第22回光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞) 受賞者
光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)表彰委員会
委員長 植田 憲一
光・量子エレクトロニクス業績賞は,光・量子エレクトロニクス研究分野において顕著な業績をあげた研究者を顕彰することを目的として,故宅間宏先生(電気通信大学名誉教授)の紫綬褒章(応用物理部門)受賞記念パーティーと定年記念会におけるご祝儀,および宅間宏先生からのご寄付を基金として1999年に創設されました.その後も,光・量子エレクトロニクス分野の研究者による寄付によって基金を補充して現在に至っています.第22回光・量子エレクトロニクス業績賞の選考は,『応用物理』7,8,9月号に掲載された公募に対して2020年10月31日までの過去3年間に推薦があった5件の候補者について表彰委員会において慎重な審議を行った結果,百生 敦氏,矢代 航氏,横関俊介氏に第22回光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)を授与することを決定しました.
なお,授賞式は2021年春季学術講演会(オンライン開催)の初日夕刻に行われます.また受賞者による受賞記念講演が学術講演会の会期中に行われますので,是非ご参集ください.
- 受賞者
- 百生 敦 氏(東北大学 教授)
- 矢代 航 氏(東北大学 准教授)
- 横関 俊介 氏(九州工業大学 名誉教授)
- 業績
- Talbot干渉計による位相計測とX線位相イメージングの先駆的研究
百生敦氏と矢代航氏はTalbot干渉計を用いたX線位相イメージング技術を開発し,医学分野への応用と実用化に多大な貢献をした.横関俊介氏はTalbot干渉計による位相計測の原理を考案・実証し,その礎を築いた.
X線撮影は医療や非破壊検査に欠かせない技術である.だが,これまでのX線像は吸収コントラスト像であったため,骨や造影剤を付加した臓器などのX線吸収係数の大きな組織に撮像対象が限定されてきた.百生氏と矢代氏はTalbot干渉計を用いてX線の位相情報を検出する「X線位相コントラストイメージング技術」を世界に先駆けて開発し,これまで見ることのできなかった生体軟組織や高分子材料の高感度X線撮像への道を切り拓いた.そして,X線位相コントラストイメージングとCT技術を組み合わせることによりX線位相トモグラフィーを実現した.さらに,X線位相記録・再生の高速化によりX線位相動画撮影を可能にするとともに,CT化して4次元動的立体X線位相コントラストイメージングに発展させた.現在,これらの技術は企業により実用化されて病院に導入され医療の高度化に大きく貢献している.
横関氏は1971年にTalbot効果(周期的構造を持つ光波動場の自己結像効果)による自己結像周期像(Talbot像,Fourier像)の歪から入射波の位相を高感度検出する格子シアリング干渉計(Talbot干渉計)の原理提案と実証実験を行った.さらに,Talbot干渉計を波面収差計測や高感度コリメーションテストに応用するとともに,電子技術との融合を実現した.Talbot干渉計は構成が簡単で,共通光路干渉計のため外乱に極めて安定で,物質波(原子波や電子波)やX線やEUV光などの低コヒーレンス光源に対しても有効なため,現在,応用物理学の広い分野で有用な技術として利用されている.百生氏と矢代氏のX線位相コントラストイメージングは,Talbot干渉計の利点を巧みに生かした応用の成功例として大きなインパクトを与えた.その礎となった横関氏によるTalbot干渉計の発明の意義は大きい.
このように,現在の先端研究として「Talbot干渉計によるX線位相イメージング技術の開発と実用化を実現した」百生氏と矢代氏のチームと,その礎となる「Talbot干渉計の原理を半世紀前に考案した」横関氏は,互いに独立な研究グループでありながら,ともに「現在」と「過去」における当該研究の先駆者として応用物理学の発展に大きく貢献した.以上の理由により,光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)にふさわしいと判断した.
2020年度光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)表彰委員会
- 委員長
- 植田憲一
- 委員
- 大和壮一,加藤義章,五神真,清水富士夫,武田光夫,中沢正隆,野田進,山西正道