世界のGX エネルギー業界におけるクリーン化の流れと革新的な技術の紹介 総論 廣田 周作 Henge, Inc. 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

新型コロナウイルス感染症の流行拡大の中においても,世界の約70%の人々が,現在一番の社会的脅威は気候変動の問題であると考えている調査がある [1].再生可能エネルギーへの期待は,消費者,投資家,そして政府を巻き込み,さまざまなイノベーションを生んでいる.本稿では各種代替エネルギーを巡って,政府や企業,研究機関などのさまざまなグリーントランスフォメーション(GX)のイノベーション事例について紹介する.本文章は,ブランドリサーチ企業の Henge の廣田・梶野が,英国に拠点を置く Stylus Media Group の調べた調査に基づいて構成している.

GXが進む背景

2021年,アントニオ・グテーレス国連事務総長は,世界のリーダー達に人類の「War on Nature 自然との戦い」を終わらせようと呼びかけた.気候変動に対処すべく,各国の首脳陣も,脱炭素に向かって足並みを揃え始めている.欧州委員会は,2020年の欧州連合(EU)の温室効果ガス排出量の75%が発電システムに起因しており,脱炭素の達成に向けて化石燃料依存からの脱却に向けさらなる取り組みが必要だと見解を示した.また,米国経済連携協定によれば,米国では現在電力の63%が化石燃料の燃焼によって供給されており,これに対して79%の米国消費者は,政府は再生可能エネルギー開発を優先すべきと考えている [1].

再生可能エネルギー革命の基盤となるのは,持続可能な電力源である.現在,新時代の太陽電池,海洋エネルギー,水素燃料などさまざまな技術が生まれている.これらの技術開発が進む背景にはさまざまな資本的な圧力も関係する.例えば,HSBC やロイズなど多くのメガバンクが石油,石炭への投資からの引き上げを表明し [2],さらに世界最大のヘッジファンド Bridgewater Associates は2021年インパクト投資の需要拡大に伴い投資額を増加させるなど,ESG 投資の存在感も高まっている.この領域におけるスタートアップも多く,2020年の技術やインフラの投資額が5000億ドルを上回った.地政学的に見ても,石油の重要性が低下する中,最先端技術は国際協力における重要な切り札にもなることから,各国政府も総力をあげてグリーンエコノミーへの大規模投資を進めている.

太陽光発電技術のイノベーション

再生可能エネルギーによる発電コストは,技術革新,規模の拡大,サプライチェーンの競争力強化,企業開発の成熟などにより,過去10年間で大きく低下している.国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は,その中でも特に,太陽光発電の価格は2010年から2019年の間に82%低下したと報告した [3].また,2021年 Wood Mackenzie は2030年に最も安い電力源になると予測している [4].

価格低下のみならず,さまざまな技術革新に伴い,太陽光発電の効率と使いやすさが向上している.例えば,韓国の仁川大学の研究者は,透明な太陽電池(Transparent Photovoiltaic: TPV)を開発した [5].この TPV は,従来の不透明な可視光を吸収する太陽電池とは異なり,紫外線(UV)領域の「見えない光」を利用する.この発明は,窓や携帯スクリーンなどのガラスの表面で電力発電を可能にする.さらに,英国のソーラーテック企業 Oxford PV は,2020年12月に29.52%という画期的なエネルギー変換効率を記録した [6].この技術は,ペロブスカイト型太陽電池とシリコンを組み合わせたもので,年々効率が上昇している.米国カリフォルニアのエネルギーブランド「Ambient Photonics」は,「Low-Light Indoor Energy Harvesting Solar Cells 低照度屋内蓄電太陽電池」は世界最大級のテクノロジー展示会である CES 2021 イノベーションアワードを受賞した.この太陽光電池は,周囲の光をエネルギーに変えてマイクロデバイス(スーパーマーケットの棚に設置されたスクリーンなど)に電力を蓄電し,バッテリーの消耗を抑えることができる.

韓国の仁川大学の透明太陽光電池.

海洋発電のイノベーション

洋上風力発電や波力発電などを含む,海洋再生可能エネルギーは,2050年までに世界の電力需要の10%に相当する年間5,400 TWhを生産し,世界のCO2排出量を25億トン削減することが期待される [7].海洋エネルギーに投資をいち早く進める国の例として,デンマークが挙げられる.2021年2月にはデンマーク政府は,北海に300万世帯分の電力を供給できる風力発電所として人工エネルギー島を造ると発表した.またこの風力発電所は,輸送用化石燃料に代わるグリーン水素の製造にも利用する.この開発は,政府が掲げる2050年までの化石燃料から“緑への転換”を達成するための第一歩となる.また,オランダでは,2023年に Hollandse Kust Zuid 発電所がオープンする予定だ.この発電所はオランダの200万世帯以上の年間消費量を賄う,史上最大の洋上風力発電所となるとしている.

さらに,まだ商用化には至っていないものの波力発電の開発も進められている.オーストラリアの「Wave Swell」は2021年2月,タスマニアの島に「ブローホール」と呼ばれる装置を使って波エネルギーを供給する試験を開始した.海水を海中の部屋に入れて空気を送り込み,タービンを回転させて発電する.さらに日本の船主である商船三井は,ウェールズの波力発電会社 Bombora 社と協力して,同社の mWave エネルギー技術を設置するための最適な場所を探し出した.このように,非エネルギー企業も再生可能エネルギー事業への参入を始めている.

グリーン水素の可能性

現在新たに注目を集めているのは,環境に優しい燃料として,グリーン水素である.EU は,2020年7月に水素エネルギー戦略を立ち上げ,将来的にネット・ニュートラルになることを目指す.

ノルウェーのブランドである Norsk e-Fuel は昨年6月,欧州初の輸送に適した再生可能な水素を製造する商業プラントを作る計画を発表した.

Norsk e-Fuel 水素発電所.

さまざまな企業内の取り組み

再生可能エネルギーの使用料の低下,そして技術開発により,政府機関のみならず,さまざまな,企業も再生エネルギーをビジネスに取り入れ始めている.サムスンは,2021年以降,テレビのリモコンを太陽光で充電することを発表した.また,マクドナルドが2021年7月に米国フロリダのディズニーランドでオープンしたレストランは,100%電力を屋上のソーラーパネルから供給している.消費者と接点の多いブランドを展開する企業の取り組みは,ダイレクトに人々の意識を変えていく可能性が高く,また,そうした人々の意思がさらなる再生可能なエネルギーをめぐる政策意思決定につながっていくだろう.

著者プロフィール

廣田 周作

(ひろた しゅうさく)

1980年生まれ.東京大学工学部卒業.放送局でのディレクター,広告会社でのマーケティング,新規事業開発・ブランドコンサルティング業務を経て,2018年8月に,企業のブランド開発を専門に行う Henge, Inc. を設立.英国ロンドンに拠点をもつイノベーション・リサーチ企業 Stylus Media Group のチーフ・コンサルタントと,Vogue Business(コンデナスト・インターナショナル)の日本市場におけるディレクターも兼任する.独自のブランド開発やリサーチの手法をもち,多くの企業のブランド戦略立案やイノベーション・プロジェクトに携わる.自著に『SHARED VISION』(宣伝会議)など.

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