鉄道用超電導フライホイール蓄電システム 新しい蓄電媒体の実証試験 西 健太郎,吉永 孝 東日本旅客鉄道株式会社 JR東日本研究開発センター 環境技術研究所 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理
鉄道の電気車が制動時に発生する回生電力 [*1] は,付近に電気車の走行がない場合には,有効に活用されない場合があります.得られる回生電力のエネルギーを有効に利用するために,蓄電池等を地上の変電所等に設置して,回生電力を活用する取り組みを行っています.当社では,今後の新たな蓄電媒体の開発を目的に超電導技術を応用した超電導フライホイール [*2] 蓄電システムを開発し,中央本線穴山変電所 [*3] において世界で初めて実証試験を開始しました.本稿で超電導フライホイール蓄電システムの概要を紹介します.
制動時に発生する回生電力
図1は,回生電力の発生と得られる電力の活用事例を示す模式図です.走行する電気車のブレーキ時に電動機が発電機として作用することで発生する回生電力のエネルギーは,架線を介して付近を走行する他の電気車に融通され活用されます.しかし,付近に他の電気車がない場合には回生電力が活用されず,機械ブレーキの作動などにより熱としてそのエネルギーを消費します.電気車の間隔が比較的長い線区での一部箇所では,回生電力を有効に活用するために,蓄電池に貯蔵して,その後走行する電気車での電力として活用する取り組みを行っています [1,2].
超電導フライホイール蓄電システム
フライホイール蓄電システムは,装置の内部にある大型の円盤であるフライホイールロータが回転することで,発電電動機を介して回生電力のエネルギーを運動エネルギーとして貯蔵(充電)し,必要に応じてエネルギーを放出(放電)するシステムです [3,4].充放電の繰り返しによる性能の劣化は起こらず,また有害物質を含まない構造のため,環境に優しい特徴があります.なお軸受が接触式のシステムでは,重量物の回転体を接触方式で支持するため,回転軸の摩耗等による交換などメンテナンスに手間がかかる課題があります.そこで,本システムの特徴は,フライホイールロータの荷重を受ける軸受部分に超電導技術(超電導磁気軸受)を採用していることです.超電導体の完全反磁性効果による磁気浮上によってフライホイールを非接触で回転させることで,軸受の摩耗によるメンテナンスが不要となりシステムの維持管理コストを削減でき,さらにはエネルギー損失を低減することができます.
超電導フライホイール蓄電システムの外観を図2に示します.写真中央右手にある縦型の円筒部分が超電導技術を採用したフライホイールの部分です.その内部構造の略図を図3に示し,主要な装置の役割を以下に概説します.
- ① 発電電動機
- フライホイールと連結させて加速・減速し,回転エネルギーと電気エネルギーを相互に変換します.
- ② 磁性流体シール(MFS: Magnetic Fluid Seal)
- 真空容器内のロータと大気空間内の発電電動機をつなぎ,真空と大気を隔離させて真空状態を保ちつつ,回転動作を伝達します.
- ③ フライホイール
- 15トンの大型ロータであり,回生エネルギーを回転エネルギーとして貯蔵します.
- ④ 真空容器
- フライホイールを内蔵し,フライホイールの回転抵抗(風損)を低減させるため,容器内を真空状態にしています.
- ⑤ タッチダウン軸受(TDB: Touch Down Bearing)
- 超電導磁気軸受が機能喪失して浮上を保てなくなった場合でも,フライホイールが安全に停止するまで,荷重を回転支持させます.
- ⑥ 制御型磁気軸受(AMB: Active Magnetic Bearing)
- 電磁石の吸引力を利用・制御することで,フライホイールの軸にかかる水平方向の力を非接触で支持します.
- ⑦ 超電導磁気軸受(SMB: Superconducting Magnetic Bearing)
- SMBに内蔵する超電導コイルの強力な磁界と,回転軸に内蔵する超電導バルク体との磁気反発力により,フライホイールの重量を鉛直方向に非接触で支持します.
本システムでは,下り勾配を走行する電気車から回生電力のエネルギーを運動エネルギーとして貯蔵し,上り勾配を登坂走行する電気車にエネルギーを放出します(図4).なお,本システムのエネルギーにより,登坂走行をアシストするため,変電所から送電する電力を削減することが可能です [5].
本システムは,勾配を走行する電気車のエネルギーを活用することから,中央本線穴山駅に隣接する穴山変電所に設置しました(図5).実証試験にあたり,各設備の機能の確認,充放電時の特性の確認,そして鉄道の設備としての稼働性などの確認を行っています.そのうえで,穴山駅付近を走行する電気車走行時の充放電を実施し,充放電特性およびシステムの有効性の検証を行って,将来の実装を目指しています.穴山変電所での効果は,約400 kWh/日の回生エネルギーの有効活用と,年間約64トンのCO2削減を見込んでいます.
参考文献
- [1]K. Minaminosono, M. Hashimoto, and T. Yoshinaga, “Study of Potential and Utilization of Regenerative Power in Electirc Railway,” 8th Int. Conf. Renewable Energy Research and Applications (ICRERA), p. 164 (2019). [Crossref]
- [2]小西武史,「鉄道用地上蓄電装置のエネルギー媒体」, 鉄道総研報告 33(5), 39 (2019). [Web]
- [3]山下知久, 小方正文, 長嶋賢,「実証実験が進む超電導フライホイール蓄電」,JREA 59(9),40649 (2016).
- [4]山下知久, 宮崎佳樹, 小方正文, 長嶋賢, 嶋崎靖幸, 土肥哲也, 谷口学, 春井眞二, 伏見元紀,「超電導フライホイール実証機のキーテクノロジー」,低温工学 54, 359 (2019). [JaLC]
- [5] 吉永孝, 南之園弘太, 橋本慎, 柳瀬直仁, 大泉正一,「鉄道用超電導フライホイール蓄電システムの実証試験に向けた検討」,J-RAIL,S3-4-1,p. 473 (2019).
注釈
- [*1] 電気車の制動時に得られる電力のこと.回生とは電動機が発電機の役割をして,電力を生み出す現象を言う.電気車では,力行時に供給した電力により,電動機を回転させ,速度が上昇する.減速などの制動時には,電動機が発電機として動作することにより,電気車の運動エネルギーを電力に変換する.
- [*2] 円滑に回転させるための円盤状の部品のこと.回転体を精密に製作することにより,円周方向のつりあいを保ち,回転運動時の力や速度の変化を小さくし,円滑な回転運動を得る.
- [*3] 山梨県韮崎市穴山町にある東日本旅客鉄道(JR東日本)の変電所.中央本線の穴山駅は標高518 mに位置する.


