プラスチックリサイクルに貢献する分光技術 分光技術により資源の循環的利用,環境負荷の軽減に貢献 渥美 利久 浜松ホトニクス株式会社 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

はじめに

私達の生活の中で触れるさまざまな物にプラスチックが使われています.一口にプラスチックといっても,以下の例のような種類があり,コスト,強度,耐熱性,耐薬品性等の違いにより用途ごとに使い分けられています.

  • Poly(ethylene terephthalate) (PET):ボトル等
  • Polystyrene (PS):家電製品,CD,DVD等のケース等
  • Polyethylene (PE):レジ袋,洗剤容器等
  • Polypropylene (PP):自動車部品,家電製品,耐熱容器等
  • Acrylonitrile Butadiene Styrene (ABS):玩具,家電製品等

最も身近なプラスチック製品であるPETボトルは私達一人ひとりのリサイクルへの意識向上や分別の容易さが相まって,PETボトル単体で回収され,高いリサイクル率を実現しています.それ以外の物では,混合物からの分別回収や再生利用の技術的な難しさがあり,日本では,廃プラスチックの4分の3がサーマルリサイクルあるいは焼却・埋立て処理されています.しかし,限りある資源の循環利用・環境負荷の軽減に貢献するマテリアルリサイクル,ケミカルリサイクルを増やす取組みが推進されており,分光技術がこの課題への解決策となっています.

廃プラスチックの処理

  • マテリアルリサイクル:廃プラスチックをプラスチック製品の原料として再利用(22%)
  • ケミカルリサイクル:廃プラスチックを化学的に分解して化学製品の原料として再利用(3%)
  • サーマルリサイクル:廃プラスチックを焼却して熱エネルギーとして再利用(61%)

注: 上記以外は単純焼却・埋立て.括弧内の数字は年間に回収される廃プラスチック総排出量に対する割合.計850万トンが廃プラスチックの総排出量(一般系412万トン,産業系438万トン).2019年度プラスチック製品の生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況(一般社団法人プラスチック循環利用学会, 2020)より.

プラスチックの種類の多さに加えて,リサイクル工場に運び込まれる大量のプラスチックには,濃色の物(例:自動車部品),火災時に被害を大きくさせないための難燃剤等の添加物を含んでいる物もあるため,プラスチック材料および目的によって適切な識別方法を選択する必要があります.図1に家電リサイクルや自動車リサイクルにおいてシュレッダーダストからの廃棄プラスチック回収・選別のフローを示します.エアバッグ,ドア,エンジン等の部品を取り出した解体後の自動車はシュレッダープラントで破砕され,ASR(Automobile Shredder Residue)にします.そして,ASRは金属,プラスチック等に選別・回収されます.

図1: フローの例.

光学識別

プラスチックに光を照射し,反射あるいは透過した光の波長別の強弱を測定した結果,いわゆる「スペクトル」の形状を元にプラスチックの種類を判定する方法です.多くのプラスチックが近赤外線領域に特徴的なピークを持ち,さまざまな性能の分光計測装置がそろっており,普及が進んでいます.

光の波長とその光が持つエネルギーは逆比例の関係にあり,波長の短い(エネルギーの大きい)X線はプラスチック材料に混入したメタル片等の異物検知で用いられます.また,黒色プラスチックでは顔料カーボンブラックなどにより近赤外領域が吸収されるため,中赤外線領域,またはレーザ散乱光を検出するラマン分光が選択されます.このように対象物に合わせて使用波長が選択されます(図2).

図2: 対象物毎に使用される波長.

近赤外ハイパースペクトルイメージング

ハイパースペクトルイメージングとは,物体(例:プラスチック)の撮影時に画素ごとにスペクトル情報を同時に取得するイメージング方法です.通常のラインカメラと同様に,対象物(またはカメラ)を移動させてスキャンします.その際,入射した光はスリットを通り,プリズム,グレーティングでセンサのY軸方向に分光して測定を行うため,エリアイメージセンサが用いられます.多くのプラスチックでは近赤外領域に特徴のあるスペクトルが得られるため,近赤外ハイパースペクトルイメージングを用いることで高精度な識別が可能になります.

