公益社団法人 応用物理学会

脱炭素に貢献する高温超伝導SQUID磁気センサ 野外で自在に使える超高感度磁気センサ技術として成熟した高温超伝導SQUIDはGXにも貢献 田邊 圭一 超電導センサテクノロジー株式会社 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

はじめに

量子効果がマクロスケールで現れる超伝導現象の特徴を利用した様々な超高感度センサ類が実用化されている.このセンサ類で最も古い歴史をもつのが超伝導量子干渉素子(Superconducting QUantum Interference Device: SQUID)磁気センサである.極低温の液体ヘリウム温度(4.2 K)で動作する金属系超伝導体を用いたSQUID磁気センサは,実用化されている磁気センサの中では最も感度が高く,多チャンネルのセンサを用いた脳磁計 [1] や心磁計 [2] などの生体磁気計測装置が研究現場や一部の病院で利用されている.

酸化物系の高温超伝導体を用いたSQUID磁気センサは,感度は少し劣るものの,扱いが容易で世界中どこででも手に入る液体窒素冷却で使用できるため,野外での使用に適している.実際,高温超伝導SQUIDを用いた金属資源用の地下探査装置が約20年前にドイツやオーストラリアで実用化され [3, 4],その後国内でも深さ1,000 mにある金属資源を探査可能な高性能地下探査装置が実用になった [5, 6].さらに最近,この高性能探査装置がさらに地中深く2,000~3,000 mにある地熱発電用の熱水貯留層探査や,CO2排出削減の切り札の一つとして注目を集めている二酸化炭素回収・貯留(Carbon dioxide Capture and Storage: CCS)の貯留層として利用される油層や海底下地層の状態の監視・モニタリングに役立ち,カーボンニュートラル達成にも大きく貢献できることがわかってきた.

高温超伝導SQUID磁気センサと地下探査技術

SQUID磁気センサの基本要素は,図1(a)に示すように,ジョセフソン接合と呼ばれるスイッチを2個含む超伝導体の並列ループ回路(SQUIDループと呼ばれる)である.ジョセフソン接合は,臨界電流と呼ばれる一定値以下の電流を流しても電圧は発生しないが,臨界電流値を超える電流を流すと小さな電圧が発生する.この並列回路に臨界電流よりわずかに小さな直流電流を流した状態で,外部磁場をループに加えると,磁束量子化という超伝導特有の現象により,図1(b)に示すようにループ両端に現れる電圧が周期的に変動し,その周期は磁束量子(Φ0 = h/2e = 2.07 × 10−15 Wb; hはプランク定数,eは電子の素電荷)と呼ばれる物理量になる.磁気センサとして使用するには,Flux-Locked Loop(FLL)回路と呼ばれるフィードバック回路を用い,ループに近接したコイルに電圧に比例した電流を流し,逆向きの磁場をかけて外部磁場による磁束を打ち消し,磁束の状態をある一点にロックする.この時のフィードバック電流の大きさが,ループに鎖交した磁束の変化量に比例するため,非常に小さな磁束の変化が検出できるわけである.SQUIDループは数ミクロンの大きさであるが,さらにセンサの磁場に対する感度を上げるため,測定対象に合わせた大きなサイズの磁場検出コイルを磁気的あるいは直接ループに結合して用いる.SQUID磁気センサは,直流からFLL回路の帯域のMHz程度まで感度が周波数によらず一定という他の磁気センサにはない広帯域特性をもち,これが地下探査に有利に働く.

図1: (a) SQUID磁気センサの構成.(b) 外部磁束印加による出力電圧の変化.

