第15回(2014年度)応用物理学会業績賞 受賞者
第15回 応用物理学会業績賞(研究業績)
- 件名
- 大容量メモリ技術の産業展開への貢献と三次元集積化技術の先駆的研究
- 受賞者
- 小柳 光正 (東北大学)
小柳光正氏は,大容量半導体メモリの基本構造を世界に先駆けて提唱し,半導体産業の発展に大きく寄与すると共に,三次元集積回路に関する重要な技術を確立して,シリコン集積回路の高性能化と高機能化に卓越した貢献をなした.
小柳氏は,1978年にMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)トランジスタを形成したシリコン基板の上に積層してメモリ用キャパシタを設ける三次元スタックドキャパシタ型メモリセルを提案,試作し,その基本特性を実証した.このセル構造は微細化に適し,かつ製造歩留まりに優れたメモリの基本構造として,現在では,ほぼ世界中の汎用DRAM(DynamicRandom Access Memory:再生動作が必要な随時書き込み・読み出しメモリ)に採用され,半導体産業の発展に大きく貢献した.この技術が半導体メモリ分野に与えた学術的,産業的インパクトは極めて大きいといえる.
また,小柳氏は実現が困難とされていた三次元集積回路に関する多くの基本技術を提案,実証し,シリコン集積回路の高機能・高性能化に向けて大きな貢献をなした.具体的には,基板貫通配線(TSV:Through-Silicon-Via)による三次元集積化を多結晶シリコンTSVを用いて世界にさきがけ実証した.また,液体の表面張力を巧みに活用することにより,半導体メモリ,センサー,化合物半導体素子などの異種チップを自己整合的に三次元集積化するという画期的な手法を提案し,従来のシリコン集積回路単体では達成できない高機能化に成功した.小柳氏の業績は,単なる集積化技術の提案に留まらず,応用も含めたシステムレベルで研究開発を主導してきた点が特筆される.
以上のように,小柳氏は高集積化に適したDRAM の基本構造を提案し,半導体産業の発展に卓越した貢献をなすと共に,一貫して三次元集積回路の研究開発を牽引し,数多くの独創的かつ重要な基本技術を確立して,集積回路の高機能化に大きく寄与した.応用物理学,および産業発展の両面において小柳氏の果たした貢献は極めて顕著であり,応用物理学会業績賞(研究業績)として誠に相応しいものである.

小柳 光正(こやなぎ・みつまさ)
所属/役職
東北大学未来科学技術共同研究センター教授
略歴
- 1947年 北海道生まれ
- 1969年 室蘭工業大学電気工学科卒業
- 1974年 東北大学大学院工学研究科博士課程(工学博士)修了
(株)日立製作所中央研究所入社 - 1985年 米国ゼロックス社パロアルトリサーチセンター入社
- 1988年 広島大学集積化システム研究センター教授
- 1996年 東北大学工学部機械知能工学科教授
- 1997年 東北大学大学院工学研究科機械知能工学専攻教授
- 1998年 東北大学ベンチャービジネスラボラトリー長
- 2003年 東北大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻教授
- 2008年 東北大学ディスティングイッシュトプロフェッサー
- 2010年 東北大学未来科学技術共同研究センター教授
- 2013年 東北大学3次元LSI試作製造拠点(GINTI)拠点リーダー
主たる受賞
大河内記念技術賞(1992)
SSDM Award (International Conf. on Solid State Devices and Materials)(1994)
IEEE Cledo Brunetti Award(1996)
文部科学大臣賞(科学技術功労者)(2002)
応用物理学会光電子集積化技術業績賞(林厳雄賞)(2004)
IEEE Jun-ichi Nishizawa Medal(2006)
紫綬褒章(2011)
IEEE Fellow(1997)
応用物理学会フェロー(2006)
第15回応用物理学会業績賞(研究業績)
- 件名
- フォトニック結晶工学に関する先駆的研究
- 受賞者
- 野田 進 (京都大学)
野田進氏は,世界初となる光波長帯での完全3次元フォトニック結晶の実現,2次元フォトニック結晶における上下方向の光閉じ込めの概念の提案・実証と世界最大のQ値をもつ光ナノ共振器の実現,さらには,2次元結晶のバンド端共振効果を用いた大面積コヒーレントレーザの概念の創出・実証・実用化など,フォトニック結晶工学の創出・発展において卓越した貢献をなした.