また,一般の近赤外カメラでは,1700 nmまでの近赤外波長領域に高い感度を持つInGaAsイメージセンサが用いられますが,プラスチック測定用途では~2200 nm等のより長い波長に感度を持ったタイプが使われます(図3).

図3: ハイパースペクトルイメージングによる透明プラスチックの測定.
浜松ホトニクス(株) InGaAsイメージセンサで測定.

FT-NIR(~2500 nm)での臭素系難燃剤の検出

2000~2500 nmのスペクトル計測により,RoHS指令対象の難燃剤デカブロモジフェニルエーテル(DeBDE)と対象外の同テトラブロモビスフェノールA(TBBA)の識別が可能になります.また,吸収量の違いにより,含有量の推定もできます.

プラスチック選別で使わわれる多くの近赤外分光技術は2200 nmまででしたが,微細加工技術(MEMS)により2500 nmまでをカバーする高性能で手のひらサイズのフーリエ変換方式の分光器が開発され,リサイクル工場の現場で活用できるようになっています(図4).

図4: FT-NIRによる~2500 nmでの臭素系難燃剤の検出.
浜松ホトニクス(株) FTIRエンジンで測定.

ラマン分光での黒色プラスチックの識別

単一波長レーザ光を物質(プラスチック)に照射すると,光が物質と相互作用することで入射光と異なる波長を持つラマン散乱光と呼ばれる光が出てきます.ラマン散乱のスペクトルにより,物質の振動状態の情報を得らるため,この技術を用いてさまざまな物性を調べることができます.プラスチック選別においては,ラマン分光方法は黒色プラスチックに含まれる顔料カーボンブラックなどの吸収の影響を受け難いといった利点があります.

一般に,黒色プラスチックの識別には,中赤外波長の分光技術が用いられますが,中赤外分光は,検出器,光源(熱源)ともに特殊で,高コストのため普及には課題が残ります.また,中赤外に対する水の吸収が大きいため,濡れている試料の測定ができないという問題もあります.ラマン分光は解決策のひとつとして期待されますが,プラスチック測定用途では近赤外,中赤外ほど進んでいまん.選別のためのデータ解析技術の進歩が今後の課題とされます(図5).

図5: 785 nm励起レーザ,高分解能分光器での黒色プラスチック測定.
浜松ホトニクス(株) 裏面CCDで測定.

透過X線吸収での異物等の除去

X線吸収では,物質の内核電子と光との相互作用で生じ,物質内の元素によって吸収が異なります.X線のスペクトル計測は容易ではありませんが,エネルギーの異なる線源を2つ用意すれば,異なる材質の分別が可能になります.図6においては,デュアルエナジーX線ラインセンサカメラを使って,高低2つのエネルギーのX線吸収を測定し,その違いを解析します.対象物の違いによるコントラストを高め,検知能力を向上させています.透過X線吸収は,プラスチック選において,難燃剤に用いられる臭素に加え,グラスファイバーを含んだ複合プラスチック,異物として混入するメタル片の除去に使われます.

図6: デュアルエナジーX線ラインセンサによる異物等の除去.
浜松ホトニクス(株) X線ラインセンサカメラで測定.

まとめ

1990年代にマテリアルリサクルが推進されて以降,さまざまな分光測定によるプラスチック識別装置がリサイクルの現場に導入されてきました.そして,今日のプラスチック選別の普及に光検出器の性能向上は大きく貢献してきました.リサイクル原料は性状の変動が大きいことが実用時の難しさではありますが,今後,人工知能(AI)が組み込まれていくことで,より効率的なプラスチックリサイクルシステムの構築へと進んでいくと期待されます.

著者プロフィール

渥美 利久

(あつみ としひさ)

1991年専修大学卒業,1992年浜松ホトニクス株式会社に入社.入社後,光半導体デバイスの海外市場に向けた営業活動を経て,同社において,2007年にMEMS部が発足したと同時に光MEMS(MOEMS)関連デバイスのマーケティングを行っている.光MEMSを使った小型近赤外分光器の応用として,プラスチックリサイクルに注目し,当該分野の専門家との協力関係を築いてきた.

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