第16回化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞) 受賞者
- 受賞者
- 藤原 康文 氏(立命館大学教授)
- 業績
- 半導体イントラセンターフォトニクスの学理創成と社会実装
受賞者の藤原 康文氏は,1982年頃より化合物半導体中における金属元素のフォトニクスの研究に従事し,金属元素の電子状態や結晶場の解析,結晶金属元素との相互作用,光学遷移過程等の新しい基礎物理を解明するとともに,希土類元素からの発光を利用するLED,更にモノリシックなフルカラーマイクロLEDディスプレイを実証することにより,基礎物理の応用に成功した.半導体中の金属元素の光物性分野を新たに切り拓くとともに,自ら名付けた「半導体イントラセンターフォトニクス」学理を創出し,世界的に定着させるに至った.更にこれら基礎研究が,波長ゆらぎのない狭帯域発光LEDやマイクロLEDディスプレイへの応用をもたらした点で産業応用の価値を創出し,2025年には株式会社IntraPhotonを共同創業に至り,取締役CTOとして社会実装を進めている.
藤原 康文氏の一連の研究は,Crドープされた半絶縁性GaAs基板中のドーパントCrからの発光解析を出発点とし,希土類元素がドープされたGaAsの発光解析から電子状態を解明する研究に発展した.Er原子の周辺局所構造がEr-2O配置(Ga格子点を置換したErの最近接格子点に2つのO原子を有する原子配置)に秩序制御されたErおよびO共添加GaAsを作製し,フォトルミネッセンス法によりEr3+イオンの4f殻内遷移に起因する1.5µm帯Er-2O発光強度が,100倍程度増大することを確認した.更にそれを活性層としたGaAs/GaInP LEDを作製し,電流注入により室温においてErからの1.54µmの発光動作を実証し,電流注入による励起過程を経てErが発光することを世界で初めて示した.
これら成果を基盤に,藤原氏はGaNへのEu添加に研究対象を移し,ワイドバンドギャップ半導体からのエネルギー輸送の特徴を活かして,Euの励起・発光機構を解明した.即ち,(1) GaN母体からEuへのエネルギー輸送効率がEu発光中心の局所構造に強く依存する,(2) エネルギー輸送効率の高いEu発光中心の形成にはEuの近傍にアクセプタとして働く点欠陥とドナーとして働く点欠陥が共存する必要がある,(3) 不純物を共添加することによりエネルギー輸送効率を意図的に制御可能である,(4) Eu添加GaN/無添加GaN超格子構造において,量子閉じ込め効果を反映してEu発光強度が数倍増大する,(5) 2次元フォトニック結晶を用いた光共振器によるフォトン場の制御からEu発光強度が劇的に増大する.このような基礎物理の応用として,Eu添加GaNを用いた狭帯域赤色LED開発に成功し,(1) 発光半値幅が室温において1nm以下と小さいため色純度が極端に高い,(2) 発光波長の再現性が完全である,(3) 周辺温度の変化に対して,波長安定性が高い(0.001nm/K)等の卓越した利点を実証した.この赤色LEDの光出力1.2mWは従来のInGaAlP系赤色LEDの光出力に匹敵しており,低電流注入域で外部量子効率9.8%の世界最高値を達成している.
本研究成果は,藤原 康文氏の独創性に支えられた半導体イントラセンターフォトニクスの学理創成を基盤に,新規な応用分野を拓く大きな価値があり,受賞者の学術的貢献,分野の発展への貢献,および応用物理学会への貢献を総合して,応用物理学会化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)に相応しいと判断します.以上の理由により同氏を本業績賞に選定致しました.
2025年度 化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)表彰委員会
- 委員長
- 小出 康夫(名城大学)
- 委員
- 熊谷 義直(東京農工大学),竹内 哲也(名城大学),中嶋 一雄(東北大学),平川 一彦(東京大学),平山 秀樹(理化学研究所),森 勇介(大阪大学),山口 敦史(金沢工業大学)