第15回化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞) 受賞者

受賞者
竹内 哲也 氏(名城大学教授)
業績
窒化物半導体における分極効果の先駆的研究と高効率青紫色面発光レーザーの実証

受賞者の竹内 哲也氏は,1990 年代後半に実用化されていたGaInN 歪量子井戸の原因不明の特異な発光特性が,井戸層界面の分極電荷による電場が引き起こす量子閉じ込めシュタルク効果として解釈できることを1997 年に初めて指摘した.翌年には,GaInN 量子井戸内の分極電荷による電場の向きと大きさを定量化し,この分極電荷の発生を抑制する手法として,従来の(0001)面とは異なる面方位,即ち無極性面や半極性面上に素子構造を形成する手法を提案した.これら一連の発表は,当時の窒化物半導体研究者たちに,分極電荷の存在と影響の大きさ,その制御手法を速やかに伝え,その後の分極に関連する数多くの研究成果を創出する呼び水となった.即ち,窒化物半導体のようなワイドギャップ半導体では,半導体的性質のみならず誘電体的性質である分極効果を考慮する必要性が極めて高いことを初めて世に知らしめた.引き続き同氏は,分極電荷の新たな活用として,ワイドギャップ半導体の本質的な課題である不純物ドーピングの限界を打破すべく,不純物を必要としない分極ドーピングによる正孔生成や,世界初GaInN を含むGaN 系トンネル接合を実証するなど,その黎明期より研究を牽引している.現在,この新しい電気伝導制御手法は,今後の社会実装が期待される新規光デバイスである深紫外レーザー,そしてフルカラーマイクロLED アレイ実現に欠かせない要素技術として活用されている.

また,同氏は,高効率GaN 系青紫色面発光レーザーに半導体多層膜反射鏡の実装を実現し,2015 年に室温連続動作を実証した.2017年には,自らが指摘した分極電荷を考慮した設計に基づき,AlInN/GaN 多層膜反射鏡へのn 型伝導性の付与に成功,その室温連続動作を世界に先駆けて実証した.こうした一連の成果は,国内におけるGaN 系面発光レーザーの研究開発を再燃させ,今では,複数の日本企業が,上述した同氏らが開発した構造に倣った面発光レーザーの開発に取り組み,世界を圧倒する性能を得るに至っている.

化合物半導体エレクトロニクスの学術とデバイス応用は,混晶物性とバンドエンジニアリングを礎として発展してきた.竹内 哲也氏は,窒化物半導体を例に,これまで認知されていなかった,分極効果の発現と応用という新しい学術・技術分野を切り拓くとともに,実際に高性能デバイスを実証する水準までその可能性を高めるなど,化合物半導体エレクトロニクス分野に顕著な進展をもたらしている.以上の理由により同氏を本業績賞に選定致しました.

2024年度 化合物半導体エレクトロニクス業績賞(赤﨑勇賞)表彰委員会

委員長
小出 康夫(物質・材料研究機構)
委員
熊谷 義直(東京農工大学)平川 一彦(東京大学)平山 秀樹(理化学研究所)森 勇介(大阪大学)山口 敦史(金沢工業大学)