公益社団法人 応用物理学会

大容量・高エネルギー密度・長寿命を特長とするNAS®電池 NAS®電池は世界に広がる新たなエネルギーソリューションに対応し,その普及・発展に貢献します 斗野 綱士 日本ガイシ株式会社 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

NAS®電池は日本ガイシが世界で初めて実用化したメガワット級の電力貯蔵システムです.昼夜間などの電力需要の格差を解決する手段として,1984年から東京電力と共同で開発が開始されました.大容量,高エネルギー密度,長寿命を特長とし,鉛蓄電池の約3分の1のコンパクトサイズで,長期に渡って安定した電力供給が可能です.電力負荷平準によるピークカット(図1(a)),再生可能エネルギーの安定化(図1(b))に役立ち,節電対策やエネルギーコスト削減,環境負荷低減に貢献します.

(a)
(b)
図1: NAS®電池の運用例.(a) 消費者側におけるピークカット,(b) 発電(給電)側における再生可能エネルギーの安定化.

NAS®電池は,負極(マイナス極)にナトリウム(元素記号Na),正極(プラス極)に硫黄(元素記号S),両電極を隔てる電解質にファインセラミックスを用いています.運用温度は約300°Cであり,両極の活物質は液体状態,電解質は固体状態です.この温度で電池反応は円滑に進み,内部抵抗も十分に低くなるため,良好な性能を得られます.充放電は可逆的に行われるため,繰り返し使用することができます.

約300°Cで正極と負極間には約2 Vの起電圧が発生し,負荷を接続すると放電し,電力が取り出せます.この電力は負極のナトリウムがイオンとなって固体電解質を通過し,正極の硫黄と反応する際に外部回路に放出される電子の移動により生じるものです.放電が進行すると正極内では多硫化ナトリウムが生成され,負極のナトリウムは消費・減少します.充電する場合は,電源,系統と接続して外部からエネルギーを供給することにより放電と逆の反応でナトリウムと硫黄が生成され,エネルギーが貯えられます.

図2: NAS®電池の原理.

NAS®電池の最小単位を単電池と言います.単電池は活物質として負極にナトリウム,正極に硫黄,電解質としてファインセラミックス(ベータアルミナ)で構成された円筒状の完全密閉構造をしています.寸法は直径90 mm×高さ500 mm程度であり,開路電圧は約2 Vから1 mm程度であり,開路電圧は約2 Vから1.8 Vまで変化し,定格容量は約700 Ahです.その単電池を断熱容器に約200本収納し,加熱用ヒータ,過電流遮断用ヒューズ等を配置し,余剰空間を消火材である珪砂で充填した,温度制御を行う単位をモジュール電池と言います.モジュール電池は,単電池総数が多く大容量運用が可能な標準タイプと,冷却ファンを搭載して標準タイプに対して単電池総数が約30本少ないにも関わらず,出力は10%大きい高出力タイプがあります.

さらに,モジュール電池を数台または数十台収納し,制御装置を組み込んだ単位をNAS®電池ユニットと言います.NAS®電池ユニットはエネルギー密度が高いパッケージタイプと設置工期が短いコンテナタイプがあります.パッケージタイプには標準タイプのモジュール電池,コンテナタイプには高出力タイプのモジュール電池がそれぞれ収納されます.

図3: NAS®電池の構造とラインナップ.

NAS®電池の特長の一つに長寿命があります.図4に単電池を毎サイクル定格電力量放電したときの長期性能検証の結果を示します.容量の減少はほぼリニアで,寿命末期の4,500サイクル定格放電実施後でも定格容量の105%を維持していることが確認できます.また,放電量が少ない場合には,容量の減少量は軽減されていることも確認できます.実際に市場では約10年におよぶ稼働実績があり,社内では17年5,800サイクルまで単電池の充放電評価を継続しています.

現在,長期性能検証を実施した単電池の解体調査を実施し,設計当初の見通しに対する実際の劣化状況を調査し,さらなる寿命延長が可能となる見通しを得ています.長寿命化のターゲットを20年,7,300サイクルと掲げ,今後も市場で寿命を全うして回収した電池の継続調査をしていきます.

図4: 単電池の長期耐久性検証結果.

著者プロフィール

斗野 綱士

(ほしの こうじ)

1982年愛知県生まれ.2006年3月三重大学大学院電気電子工学専攻修了.同年4月日本ガイシ株式会社入社.製造現場での実習経験を経た以後,主にモジュール電池の高出力化および高効率化設計ならびに安全設計に従事.現在はエナジーストレージ事業本部エネルギーインフラ事業部NAS開発部マネージャー.

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