自在な光制御が期待される完全3次元結晶の実現のためには,光の波長程度の周期をもつ3次元光ナノ構造の形成が不可欠であるが,当初は,光波長域では結晶そのものが存在しなかった.野田氏は,3次元結晶の設計と作製に果敢に挑戦し,独自の精緻なロッド積み上げ法を開発して,光波長帯(光通信帯)において,完全バンドギャップをもつ3次元結晶の実現に世界で初めて成功した.さらに,この結晶に発光体を導入し,自然放出制御にも初めて成功した.野田氏のこの研究は,結晶そのものの実現はもとより,それによる自然放出制御の理論予測をも実証したという点で,象徴的かつ美しい科学的成果として世界中から高く評価されている.
一方,作製の観点からは,2次元結晶が魅力的であるが,上下方向の光閉じ込めが不完全で,光制御が困難であると考えられていた.野田氏らは,上下方向の強い閉じ込めが2次元面内での格子の精密調整によって得られることを発見して世界を驚かせた.また,2次元結晶にナノ共振器・導波路を導入することで,面内を伝搬する光を面垂直方向にも取り出せることをも示した.これらの発見により,2次元結晶における光制御(特に,高Q値共振器)の競争が国内外で激化したが,野田氏は持ち前の科学的洞察力と実行力でトップ集団を牽引し,今では1000万にも迫る驚異的な高Q値を得ることに成功している.最近,半導体物理学の分野では励起子やポラリトンを用いた原子光学的研究が脚光を集めているが,このような基礎研究の実施においても野田氏らが提示してきた2次元結晶の設計・作製指針が不可欠なものとなっている.
さらに野田氏は,2次元結晶の産業応用に向けた研究においても世界をリードする成果を挙げている.特筆すべきは,高ビーム品質をもつワット級半導体レーザの実現である.従来の半導体レーザでは,光出力を増大しようとして,出射面積を大きくすると出射端でレーザ光の波面が変形してビーム品質が著しく劣化するという問題があった.一方,フォトニック結晶のバンド端共振効果を利用する野田氏の発明では,出射面で一様な波面が得られるため,出射面積を大きくしてもビーム品質が劣化せず,増大した出力を一点に集光できることとなる.この画期的な半導体レーザは,極最近,産学共同により,実用化が決定するに至っている.
これら野田氏の卓越した多くの業績は応用物理学会業績賞(研究業績)として誠に相応しいものである.

野田 進(のだ・すすむ)
所属/役職
京都大学工学研究科電子工学専攻教授/光・電子理工学教育
研究センター・センター長
略歴
- 1960年 京都府生まれ
- 1982年 京都大学工学部電気工学科卒業
- 1984年 京都大学大学院修士課程修了,三菱電機(株) 中央研究所基礎研究部研究員
- 1988年 京都大学工学部電気工学科助手
- 1991年 京都大学博士(工学)
- 1992年 京都大学工学部電気工学科助教授
- 1996年 京都大学工学研究科電子物性工学専攻助教授(改組により)
- 2000年 京都大学工学研究科電子物性工学専攻(現,電子工学専攻)教授
- 2009年 京都大学工学研究科附属光・電子理工学教育研究センター・センター長(併任)
主たる受賞
IBM 科学賞(2000),光産業技術振興協会櫻井健二郎氏記念賞(2002),電子情報通信学会エレクトロニクスソサエティ賞(2004),大阪科学賞(2004),応用物理学会光・量子エレクトロニクス業績賞(宅間賞)(2005),IEEE/LEOS Distinguished Lecture 賞(2005),ベルギー国ゲント大学名誉博士(2006),丸文学術特別賞(2006),OSA Josephʼ Fraunhofer Award/Robert M.Burley Prize(2006),応用物理学会フェロー表彰(2007),IEEE Fellow 表彰(2008),文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)(2009),IEEE Nanotechnology Pioneer賞(2009),江崎玲於奈賞(2009),紫綬褒章(2014).
