GXに貢献するプラスチックリサイクル高度選別技術 センサとAIを活用し,混合プラスチック片の構成比の変化に応じて種類ごとに自動選別 中村 保博 三菱電機株式会社 先端技術総合研究所 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理
GX(グリーントランスフォーメーション)が注目される中,私たちの身近なところでも脱プラスチックの取り組みが加速しています.たとえば,コンビニのレジ袋有料化はその象徴的な例です.しかしながら,単にプラスチックの使用量を削減するだけでは持続可能な社会の実現には十分とは言えません.プラスチックは成形が容易で軽量,かつ低コストという利点を持ち,ものづくりにおいて不可欠な素材であり続けると考えられるため今後も世界的にその消費量は増加していくと予想されています[1].
一方で,使用済みプラスチックが適切に処理されないことによる地球温暖化,生態系への影響,資源の枯渇といった課題は,年々深刻さを増しています.こうした中で,リサイクルの果たす役割はますます大きくなっています.現在,日本のプラスチックリサイクル率は約22%程度とされており,その向上が急務です.
2023年7月に欧州で発表されたELV(End-of-Life Vehicles:廃車)規則の改正案,さらに2025年2月の修正案は,日本の自動車業界にも大きな影響を与えました.この修正案では,規則発効から6年後に自動車部品の20%を再生材にすることが求められており[2],それに対応するため,これまでサーマルリカバリーや埋立て処分されていた自動車破砕残さ(ASR)からの再生材回収が重要になります.特にASRには黒色のプラスチックが多く含まれているため,従来主流であった近赤外線(NIR)選別では対応が難しいという課題があり,新たな選別技術の開発が求められていました.
三菱電機グループの家電リサイクル工場(GCS:グリーンサイクルシステムズ)では,湿式比重選別,静電選別,X線選別といった高度選別技術を自社開発し導入してきました.こうした技術を組み合わせることで,家電由来の混合プラスチックにおいて,一定量の黒色のプラスチックを含むにもかかわらず,80%以上の再資源化率を実現しています.
中でも静電選別技術は特に重要な役割を果たしています.この技術は,回転する帯電ドラム内で混合プラスチック片を摩擦帯電させ,それぞれの帯電特性に応じて異なる電極側へと誘導することにより,材料種毎にプラスチックを選別します.たとえば,ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)はプラスに,PS(ポリスチレン)はマイナスに帯電し,それぞれ異なる電極の方向へと引き寄せられます.黒色プラスチックへの対応が困難なNIR選別と比べて,静電選別はプラスチックの色による依存が小さくかつ類似ポリマーの選別も可能であるという強みを持っており,ASRの選別への貢献も期待されます.
しかしながら,静電選別には一つの運用上の課題がありました.それは,原料構成比の変化により摩擦帯電の状況が変化し,選別時のプラスチックの落下位置がずれてしまう点です.そのため,高い精度で選別を続けるには,回収容器の仕切り位置の微調整とオペレーターの熟練ノウハウが必要でした.こうした属人的な運用を脱却するため,私たちは「スマート静電選別」という新たな高度選別技術の開発に取り組んでいます.
スマート静電選別では,選別装置にIoT(Internet of Things)センサを搭載し,選別前後の構成比や比電荷分布を常時センシングします.そして,AI解析サーバーがこれらのデータをもとに最適な仕切り位置を導出し遠隔制御することにより,原料構成比の変化に応じた高精度な自動選別を実現します.比電荷とは,摩擦帯電後のプラスチック片の帯電量を質量で除した物性値で,比電荷分布とはその分布を表したものです.比電荷分布と静電選別後の樹脂の落下位置には強い相関があるため,比電荷分布をデータ取得することで高精度な仕切り位置の条件決定が可能となります.
選別前後のプラスチック片の構成比については,光学センサでスキャンを行い,構成比の見える化を行います.加えて,摩擦帯電後のプラスチック片を一部抜き取り一片ずつ分離し,帯電量・樹脂種・重量をそれぞれ測定することで比電荷分布を取得します.これらのデータにより,AIが判断するためのデータを取得しています.
開発した小型のスマート静電選別検証機による試験では,ABSとPSの構成比を変化させた条件下で,純度95%以上を基準に,AIによる仕切り位置の自動調整を行った結果,従来の固定仕切り方式と比較して,最大で回収率を30%から85%まで向上させることができました.
現在,私たちはこのスマート静電選別技術を社会実装へとつなげるため,さまざまな外部プロジェクトにも参画しています.たとえば,戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期(令和5年~)「サーキュラーエコノミーシステムの構築」には「データ駆動型高度選別システムの構築」のプロジェクト名で参画し,大学や企業とも連携し,各種センサとAIを活用した静電選別DX化のための技術開発を行っています.また,2024年度のJ-FARプロジェクト[4]では,複数の高度選別技術を組み合わせたASRの高度選別システムの構築を行っており,当社の静電選別技術の有効性を検証しています.さらに,東京都の「令和5年度革新的技術・ビジネスモデル推進プロジェクト[5]」では,家電量販店やリサイクラー,コンサルティング企業と連携し,小型家電由来の廃プラスチックにも静電選別技術の応用を進めています.
静電選別のスマート化によって,従来は熟練者の経験に依存していた選別条件の調整が不要となり,導入の促進および導入初期の立ち上げ期間や運用コストの削減が見込まれます.その結果,従来はサーマルリカバリーや埋立てに回されていたプラスチックも高純度で選別され,リサイクル材として新たに活用できるようになります.これは,世界的にプラスチックの循環利用率を高めるうえで,大きな意義を持つと考えています.今後は,データの蓄積によるAIの強化や実規模でのスマート静電選別装置の開発を進めて製品化を目指します.
また,プラスチックリサイクルにおいて,一台でどんなプラスチックも選別できる万能な高度選別装置は存在しません.従って,当社のスマート静電選別も他の高度選別装置と組み合わせて用いることになります.そこで私たちは静電選別だけでなく,ジグ選別や光学選別といった他の高度選別技術にもスマート化の概念を広げ,業界全体のオペレーションノウハウの平準化と自動化を目指します.さらに,装置間連携やデータ共有を通じたトレーサビリティの強化,容器包装・建材といった分野への展開も視野に入れています.スマート静電選別の実用化と普及によって,プラスチックの再資源化がさらに進み,廃棄物の削減と資源の有効活用が実現されます.私たちは,この取り組みを通じて,GXの推進と持続可能な社会の実現に貢献していきます.
なお,この研究は,内閣府総合科学技術・イノベーション会議の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「サーキュラーエコノミーシステムの構築」(研究推進法人:(独) 環境再生保全機構)(JPJ012290)によって実施しました.
参考文献など
- [1]プラスチック循環利用協会:2021年 プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況 マテリアルフロー図 (2022) https://pwmi.or.jp/pdf/panf2.pdf
- [2]Improving design and end-of-life management of cars, European Commission official web site, 2023
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_23_3819,(2025-7-23閲覧) - [3](株) グリーンサイクルシステムズ ホームページ http://www.gc-s.co.jp.
- [4]自動車リサイクル高度化財団:2024年度事業報告書 https://j-far.or.jp/project/#k
- [5]三菱電機 広報発表:小型家電由来 廃プラスチックの資源循環プロセス確立に向けた調査・分析を開始(2023)



