森林・林業・木材におけるSDGsによるGX 電気で木材(樹木)の水分量を測る 鈴木 養樹 森林総合研究所 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

COP26が英国・グラスゴーで開催され,地球温暖化対策について数十カ国の首脳が,このテーマについて議論が交わされたことは記憶に新しい.自然界で,CO2はO2とともに生物,特に樹木を含む植物にとって必要不可欠な気体であり,カーボンCは物質構成上,不可欠です.ところが,地球温暖化ガスとして,CO2の削減が急速に求められています.急激な大量のCO2が排出されることは同時に大量の熱エネルギーの排出を意味しています.この熱エネルギーおよびCO2の大量排出によって地表面における断熱効果として温暖化が進むというシナリオとなっています.よりSDGs(持続可能性)を高めていくことが,森林・林業・木材産業に求められています.

樹木(木材)とCO2とエネルギーとの関わり

CO2固定化への貢献に,森林,もしくは木材・木質材料が担う役割への期待が大きくなっています.現状では数年で瞬時に解決できるものではなく,数十年から数百年単位での話となります.木材は,国内生産では建築用材料として令和2年度の林業白書 [1] によれば,年に1立方メートル当たり約1485万トン使われています.さらに林野庁は「建築物における木材の利用の促進に関する基本方針」 [2] および「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」 [3] を公表し,積極的な木材利用の政策を進めています.

その背景として森林を1つの材料供給源と考えれば,最終的に燃焼して大気中にCO2が放出されたとしても,植物の1つである樹木は光合成サイクルにCO2の一部を利用し,樹体生育のための代謝を行うことができます.これは,大きな循環ループとして捉えられます.例えば,スギでは伐採適齢期である30~50年間隔で植林・育林・伐採を繰り返し,製材品や木質材料を生産すればカーボンストックとなり得ます.樹木の多くが建築材料や公共事業での橋梁や建築物などの構造体に使われ,さらに耐久年数が過ぎればチップに加工してパーティクルボードやストランドボードなどの木質材料として変換されます.さらにパーティクルボードは,再度粉砕し,再構成してボードにすることで,木質材料の寿命を数年以上伸ばすことができます.さらに製材時,もしくは間伐時に発生する端材の利用もバイオマスエネルギーとして利用する機運が高まっており,端材の燃焼により小規模発電への利用,木材乾燥用のボイラー熱源としての利用が見込まれています.また,短期間にCO2を取り込める方法には,エリートツリー育成 [4] に見られるような成長の早い樹木を育成するための技術があります.

ただし,現状において林業・木材産業でできる対策は,伐採・運搬・製品加工での使用エネルギー総量の削減です.木材の構成主要成分であるセルロースやリグニンなどにも炭素が含まれ,CO2ガスが全く出ないことはあり得ません.したがって,効率の良い木材乾燥方法の開発やCLT [*1] などの木質材料による高層建築物の積極的な建設により,単年度における炭素放出量を抑制させる効果が期待できます.木材の利用場面では,常に強度が注目されますが,木材利用を促進させるためには,木材の水分管理が必要であり,そのための非破壊的な木材の水分量検出技術が必要です.その中で,特に簡便である電気的手法について概説していきます.

木材と水分の関係

木材を効率よく利用するためには,乾かして使うことです.十分乾かさないと,使用している途中で,水が抜け,ねじれや収縮などの変形を起こし,その結果,割れが発生するなどの不具合が起きます.そのため,十分乾かした状態の材料を使わなければなりません.木材の含水率評価は,JISの試験方法(JIS Z2101-2009)に従うと,103(±2)°Cに設定された乾燥器で全乾状態まで乾燥させ,乾燥前の重量(W1)と乾燥後の全乾重量(W0)の差を全乾重量(W0)で除して100を掛けると乾量基準含水率(%)として算出できます [5].

木材は環境変化によって吸湿・放湿し,膨潤・収縮変形を起こすことが知られています.このため,乾燥前と乾燥後では体積が異なり,さらに変形により形状はいびつになるため,正確に簡便に容積を求めることは難しい.そのため,木材産業界では,慣例的に全乾法による含水率の表示で,統一しています.したがって,生材では含水率表示が100%を超えることもあります.さて,木材が外気中にさらされ乾燥していくと,一定の値で重量が変動しなくなります.この状態を平衡状態といい,その時の含水率を平衡含水率と呼びます.例えば,スギなどの針葉樹材ではおおよそ12~15%になります.いろいろな樹種の木材で密度が違うことから,水分量も樹種によって異なります.ただし,通常の環境下において0%になることは決してありません.

