第25回(2024年度)応用物理学会業績賞 受賞者

第25回 応用物理学会業績賞(研究業績)

件名
光機能半導体の基礎特性の先駆的解明と光エネルギー変換への応用
受賞者
金光 義彦 氏 (京都大学化学研究所 特任教授)

金光 義彦氏は,ナノ構造やペロブスカイト構造を利用した新たな光学現象や高効率な光エネルギー変換機能を,緻密なレーザー分光計測を駆使して次々と発見・解明する極めて独創的かつ先駆的な研究を行ってきた.一連の研究は半導体の新たな可能性を開拓し,ナノ結晶やカーボンナノチューブ,ハライドペロブスカイトなどの高性能半導体材料の発展に大きく貢献した.

1990 年代初頭,同氏はSi,Ge,SiC などのエレクトロニクス材料をナノ結晶化することで,これらが室温で可視発光することを発見した.この発見により,発光しない物質もナノ構造化してエキシトンの量子効果を利用すれば,発光材料として利用できることが示された.また,Si ナノ量子構造やSi 化合物を用いて電子構造の変 化を解明し,これによってSi ナノ結晶のサイズや表面構造の操作による発光色の調整が可能となり,シリコンフォトニクスの基盤が築かれた.この研究は,ナノ結晶を用いたデバイスの性能向上や,新しい光科学分野の発展に寄与した.

更に,同氏は一本の半導体カーボンナノチューブからの発光を低温かつ磁場中で計測し,ダークエキシトンの観測に成功した.また,ナノチューブに正孔をドーピングすることでトリオンが室温で安定に存在することを示し,複雑な電子構造の理解を深めた.これらの研究は,新しい量子光科学の扉を開き,マルチエキシトン生成などの非線形光学過程がナノチューブやナノ結晶で効率的に起こることを明らかにした.

加えて,同氏はハライドペロブスカイトの基礎特性を解明し,これが高効率な太陽電池材料となる理由を示した.この結果は,デバイス研究に有用な指針を与え,多くの研究者の参入を促進するとともに,産業応用にも貢献した.また,環境に配慮した非鉛ペロブスカイト太陽電池の開発にも成功し,新しい光電変換デバイスの研究を先導してきた.

以上のように,金光義彦氏は,半導体材料の基礎光物性の究明を通して,半導体の新たな可能性を開拓し,ナノ結晶やカーボンナノチューブ,ハライドペロブスカイトなどの高性能半導体材料の発展に大きく貢献した.同氏の推進してきた,レーザー分光計測を駆使して半導体の光電変換過程の基礎特性を究明しデバイス応用への基盤を提供する研究は,分野横断的な応用物理分野ならではの優れた研究といえる.このように,金光氏の業績は応用物理学会業績賞(研究業績)に真に相応しいものである.

金光 義彦 (かねみつ よしひこ)

所属/役職

京都大学化学研究所特任教授
京都大学名誉教授

略歴

受賞と表彰

専門分野

光物性物理学,半導体フォトニクス

第25回 応用物理学会業績賞(研究業績)

件名
超高効率太陽電池開発とその実用に関する先駆的研究
受賞者
山口 真史 氏 (豊田工業大学 名誉教授 招聘研究員)

山口 真史氏は,Ⅲ‐Ⅴ 族半導体を用いた高効率太陽電池の研究で卓越した成果を挙げ,多接合および集光式太陽電池における技術革新をもたらした.光電変換効率の向上と放射線耐性の強化により,宇宙用途など極限環境に耐える太陽電池の開発を可能にした.また,これらの成果は太陽電池の性能向上にとどまらず,実用化および産業利用の基盤技術として国内外のエネルギー分野に重要な役割を果たしており,持続可能なクリーンエネルギー社会の実現に大きく貢献した.

同氏は早くから太陽電池の可能性に着目し,InP 系およびInGaP 系多接合太陽電池がSi やGaAsに比べて高い放射線耐性を有することを発見した.特に,太陽光照射などの少数キャリア注入による放射線照射欠陥のアニール現象の発見とメカニズムの解明を通して,宇宙用途をはじめとする厳しい環境下でも耐久性の高い太陽電池の開発を可能にした.また,トンネル接合における不純物拡散の課題に対して,独自のダブルヘテロ構造を提案し,不純物拡散を抑えることで長期的に安定した性能を確保している.この構造は現在も太陽電池技術の基盤として広く活用されており,高効率で信頼性の高い太陽電池の設計に貢献している.加えて,高集光度での変換効率向上を目指し,小型セルや冷却技術を活用した新しい集光方式の開発に取り組み,集光度300 倍での変換効 率44.4 % という世界最高レベルの成果を達成した.このような技術的成果は企業との共同研究にも結実しており,日本国内における集光式多接合太陽電池の実用化を大きく推進した.

