第26回光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞) 受賞者
- 受賞者
- 米田 仁紀 氏(電気通信大学)
- 道根 百合奈 氏(電気通信大学)
- 業績
- 最短波長 X 線原子レーザー実現および超高耐力光学素子開発など,先端レーザー科学・技術の開拓
米田 仁紀氏は,電気通信大学レーザー新世代研究センター(元新形レーザー研究センター,前レーザー極限技術研究センター)において,短波長レーザー及び高出力レーザーの研究,および関連分野の研究開発の発展に積極的に取り組み,独創的なアプローチに基づき,数々の顕著な成果を挙げてきた.短波長レーザー研究は,電通大における高出力エキシマレーザー研究で開始した.その後,理化学研究所播磨研究所で開発されたX 線自由電子レーザーのレーザー科学への応用に取組み,Sn 原子N 殻電子の飽和吸収による高強度VUV 光(51 nm)異常透過現象の発見,高強度(1020 W/cm2)X 線によるFe 原子K 殻吸収端(7.113 keV)のエッジシフトと飽和吸収の観測など,軟X 線,硬X 線領域における内殻励起の知見を積み上げた.これらの成果に基づき,硬X線領域の原子レーザー実現に取り組んだ米田氏は,2015 年に銅原子の内殻電離による波長1.5 オングストローム(光子エネルギー8 keV)レーザー実現に成功した.これは,従来の最短波長(1.46 nm)を1 桁上回る短波長硬X 線領域の原子順位レーザーであった.さらにSACLA の2波長発振を利用して波長可変X 線を生成し,Cu Kα 線のシード光増幅にも成功し,原子のオージェ遷移寿命を超えるレーザー狭窄化を実現した.XFEL のレーザー品質を高め,硬X 線領域の非線形光学に道を開いた独創的研究である.
それに加えて,レーザー高出力化を制約している光学素子の高耐力化に精力的に取組み,誘電体多層膜のレーザー耐力の大幅な向上に目途を付け,我が国の光学産業の高度化に重要な貢献をしつつある.その中で,道根 百合奈氏と共に独創的発想を発展させ,従来の固体光学素子よりけた違いに高いkJ/cm2 を超える損傷しきい値をもつ,全く新しい気体光学素子開発に成功した.オゾン気体中に周期的密度変調を作り,体積型回折格子とすることで一次回折効率は95 % 以上と高い.この技術は高出力超高強度レーザー及びその利用に大きな変革をもたらす可能性があり,国内外の研究機関との共同研究が進められている.米田,道根両氏の発想力とそれを原理実証から実用可能な光学素子に発展させた研究力はさらなる発展が期待される.これらは,高強度レーザー光と物質との相互作用に関する基礎的な研究から生み出された画期的成果である.レーザーのジャンルにとらわれず,原子分子,非平衡プラズマ物理,X 線計測など広い分野の研究を推進してきた総合的知見が新しい分野開拓に結実した業績で,受賞にふさわしいと評価できる.
追記するならば,米田氏は1996 年以来,電通大レーザー研において,学生が実験を自ら考案し他の学生を教えることを通じて学ぶ問題設定型光科学教育プログラムETL,ATL,さらには危機・限界体験実験プログラムなど画期的な教育システムを持続的に実践してきた実績がある.人材育成の点からも大きな業績を上げており,道根氏はその成果の典型とも評価できる.
以上の審査結果を踏まえて,米田 仁紀,道根 百合奈両氏を受賞者に選考した.
2024年度 光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)表彰委員会
- 委員長
- 植田 憲一
- 委員
- 大和 壮一,加藤 義章,香取 秀俊,五神 真,清水 富士夫,武田 光夫,中沢 正隆,野田 進,原 勉