高温超伝導SQUID磁気センサを利用した地下深部探査・モニタリングの最近の取り組み 高温超伝導SQUIDは地熱資源や二酸化炭素地下貯留のイメージングで着実に実績を増やしています 田邊 圭一 超電導センサテクノロジー株式会社 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

超電導センサテクノロジー株式会社(SUSTEC)では,酸化物高温超伝導材料 [*1] を用いた超伝導量子干渉素子(Superconducting QUantum Interference Device: SQUID [*2])磁気センサの製造・販売を主に行っている.また,同センサを用いた地下3000 m超深部の探査が可能な地下探査装置を開発し,地熱発電用の熱水資源探査や,CO2排出削減の切り札の1つとして注目を集めている二酸化炭素回収・貯留(Carbon dioxide Capture and Storage: CCS [*3])の監視・モニタリングなど,カーボンニュートラル達成にも大きく貢献する地下探査サービスへの展開を目指した開発を行なっている [1].本コラムでは,地熱資源探査や地下の二酸化炭素の貯留状況のモニタリングに関する最近の実績をいくつか紹介する.

2022年の11月から12月にかけて,インドネシア共和国スマトラ島南部の地熱地域において,地下の3次元情報を得るために必要な磁場の直交3成分の高精度計測を可能とする新型のSQUID地下探査装置 [*4](SUSTEM®)による初めての探査を行った.この地域は,インドネシアの地熱発電会社が日本企業の一部出資を得て開発することが予定されており,我々は経済産業省資源エネルギー庁の「アジアグリーン成長プロジェクト推進事業」[2] の補助を受けて探査を行った.現場は図1に示すような熱帯ジャングルに覆われた山岳地帯である.探査では,過渡応答電磁(Transient Electro–Magnetic: TEM)法あるいは時間領域電磁探査(Time Domain Electro–Magnetic: TDEM)法とも呼ばれる方法 [3] に基づく計測を行った.麓の作業道を利用して長さ約5 kmの両端を接地した電線を敷設し,約30 Aの電流を流すことにより磁場を印加し,電流を遮断した際に発生する誘導電流が地下に拡散する過程で発生する磁場(2次磁場と呼ばれる)の時間変化を,電線から2–5 km程度離れた約40か所の地点でSUSTEMにより計測した.この2次磁場の時間変化を逆解析することにより地下の電気抵抗の分布を割り出すが,ここで米国の提携企業 [4] が開発した3次元逆解析コードが初めて適用された.図2には逆解析により得られた約6 km × 6 km,深さ約3500 mまでの領域の比抵抗3次元分布と,東西方向にスライスした断面図を示す.深さ500–1000 mに比抵抗が2–3 Ω mと特に低い領域があり,200 °C以上の高温の熱水貯留層の存在を示している [5].この地域で以前に実施された従来のMagneto–Telluric(MT)法 [*5] による探査結果と比べ地表付近から深部までより細部の構造がわかる比抵抗分布が得られ,この結果を含めた総合的な地質解釈に基づいた掘削が2年後に予定されている.また,国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合機構(NEDO)の助成事業 [6] により大分県玖珠郡九重町の地熱発電所近傍での試験探査も実施しており,解析結果と井戸情報との照合も近々行う予定である.

図1: インドネシア・スマトラ島での地熱探査の様子.
図2: インドネシア・スマトラ島での探査で得られた
(a) 地下比抵抗の3次元分布、および (b) 比抵抗断面図の例.

二酸化炭素地下貯留のモニタリングに関しては,環境省プロジェクトにおいて,2023年より苫小牧沖のCCS大規模実証現場で浅海域の海底にSQUIDセンサ容器を投入しての計測試験を実施している.一方,二酸化炭素の地下貯留では,石油・ガス貯留層や海底下帯水層を利用した貯留に加え,CaやMgを含む火成岩地層中に海水とCO2を圧入し,鉱物化させることによりCO2を固定するCCM(Mは“mineralization” [*6])の試みも行われている.図3には,中東地域のCCM実証現場において実施したSUSTEMによる計測の様子を,また図4には海水/CO2圧入後に実施した計測データから3次元逆解析で割り出した地下の比抵抗分布を示す.図4からは圧入による低比抵抗領域の広がりが明瞭である.今後も,陸上および海上CCS(CCM)現場での実証からモニタリングサービス提供に繋げていく予定である.

図3: 中東での計測試験の様子.
図4: 海水/CO2圧入後の地下比抵抗の分布.

参考文献

  • [1]SUSTECホームページ [Web]
  • [2]経済産業省資源エネルギー庁 [Web]
  • [3]田邊圭一, GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理「脱炭素に貢献する高温超伝導SQUID磁気センサ」(2021–22) [Web]
  • [4]TechnoImaging LLC [Web]
  • [5]M. S. Zhdanov et al., “SQUID TEM method for geothermal resource exploration: a case study in Southern Sumatra, Indonesia,” presented at IMAGE'23 (Aug 28–Sept 1, Houston, USA).
  • [6]新エネルギー・産業技術総合開発機構, 新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業 [Web]

注釈

  • [*1] 1986年に発見された酸化物の超伝導体の一群で,液体窒素温度(−196 °C)より高い絶対温度90度(−183 °C)を超える温度で超伝導現象を示す多くの材料が見つかっている.
  • [*2] 超伝導体のジョセフソン効果を利用して極微少な磁束を測定するための高感度な磁束計素子のこと.本記事で説明したように地中からの微弱な磁場を計測できるほか,生体が活動するときに発生する微弱な磁場を検出する脳磁計や心磁計などの生体磁気計測,微弱な電圧や電流などの物理計測などに応用されている.
  • [*3] CO2の回収や貯留技術のこと.CO2の発生を前提として,CO2が大気中に貯まらないよう大気に放出される前に回収して地中などに貯留したり,素材製造などに利用したりする技術を指す.
  • [*4] 液体窒素冷却で駆動する超高感度なSQUIDを使用している.送信機からの1次磁場によって励起された地層からの2次磁場を,SQUIDセンサを搭載した受信機で検出して解析することにより,地層中の比抵抗構造を調べることができる装置のこと.
  • [*5] 電場と磁場を測定して地中の比抵抗を求める方法のこと.信号源としては自然の電磁場の変動を利用するが,人工信号源を用いる方法もある.
  • [*6] CO2を水や海水に溶解させて火山性の岩石に注入して鉱物化(mineralization)することによって,CO2を除去して排出量を抑制する技術.

著者プロフィール

田邊 圭一

(たなべ けいいち)

超電導センサテクノロジー株式会社(SUSTEC)代表取締役社長.東京大学工学系研究科修士課程修了後,NTT研究所勤務を経て,1995年(公財)国際超電導産業技術研究センターに出向(後に転籍)し,2014年より同財団の超電導工学研究所長,2016年より超電導センシング技術研究組合理事長,2020年SUSTEC設立後現職.東京大学博士(工学),応用物理学会フェロー,専門は超伝導材料,超伝導エレクトロニクス応用.