第15回応用物理学会業績賞(教育業績)
- 件名
- インターネット・書籍等を通じた応用物性分野の教育・普及活動への貢献
- 受賞者
- 佐藤 勝昭 (科学技術振興機構)
佐藤勝昭氏は,長年にわたり,インターネットや書籍等を通じて応用物理学に関わる科学技術をわかりやすく解説することにより,広く若手研究者・技術者の育成と社会における普及活動を行い,応用物理分野に多大な貢献を果たしてきた.
2000年にインターネットのWEBサイト「物性なんでもQ&A」を開設し,半導体・金属・光・磁性・結晶工学などを中心とした応用物性に関する質問を幅広く受け,わかりやすく適切な回答を迅速に掲載し,小中高生,大学・大学院生,企業研究者・技術者などからの1300 件余りの質問に回答してきた.それらのQ&Aには索引がつけられ,キーワードを調べることで,容易に目的とする項目にたどりつけるようにしている.これらの活動により,若手研究開発者や応用物理学に興味をもつ青少年や一般人の知的基盤の底上げに貢献してきた.閲覧数も多く,2007年以降でも60万件を超えている.インターネット時代の理工系教育に対してまさに先鞭をつけた業績である.さらに,学協会での招待講演,大学での講義や市民講座などで用いたパワーポイントファイルをWeb公開するほか,e-ラーニングに積極的に取り組むなどインターネットをフルに活用した教育活動を行ってきた.また,書籍出版に関しても,数多くの一般・初学研究者向けの書籍を執筆し,科学知識の普及に努めてきた.
学会活動の一環として,「物性なんでもQ&A」をコンパクトにまとめた連載記事は応用物理学会結晶工学分科会の会誌『Crystal Letters』に毎回掲載され,2014年9月号の最終回までに22回を数えた.
以上のように「インターネット・書籍等を通じた応用物性分野の教育・普及活動への貢献」に関する同氏の業績は,学生・若手研究開発者の育成・啓発,科学技術に関する青少年・一般人への啓発に大きく貢献する卓越したものであるといえ,応用物理学会業績賞(教育業績)として誠に相応しいものである.

佐藤 勝昭(さとう・かつあき) 略歴
所属/役職
- 1966年 京都大学大学院工学研究科修士課程修了
- 1966年 日本放送協会入局
- (1968年 同放送科学基礎研究所)
- 1978年 工学博士京都大学
- 1984年 東京農工大学工学部助教授
- 1989年 同教授
- 2005年 東京農工大学理事・副学長(教育担当)
- 2007年 同名誉教授
- 2007年 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業さきがけ「次世代デバイス」研究総括
- 2008年 JST 研究広報主監
- 2010年 (兼務)JST研究開発戦略センターフェロー
- 2012年 (兼務)サイエンスウィンドウアドバイザー
主な著書
光と磁気(朝倉書店,1988年,改訂版:2001年),応用電子物性光学(コロナ社,1989年),金色の石に魅せられて(裳華房,1990年),応用物性(オーム社,1991年),機能材料のための量子工学(講談社,1995年),新しい磁気と光の科学(講談社,2001年),理科力をきたえるQ&A(SBクリエイティブ,2009年),半導体物性なんでもQ&A(講談社,2010年),太陽電池のキホン(SBクリエイティブ,2011年),磁性超入門ようこそまぐねの国に(共立出版,2014年)
主たる受賞
- 1997年 応用磁気学会出版賞
- 2003年 応用磁気学会業績賞
- 2003年 応用物理学会JJAP編集貢献賞
- 2007年 応用物理学会フェロー表彰
- 2014年 日本結晶成長学会貢献賞