直径100 µm未満の微細気泡 ファインバブルの不思議な世界 秦 隆志 高知工業高等専門学校 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理
ファインバブルとは,これまでマイクロバブルやナノバブルと呼称されていた微細気泡の名称です.このファインバブルは日本提案の元,2017年に国際標準化機構(ISO)において基本規格が発行されました.バブルとありますので,普段よく接する「泡」の仲間ですが,ファインバブルと呼ばれる微細なサイズになると目視が容易な気泡とは異なる特性を示すようになり,産業的利用が進み始めています.本稿では,このファインバブルの世界について紹介いたします.
ファインバブルの定義
ISO規格では粒子径100 µm未満の気泡を「ファインバブル」として総称しつつ,1~100 µm間の気泡を「マイクロバブル」,1 µm未満の気泡を「ウルトラファインバブル」と区別しています [1].その概念図を図1に示します.普段よく接する「泡」もファインバブルと呼ばれる微細なサイズになるとmmやcmサイズの気泡とは異なる特性を示します.例えば,同じ気体量をファインバブル化させた場合,気泡数はmmやcmサイズの気泡に比べて格段に増え,結果,気泡の総表面積は拡大されて気液界面での化学反応や物理的吸着,物質輸送が飛躍的に向上します.また,獲得した巨大な総表面積から内包気体の溶解効率が向上するといったような一般的に目視できるmmやcmの気泡ではなすことが難しい物理的・化学的な性質を顕在化させます [2].このようにファインバブルは普段よく接する「泡の仲間」ではあるものの,産業的に活用できる「素材」としての特性を持ちます.さらに基本的には空気と水から構成されるため,高い環境親和性や安全性を持つことから,洗浄や化学工学,機械加工,食品加工,医療,農水産業など多岐にわたる活用が始まっています.また,その多くは持続可能な開発目標「Sustainable Development Goals (SDGs)」に関する技術であり,日本のみならず世界的な広がりが始まっています.
ファインバブルの特性
mmやcmサイズの気泡(バブル)とファインバブルの挙動の相違を図2に示します.mmやcmサイズの気泡は水中で球形を保つことができず,楕円的形状になりつつ浮力によって上昇し,水深がそれほど深くない場合では水面まで浮上して破裂します.その一方,ファインバブルの内,マイクロバブルでは見かけ上,球体を保ち,その微小性から浮上速度はゆっくりと進みます.そのため,mmやcmサイズの気泡と比べ比較的長く水中に留まることができ,結果,水中での気液界面の接触時間が延びることから内包気体の溶解効率に優れるといった特性を示します.さらに,ウルトラファインバブルにおいては浮力よりも微小性によるブラウン運動が支配的になり,水中での長期安定性を獲得します.また,逆にウルトラファインバブルの不安定化と崩壊を引き起こすことによってフリーラジカルが発生するといった報告もあります [3].その他としては中性領域下でマイクロバブルおよびウルトラファインバブル共に負のゼータ電位(溶液中の微粒子の周りに形成される電気二重層の液体流動が起こり始める「すべり面」の電位)を持ち,静電的な反発から合泡をおこさないといった特性も持ちます.
ファインバブルの特性:マイクロバブルの溶解挙動
前述のように示したようにマイクロバブルはその微小性から浮上速度はゆっくりと進み,その速度\(v\)は次のStokesの式に近い値を示します. \[ v=\frac{d^2\left(\rho_{\text{L}}-\rho_{\text{G}}\right)g}{18\mu_{\text{L}}} \] ここで,\(d\)はマイクロバブルの直径,\(\rho_{\text{L}}\)および\(\rho_{\text{G}}\)はそれぞれ液体密度と内包気体密度,\(\mu_{\text{L}}\)は液体の粘性係数,\(g\)は重量加速度です.Stokesの式は主にReynolds数が極めて小さい沈降する固体粒子について用いられますが,マイクロバブルの挙動解析にも適用できます.なお,この式上,10 µm程度のマイクロバブルでは約20 cm h−1の浮上速度を示し,実験的にも近しい値が得られています [4].