非破壊的な木材中の水分検出技術

さて,工場での含水率評価作業は実際に流通している木材製品の全数について全乾法を適用できません.その理由として1個の試験体でも1日以上時間を必要とし,大幅なコストがかかります.そのため,迅速で経済的な流通が求められる現場では,簡便で安価な含水率計が広く用いられています(図1).

図1: 公益財団法人日本住宅・木材技術センターで認定された各種市販木材含水率計(認定機器)の例.

これは,携帯用の含水率計で,土場(丸太や製材を置いてある場所)で桟積みされた木材製品に押し当てて,水分を検出する装置です.また工場の規模によってはインラインに設置型含水率計(マイクロ波)を組み込み,製品の含水率を求めています.原理としてはマイクロ波をホーンアンテナで照射して対向のアンテナで吸収量を取り,含水率に換算しています.ただ,これでは最終製品の含水量が分かるだけで,消費エネルギーの抑制にはなりません.

製材品の生産には,最もエネルギーを使う部分が「製材工程」とともに「乾燥工程」です.通常,木材の乾燥はボイラーにより高温蒸気を乾燥機の中に入れて,1週間ほど乾燥機内で木材中から水分を取り出す作業を行います.木材表面の温度を高温蒸気で高めると次第に木材内部の温度も上昇し内部圧が高まります.そのため,木材内部の水分が水蒸気として木材の外側へ放出されます.内部圧が変化しなくなる状態まで加熱を続けると,表面と内部の圧力はほぼ等しく,平衡となり,水分移動がなくなります.ところが,さまざまな含水率の木材を乾燥機に入れて乾燥させると,適正な状態になるまで1ヶ月以上かかります.ただ,含水率ごとに仕分けして乾燥機に入れると1週間程度で全数がほぼ同じ時期に仕上がり,エネルギーの節約となります.

最近では,丸太の段階から,含水率で仕分けすると,さらにエネルギーの消費が抑えられる可能性が見いだされています.簡便な電気的な手法としてEIS(Electromagnetic Impedance Spectroscopy)という分光法 [6] で,2本の電極・リード線とLCRメーターを用いれば,おおよその丸太表面の含水率と内部の含水率とを推定することができます [7].電極の上で丸太を回転させると丸太周囲での水分状態が推定でき [8],乾燥過程での水分状態も桟積みしたまま電気的方法でモニタリングが可能です [9].

図2: 製材品作製の流れと水分モニタリング.⇒は木材製品ができるまでの流れで●は水分計測を行う場面を指します.

また,耐久性の評価にも電気的な手法が有効です.木材が光や気温,雨水などで劣化していくと表面や内部に空隙が発生し,さらにそこへ白色腐朽菌が繁殖し,木材は腐ります.できるだけ,早く腐朽部分を検出し,代替材などで補修することで長持ちできます.ここでも電気的方法による常時モニタリングが可能です.

今後解決すべき課題として,持続可能なCO2固定化技術の促進,エリートツリー育成に見られる生長の早い効率的な樹木育成技術,非破壊・非接触式による木材および樹木の水分・密度同時測定技術,または橋梁や体育館など公共建築物など構造体のひずみ・水分量可視化技術の開発,樹木伐採・運搬用重機の小型・軽量化などが森林・林業および木材産業に対する貢献として考えられます.

注釈

  • [*1] CLT(Cross Laminated Timber,直交積層板): よく似たものに集成材があります.最近,開発認定された材料で,集成材とは異なり,貼り合わせる方向を交互に直交させて貼り合わせる方式で奇数枚での貼り合わせとなっています.また,大断面床や壁への利用が主です.

著者プロフィール

鈴木 養樹

(すずき ようき)

静岡大学大学院農学研究科修了後,静岡県高校理科非常勤講師を経て1988年林野庁林業試験場入所.1989年森林総合研究所木材利用部木材特性科物性研究室に配属.2009年より2019年まで物性研究室長.日本材料学会関東支部常議員を務めた.主に木材の電気的な性質(圧電効果など)と木材の水分検出手法に関する研究に従事.1998年東京大学(農学博士).現在,森林総合研究所企画部広報普及科および木材加工・特性研究領域において研究専門員として勤務.

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