図2(a)には,国内で市販されている高温超伝導SQUID磁気センサ [7] の写真を示す.15 mm角の酸化マグネシウム(MgO)単結晶基板の外周に沿って磁場検出コイルが形成され,外部磁場により誘起される遮蔽電流がジョセフソン接合を含む小さなSQUIDループに流れ込み,電圧として検出される.2層の超伝導薄膜と絶縁体薄膜の積層により作られているのが特徴で [8],海外で作られている超伝導薄膜1層から構成されるセンサに比べ,1,000倍以上大きな磁場中でも安定して動作する.このような薄膜積層型の高温超伝導SQUID磁気センサを用いた金属資源用の地下探査装置は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の委託で2012年頃にSQUITEM3号機と呼ばれる実用機が開発され [5, 6],現在4台ほどが海外での金属資源探査に用いられている.図2(b)には,金属資源よりさらに深部3,000 mの探査用に最近開発した最新鋭の地下探査装置の写真を示す.円筒形のプラスチック容器内にガラスデュワが格納され,約0.7リットルの液体窒素で直交3成分のセンサを7時間以上冷却できる.プラスチック容器には特殊な電磁シールドが施され,無線通信電波等を遮断している.プラスチック容器には短いケーブルでFLL回路が接続され,さらにテータ収集・処理用の受信機に接続される.

図2: (a) 薄膜積層型の高温超伝導SQUID磁気センサの写真.(b) 深部3,000 m探査用の地下探査装置.

金属資源探査での典型的な機器配置を図3(a)に示す.地上に一辺が100~200 m程度のループ状のコイルを敷設し,正負の電流を流しては切るを繰り返す.電流が急激に切断されると電磁誘導により地表に電流が誘起され,減衰しながら地中に伝わっていく.この地中電流の作る磁場(二次磁場)の時間変化をコイル中心に置いたSQUID磁気センサで測定する.この方法は,時間領域電磁探査(Time-Domain Electromagnetic: TDEMあるいはTEM)法と呼ばれる物理探査方法である.電流のON–OFFを100~1,000回繰り返し,スタッキングと呼ばれる平均化処理を行うことで,ランダムな環境ノイズは除去され,SQUID磁気センサ本来の超高感度性が発揮される.従来の誘導コイルをセンサに用いた探査深度約500 mのTEM法に比べ,より深い1,000 m程度の探査が可能となる [9].地中電流の減衰の仕方は地層の電気抵抗に依存し,例えば電気抵抗が小さい銅や鉄の硫化物やニッケルの鉱石がある深さではゆっくり減衰する.この二次磁場の減衰特性を解析することで,地中の電気抵抗の深さに対する分布を割り出す.コイルの位置をずらしていき同じ測定を繰り返すことで,金属資源の位置や深さ,量の情報が得られ,この情報をもとにボーリング位置が絞り込まれる.

図3: (a) TEM法に基づく金属資源探査の場合の代表的な装置配置.(b) コイル電流による一次
磁場と地中に誘起された二次磁場の時間変化.写真は豪州での金属資源探査の様子.

地熱探査と二酸化炭素地下貯留モニタリングへの応用

我が国は世界第3位の地熱資源保有国である.地熱発電は再生可能エネルギーであり,かつ天候に左右されないベースロード電源として期待されてきたが,ここ最近発電量はあまり伸びていない [10].その原因としては,多くの資源が開発規制された国立公園内にあること,近くに温泉がある地元の理解が必須なことなどが指摘されている [11].日本政府は2030年までに地熱発電量倍増を目標に掲げ,国立公園内開発等の規制緩和が進められようとしているが [12],発電量が伸びないもう一つの原因として,従来の地下探査法では掘削により有望な熱水貯留層に到達する成功確率が非常に低いことがあげられる.水は周りの地層に比べ比抵抗が小さいため,電磁探査法は貯留層探査に向いている.ただ,大規模な地熱発電に利用される熱水貯留層は約2,000 mの深部にあるため,従来は地磁気など自然電磁場の変動に対する応答を調べるMagneto-Telluric(MT)法が主として用いられてきた.MT法は地下10 kmに及ぶ探査深度をもつが,空間分解能,特に水平方向の分解能が悪い,1点の測定に12時間以上を要するなどの課題がある.SQUID磁気センサを用いたTEM法は,地表から深さ約3,000 mまでの比抵抗の情報が得られ,空間分解能に優れる,機器の設置が容易で短時間で測定できるなどのメリットがある [13].MT法の調査がすでに行われた地域での掘削位置を絞り込むための再調査に使われ始めており,今後の普及が期待される.地下3,000 mの探査を行うためには,金属資源探査の場合のようなループ状のコイルではなく,ラインソースと呼ばれる長さ数kmの直線状の磁場源を調査地点から数km離れた場所に設置し用いる.