このようにマイクロバブルはゆっくりと浮上します.他方,気泡の比表面積(気泡の表面積と体積の比)は次式で求まります. \[ \text{比表面積}=\frac{\text{気泡の表面積}}{\text{気泡の体積}}=\frac{4\pi\left(\cfrac{d}{2}\right)^{2}}{\cfrac{4}{3}\pi\left(\cfrac{d}{2}\right)^{3}}=\frac{6}{d} \] この式から気泡直径\(d\)が小さくなると内包気体の単位体積当たりの比表面積,つまり,マイクロバブルによって気液界面積は拡大されることが分かります.
さらに,曲率をもつ気液界面においては,表面張力の影響によって次に示すYoung–Laplaceの式から\(\Delta p\)分の加圧を気泡内部は受けます. \[ \Delta p=\frac{4\gamma}{d} \] ここで,\(\gamma\)は表面張力です.この式から,例えば,直径10 µm程度のマイクロバブルの内外圧力差は約0.3 atm程度高くなると見積もることができます.また,その気泡内部の加圧現象は,温度と溶媒(水)量が一定であるとき水に溶ける気体の物質量は圧力に比例するというヘンリーの法則に従い,内包気体の溶解効率を高めます.
これらの効果によってファインバブル(特にマイクロバブル)の内包気体の溶解効率は促進し,一般的な散気管に比べて極めて高い溶解効率を示します.
水産業分野での応用展開
前述のようにファインバブル(ここでは主にマイクロバブル)は内包気体の高い溶解効率を生みます.ここで,内包気体に空気を用いた場合,高い酸素溶解効率を生むことから溶存酸素が枯渇するような養殖現場において多くの活用事例を持ちます [5].例えば,海面養殖業の薬浴作業への導入がおこなわれています.海面養殖において,特にブリ類はその表皮にハダムシと呼ばれる寄生虫が付着し養殖魚を弱らせる原因となります.そのため,その寄生虫を除去する薬品を入れた閉鎖環境を作り,寄生虫が付着した養殖魚を投入することで寄生虫を除去します(この作業を薬浴と呼びます(図3)).この作業中では閉鎖環境に大量の養殖魚を入れるため,貧酸素状態(酸欠)によって養殖魚が死ぬ事例が起こります.そこで,この薬浴作業中における酸欠を解決するために空気ファインバブルを導入しました.図4に薬浴作業における溶存酸素量の変動を示します.現状区では薬浴環境内の溶存酸素量は下がり続け,酸欠が原因と見られる魚死が発生しました(全体数の5%程度).同様な環境下でファインバブルを導入した場合は作業終了まで溶存酸素量を保つことができ,酸欠による魚死も発生しませんでした [6].このように酸欠が強い負的となる水産業では,それを回避する技術として活用が進んでいます.
ウルトラファインバブルの安定性
マイクロバブルはその浮力からやがて浮上し水面で消滅,あるいは浮上の途中で溶解しますが,ブラウン運動が支配的となるウルトラファインバブルにおいては長期間の安定性を示します.測定原理としてはブラウン運動の解析からウルトラファインバブルを含む微粒子の粒子径の算出が可能です.この測定原理を用いたウルトラファインバブルの粒度分布,ならびにその数密度の保存期間による変化を図5に示します(原水は超純水).図から,おおよそ100 nm周囲にピークを持つこと,また日数に応じて減少するものの長い安定性が示されています.
