公益社団法人 応用物理学会

第20回光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞) 受賞者

光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)表彰委員会
委員長 植田憲一

光・量子エレクトロニクス業績賞は,光・量子エレクトロニクス研究分野において顕著な業績をあげた研究者を顕彰することを目的として,故宅間宏先生(電気通信大学名誉教授)の紫綬褒章(応用物理部門)受賞記念パーティーと定年記念会におけるご祝儀,および宅間宏先生からのご寄付を基金として1999年に設立されました.その後も,光・量子エレクトロニクス分野の研究者による寄付によって基金を補充して現在に至っています.第20回光・量子エレクトロニクス業績賞の選考は,『応用物理』7,8,9月号に掲載された公募に対して2018年10月31日までの過去3年間に推薦があった7件の候補者について表彰委員会において慎重な審議を行った結果,田中耕一郎氏に第20回光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)を授与することを決定しました.

受賞者
田中耕一郎氏(京都大学教授)
業績
高強度テラヘルツ光による固体極端非線形光学応答の研究

田中耕一郎氏は,テラヘルツ周波数領域(遠赤外領域)の高強度な光源を開発することによって,固体物質では実現することの難しかった極端な非線形光学現象を明らかにしてきました.これまでもテラヘルツ光は透視画像の取得や遠赤外域の精密分光に使われてきましたが,テラヘルツ光の光強度を大きく高めることで,固体との相互作用において質的に異なる新しい世界が存在することを示した点は画期的な進歩をもたらしました.

極端非線形光学現象は,物質の中の電子系と光の相互作用エネルギーが電子系を特徴付けているエネルギー(例えば,イオン化エネルギーやバンドギャップエネルギー)と同程度かそれを凌駕したときに発現される光学現象です.実験的には,原子に高強度な可視域のパルス光を照射した際に高次高調波発生として現れることが1990年代に明らかとなってきました.しかし,原子に対して用いたような高強度な可視光パルスを固体に照射すると破壊されてしまうことから,固体における極端非線形光学現象の解明は全く進んでいませんでした.田中氏は,照射する光の周波数をテラヘルツ領域まで低くすることにより破壊することなく極端非線形光学現象を観測できるとの着想の下,それに必要な電場強度を有するテラヘルツ光源の開発を進めてきました.2011年に,パルス先頭電場値で1.2MV/cm(先頭磁場は0.4T)を超えるテラヘルツ光源を世界で初めて実現しました.これは,その時点での世界の記録を3倍以上塗り替える画期的なものでした.現在では,この方式は世界中の研究者によって使われています.この光源によって,固体における極端非線形光学現象の観測が可能となりました.実際,田中氏は巨大なキャリア増幅現象や巨大な磁化変調など,数多くの極端非線形光学現象を見いだしています.

現在このような高強度テラヘルツ光発生と固体におけるテラヘルツ極端非線形光学の研究は,爆発的な勢いで世界中に広がり,摂動論では記述不可能な非線形光学現象が観測され始めています.理論的にも,「高強度場物理」の観点からの普遍的な興味で固体における極端非線形光学現象の理論構築が進んでおり,大きな研究の流れを生みだしています.田中氏の一連の研究はその発端として位置付けられるものです.

以上のように,テラヘルツ光の発生と応用分野における田中耕一郎氏の学術研究の成果と重要性は顕著であり,光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)にふさわしいと判断しました.

2018年度光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間宏賞)表彰委員会

委員長
植田憲一
委員
大和壮一,加藤義章,五神真,清水富士夫,武田光夫,中沢正隆,野田進,山西正道