垣奈穂氏(研究業績部門),池田佳奈美氏,髙村真琴氏(研究業績部門[若手])を受賞者と決定しました.人材育成部門は受賞者なしとなりました.

なお,授賞式は2021年春季学術講演会(オンライン開催)の初日3月16日(火) 夕刻に行われます.また,研究業績部門の受賞者による受賞記念講演も同学術講演会の会期中に行われますので,是非ご参集ください.

研究業績部門受賞者
板垣奈穂氏(九州大学大学院 システム情報科学研究院 教授)
業績
プラズマ反応場制御による新規酸窒化物材料の創製

板垣奈穂氏はこれまで,「プラズマ反応場制御による新規酸窒化物材料の創製」を通し,材料・プロセス・デバイスの 3つの階層において光・電子デバイスの革新に貢献してきました.データの蓄積と利活用を実現する基盤としてのハードウエアの重要性が再認識される今,同氏の研究は,その基幹デバイスの革新に今後大きく資する成果と位置づけられます.

材料とデバイスの階層において同氏は,低温非平衡プラズマと超高速材料探索技術を駆使してII-III-V-VI族からなる新しい材料系ZAIONを創成し,エキシトンをキャリヤとする新概念トランジスタに展開しました.プロセスの階層においては,非固溶系の不純物を用いて表面エネルギーを制御する,という斬新なアイデアにより,格子不整合基板上への高品質結晶成長を実現する手法を確立しました.これは,薄膜材料と基板の組み合わせが単結晶薄膜成長において極めて限定されるというボトルネックの解消につながる画期的な成果です.同氏の論文ならびに特許の直近 5年の総被引用数は 6000件を超え,これは上記成果のインパクトの高さを示しています.

同氏は国内外の学会への活動貢献も精力的に行っています.応用物理学会においては,代議員や分科会幹事,支部理事などを務めるとともに,九州支部主催のリフレッシュ理科教室では実行委員を務めるなど,若い世代の理科教育にも貢献しています.

以上のように,同氏は多くの先駆的な研究を推進するとともに,学会活動や人材育成にも大きく貢献しており,本賞の受賞者としてふさわしい研究者です.今後のさらなる研究の発展と国際的な活躍が期待されます.

研究業績部門(若手)受賞者
池田佳奈美氏(大阪府立大学 大学院工学研究科 助教)
業績
空間光制御を用いた情報処理と計測に関する研究

池田佳奈美氏は,空間光制御を用いた情報処理と計測に関する研究に取り組んでいます.体積ホログラムを用いた光相関演算による超高速照合の実証は同氏が世界に先駆けて達成したもので,情報処理データが急増する IoT 時代における高速データ照合システムの実現に向けて非常にインパクトの高い重要な成果です.また空間光学系情報処理と光通信システムを融合させた新たな研究領域拡大も精力的に展開し,大容量光通信のために近年開発されているマルチコア光ファイバによる空間イメージングや自由空間光通信システムへの光空間周波数フィルタリング技術の適用などで着実に成果を上げています.特にマルチコア光ファイバによる空間イメージングは新規の小型イメージングシステムの1つとして注目されています.

このように同氏は,空間光学系による情報処理や計測技術と光通信分野技術などの融合を推進しており,応用物理分野における新たな領域の創出への貢献も大きく期待できるものと考えられ,今後ますますの活躍が期待されます.

研究業績部門(若手)受賞者
髙村真琴氏(日本電信電話株式会社 NTT物性科学基礎研究所 主任研究員)
業績
大面積グラフェンを用いた新機能デバイスに関する研究

髙村真琴氏は,日本電信電話株式会社に入社後一貫して,次世代の光・電子デバイス材料として期待されているグラフェンに関する研究に取り組んでいます.

同氏は世界最高レベルの特性を有するグラフェンのウエハースケール大面積作製技術の開発により,グラフェンを基盤としたナノ電気機械システム(NEMS: Nano Electro Mechanical Systems)デバイスの動作を実証し,ナノ機械共振器のエネルギー散逸機構に関する重要な知見を示しました.これらはグラフェンのNEMS応用を切り拓く先駆的な成果の1つとして同分野の発展に寄与しています.近年では,同氏はグラフェンの光電子融合デバイス応用においても先進的な成果をあげております.一例を示しますと,パターニングした自己組織化単分子膜を用いることでグラフェンのキャリヤ密度を空間的に変調する手法を開発し,グラフェン原子層内のプラズモン伝搬を電気的に制御することに成功しています.本成果は,原子層ナノ光電子集積回路の実現に向けた革新的な技術として期待されています.同氏は,スペインでの在外研究によりナノスケールの物性評価手法である散乱型近接場光学顕微鏡の技術を習得し,専門知識の拡大にも精力的です.

以上のように,同氏は,今後も,ますますの活躍により学術界・産業界への貢献が大いに期待される若手研究者であり,本賞の受賞に相応しい方です.

2020年度女性研究者研究業績・人材育成賞(小舘香椎子賞)表彰委員会

委員長
近藤高志
委員
有吉恵子,加藤一実,小寺哲夫,庄司一郎,筑本知子,藤原聡,渡邉恵理子