このように実験的にはウルトラファインバブルの観測はなされていますが,その安定化のメカニズムは充分には分かっていません.前述のYoung–Laplaceの式から算出される直径100 nmのウルトラファインバブルの気泡内外圧力差は約27 atmに及びます.なお,Young–Laplaceの式は巨視的概念の表面張力を含みますが,ナノスケールでも成立するといった報告がなされています [7,8].理論的には周囲の水に気体(空気)が大気圧分しか溶解していないとき(空気飽和水),気泡内外圧力差がそれを大きく上回るため内包気体は周囲の液体に溶解し消滅します.しかしながら,前述のように実験的にはウルトラファインバブル(の存在)が観測されており,この点についての解釈として,スキン説:有機物や界面活性剤などの不純物によるバブル表面のコーティング,粒子割れ目説:不純物として存在する粒子の割れ目にバブルが存在,静電気反発説:バブル表面に発生する電荷が静電気反発を起こし収縮を阻害,鎧兜説:界面活性剤とナノ粒子などの不純物によるバブル表面のコーティング,多体説:多数存在することにより過飽和を保ち収縮を阻害,動的平衡説:不純物である疎水性物質に付着し溶解と気泡化が平衡するなどが唱えられています [9].
終わりに
ファインバブルは日本提案の元,ISOにおいて様々な内容で規格化が進んでいます [10].基本的には空気と水から構成されるために高い環境親和性や安全性を持ちつつ,さらに産業的有用な特性を多数有することから日本のみならず,世界からも注目を集め,海外からのISO提案もなされています.
その一方,ファインバブルの特性については,まだ充分には解明できていない点も多い状況にあります.特にファインバブル内でも顕微鏡等で直接観察できるマイクロバブルとは異なり,1 µm未満のウルトラファインバブルの測定ではそこに含まれる不純物との識別がまだ充分にはなされておらず,現在のところ,ウルトラファインバブルの粒度分布といった測定結果と産業的効果の間には完全な紐づけがなされていません.しかしながら,ウルトラファインバブルを利用した現場では効果や作用が確認されており,産業的利用が先に進んでいます.このファインバブル,特にウルトラファインバブルの産業的利用を確固たる位置づけとするためには学術的エビデンスが必要不可欠であり,日本発技術の世界的貢献に向けて,ぜひ,応用物理学をご専門とするみなさんの(当該研究へ)ご参画をお願いして終わりの言葉とさせていただきました.
参考文献
- [1]ISO 20480-1:2017(en) (2024年2月23日確認) [Web].
- [2]寺坂宏一,「ファインバブル技術のトレンドと課題」化学工学 78, 580 (2014) [Web].
- [3]M. Takahashi, K. Chiba, and P. Li, “Free-Radical Generation from Collapsing Microbubbles in the Absence of a Dynamic Stimulus,” J. Phys. Chem. B 111, 1343 (2007) [Crossref].
- [4]M. Takahashi, “ζ Potential of Microbubbles in Aqueous Solutions: Electrical Properties of the Gas–Water Interface,” J. Phys. Chem. B 109, 21858 (2005) [Crossref].
- [5]堤裕昭,「沿岸海面養殖漁業へのマイクロバブル発生装置の利用と将来的展望」日本海水学会誌 64, 31 (2010) [J-STAGE].
- [6]秦隆志, 南川久人,「農水産業分野におけるファインバブルのさまざまな応用展開について」水環境学会誌 41, 173 (2018) [学会ホームページ].
- [7]松本充弘,「ミクロスケールの流体現象:微小気泡を中心に」数理解析研究所講究録 1721, 88 (2010) [Web].
- [8]S. R. German, M. A. Edwards, Q. Chen, and H. S. White, “Laplace Pressure of Individual H2 Nanobubbles from Pressure-Addition Electrochemistry,” Nano Lett. 16, 6691 (2016) [Crossref].
- [9]K. Yasui, T. Tuziuti, and W. Kanematsu, “Mysteries of bulk nanobubbles (ultrafine bubbles); stability and radical formation,” Ultrason. Sonochem. 48, 259 (2018) [Crossref].
- [10]ISO/TC 281 (2024年2月23日確認) [Web].