さらに,同氏は太陽電池技術の応用範囲を広げるためにも大きな貢献を果たしてきた.特に,Ⅲ‐Ⅴ 化合物半導体やペロブスカイトとSi をハイブリッド化したSi タンデム太陽電池の研究に取り組むことで新材料系の開拓を進め,太陽電池の可能性を拡大させた.また,同氏が開発したヘテロ積層技術やトンネル接合技術は,太陽電池にとどまらず,LED やレーザーダイオードなどの発光素子や,高電子移動度トランジスタなど多様な電子デバイスに応用され,幅広い産業分野で活用されている.さらに,NEDO「太陽光発電システム搭載自動車検討委員会」の委員長として,太陽光エネルギーのみで走行可能な自動車の開発を推進し,CO2 排出削減や充電インフラ負担の軽減を実証した.これにより,持続可能な社会を目指すクリーンエネルギー技術の社会実装を推進し,太陽光発電の普及と発展に貢献している.

以上のように,山口真史氏は,太陽電池の技術的発展とクリーンエネルギー社会の創成に貢献するものであり,その卓越した業績は応用物理学会業績賞(研究業績)の授与に真に相応しいものである.

山口 真史 (やまぐち まさふみ)

所属/役職

豊田工業大学名誉教授・招聘研究員

略歴

受賞と表彰

第25回 応用物理学会業績賞(教育業績)

件名
リフレッシュ理科教室をはじめとする科学教育・啓発活動による青少年人材育成の推進
受賞者
平松 信康 氏 (福岡大学 名誉教授)
髙井 吉明 氏 (愛知工業大学 総合技術研究所 客員教授)
香野 淳 氏 (福岡大学 教授)

平松 信康氏,髙井 吉明氏,ならびに香野 淳氏は,応用物理学会の社会貢献事業の1つであるリフレッシュ理科教室の礎を築き,地域や他団体との連携をすすめて現在の形に定着させるまで四半世紀に亘り牽引し,これらの科学教育・啓発活動を通して青少年人材育成の推進に大きく貢献した.

次世代の科学技術を担う青少年の理科離れを食い止め,科学への理解を増進するために,同氏らを中心に1997 年に九州支部で「リフレッシュ理科教室」を初開催し,続いて1998 年より東海支部でリフレッシュ理科教室を開催している.また同年には中国四国支部,翌年には北陸・信越支部でも開催されるようになった.

リフレッシュ理科教室は,小中学校の現場の教員が実験工作を通じて科学の楽しさを体験し原理・原則を再認識すると共に,身近な社会生活の中での応用例や先端科学技術の紹介を受けて科学への理解を深め,児童とのコミュニケーションをはかることによってより多くの児童に科学への興味,関心をもたせることを意図した取り組みである.2001 年には各支部に全国展開,その後応用物理教育分科会も参加するなど組織的に実施される教育・理科啓発活動として発展し,現在に至って続けられており,その礎を築いた同氏らの功績は顕著である.加えて,同氏らが九州地区,東海地区の離島や僻地で開催した九州支部 – 東海支部連携の活動が,都市部で開催される理科教室への参加が容易でない離島や被災地にも展開する「遠隔地支援型出張リフレッシュ理科教室」の基盤となったことは独創的である.また,上海万国博覧会に理科工作ブースを出展するなど,海外への展開も達成した.さらに,コロナ禍を機に,オンライン・オンデマンド理科教室といった新しい形態の理科教室を立ち上げると共に「おうぶつクラブ」を新たに組織して一般市民を取り込むなど,社会の動きに即して,リフレッシュ理科教室の活動の幅を広げ,応用物理学会を中心・起点とする広い意味での科学教育・啓発活動の基盤形成に貢献してきた.

リフレッシュ理科教室の実施にはオリジナルコンテンツ作りに対する多大な尽力が基盤となっている.テーマとそのコンテンツは,エレクトロニクス,電磁気,光,熱,計測,通信,センサ,地球,宇宙,防災と応用物理学会がカバーする広い学術分野を反映しており,本理科教室で啓発を受けた青少年が成長して当該分野に進んで活躍するなど,これらの創造的活動を通じての新学術分野育成への貢献度は高いと思われる.

以上のように,平松氏,髙井氏,ならびに香野氏はリフレッシュ理科教室の礎を築き,これら科学教育・啓発活動を通して青少年人材育成の推進に多大な貢献を果たし,その卓越した業績は応用物理学会業績賞(教育業績)として真に相応しいものである.

平松 信康 (ひらまつ のぶやす)

所属/役職

福岡大学名誉教授

略歴

受賞と表彰

髙井 吉明 (たかい よしあき)

所属/役職

愛知工業大学総合技術研究所客員教授
名古屋大学名誉教授
国立高等専門学校機構豊田工業高等専門学校元校長・名誉教授

略歴

受賞と表彰

香野 淳 (こうの あつし)

所属/役職

福岡大学教授
福岡大学大学院理学研究科長

略歴

専門分野

固体物理学,ナノ薄膜・ナノ粒子の物性物理学

第25回応用物理学会業績賞委員会

委員長
玉田薫 (九大)
副委員長
木下啓藏 (アイオーコア)
委員
石井久夫 (千葉大) 一木隆範 (東大) 岡田裕之 (富山大) 小野輝男 (京大) 高木信一 (東大) 筒井一生 (東京科学大) 冨谷茂隆 (奈良先端大) 浜口智志 (阪大) 平松美根男 (名城大) 藤岡洋 (東大) 水田博 (北陸先端大) 美濃島薫 (電通大) 湯浅新治 (産総研) 渡部平司 (阪大)
幹事
苅米義弘 (事務局長)