2050年までのカーボンニュートラル達成は,日本および世界の共通の目標となっている.エネルギー分野では太陽光,風力などの再生可能エネルギー利用の比率がさらに高まるが,天候により発電量の大きな変動があり,これを補償するため火力発電を一定量稼働させることが必要になる.また,次世代エネルギーである水素の多くは現在炭化水素を加水分解して製造しており,CO2が発生する.これら,火力発電,水素製造,その他工場など産業分野から発生するCO2の排出を実質的に減らす切り札の一つと考えられているのがCCS,またはCO2の燃料や製品への利用(Utilization)も含めたCCUSである.国際エネルギー機関IEAの予測では,2050年までのCO2排出削減の約14%はCCUSが担うとされている [14].2020年段階では,建設中のものも含め60か所の商用CCSサイトがあり [15],その約半数はCO2を既存油田の油層に圧入し石油の粘性を変えることで原油の増進回収(Enhanced Oil Recovery: EOR)を行い,コストの問題を解決している.一方,石油・ガス資源の乏しい国では,海底下の地層を利用したCCSが検討されている.日本では,経産省の実証プロジェクト [16] で北海道苫小牧沖の浅海下約1,000 mの深さの地層に約30万トンのCO2がすでに圧入されている.CCSには事業開始前から圧入時また事業終了までの各段階でCO2が確実に貯留され地上に漏れ出していないかの監視・モニタリングが世界的に義務づけられている.これまでCCSやEORのモニタリングには,石油の世界では主流の弾性波探査が試みられてきた.人工的な振動(地震)を起こし,その跳ね返りを調べる弾性波探査は,石油貯留層の上にある石油や水を通しにくいキャップ層と呼ばれる地層の探査に抜群の威力を発揮するが,貯留層の中の流体の違いを見るには必ずしも向いていない.一方,油層にCO2が圧入された場合,電気抵抗が1桁近く変化することが以前より報告されており [17],図4に模式的に示したように,地熱熱水貯留層探査と同じようなラインソースを用いたTEM法によるモニタリングが有効と考えられる.現在,中東産油国での実証試験に向けた準備が進められている.海底下地層の場合にも,圧入による電気抵抗の変化は利用される地層により異なるが,その変化を検知することで,モニタリングが可能と考えられる.SQUIDを用いたTEM法は,弾性波探査に比べコストが1桁小さく,また海洋生物などに与える影響がほとんどない環境負荷の小さなモニタリング手法と期待されている.苫小牧沖での実証試験の準備が環境省のプロジェクトで進められており,SQUID磁気センサを耐圧外装容器に実装し,海中に投入してTEM測定を行う技術開発がほぼ完了している.

図4: SQUID磁気センサを用いたCCUSモニタリングのイメージ.写真は海底下CCSモニタリング用のSQUIDセンサプローブ.

参考文献など

著者プロフィール

田邊 圭一

(たなべ けいいち)

超電導センサテクノロジー株式会社(SUSTEC)代表取締役社長.東京大学大学院工学系研究科修士課程修了後,NTT研究所勤務を経て,1995年(公財)国際超電導産業技術研究センターに出向(後に転籍)し,2014年より同財団の超電導工学研究所長,2016年より超電導センシング技術研究組合理事長,2020年SUSTEC設立後現職.東京大学博士(工学),応用物理学会フェロー,専門は超伝導材料,超伝導エレクトロニクス応用.

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