超伝導が拓く次世代エネルギーインフラ エネルギー貯蔵機能を有する超伝導ケーブルによる再生可能エネルギーの大量利用 東川 甲平 九州大学大学院システム情報科学研究院 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理
我が国のエネルギー自給率は1割程度です.2011年の東日本大震災以前は20%でしたが,その後は原子力発電の停止により6%まで落ち込み,近年でも11%に過ぎません [1].つまり,残りの9割程度は,国外からの化石燃料(石油・天然ガス・石炭)の輸入に頼っています.このような現状は,国際情勢の変化によって資源の安定確保が滞るリスクを考えると,エネルギーセキュリティ上好ましい状況ではありません.昨今のウクライナをめぐる情勢からも,みなさんも身近なこととして危機感を募らせているところではないでしょうか.
エネルギー自給率の問題を解決するのは再生可能エネルギーです.特に,太陽光発電や風力発電に関しては導入拡大に向けて高い目標が設定されています [2].ただし,太陽光発電や風力発電は天候に大きく左右されるため,出力の変動が激しいという問題があります.最も顕著となるのは曇りの日の太陽光発電であり [3],ほんの数秒間で発電したり発電しなくなったりすることがあります.当然,私たちはこのような急激な変化に応じて電力の消費を合わせることができません.また,太陽光発電の導入拡大が進んで,従来の電力会社が持っている大きな発電機が無くなってくると,同じ状態を保ち続けようとするその慣性が利用できなくなるため,電力系統は変動にますます弱くなる方向に向かいます.
したがって,太陽光発電を主とする再生可能エネルギーの大量利用には,このような激しい出力変動を高速に補償できるエネルギー貯蔵装置が不可欠となります.エネルギー貯蔵装置としては,もちろん電池が挙げられます.特に,近年のリチウムイオン電池の発展には目を見張るものがあります.ただし,電池は電気エネルギーをいったん化学エネルギーに変換する必要があり,その化学反応には時間を要することから,大電力の充放電を瞬時に行うというわけにはいきません.例えば,みなさんがお手持ちの電池を1秒間で満充電して1秒間で使い切ってください,と言われても難しいことから想像できると思います.また,水素によるエネルギーの貯蔵も期待されていますが,大量のエネルギー貯蔵が可能な一方で,もう一度電気に戻すまでには相当の時間がかかる上に,相当量のエネルギーが失われてしまいます.
我々が提案・開発している超伝導ケーブルによれば,これらの問題を解決できます [4,5].超伝導線材をソレノイドコイル状に巻いて電磁石のようにしたこの特殊な超伝導ケーブルは,電気を電気のまま(正確には電磁気の範囲内)で貯蔵できるため,大電力の高速充放電を高効率に行うことができます.このエネルギー貯蔵の原理は,既に知られている超伝導磁気貯蔵装置(Superconducting Magnetic Energy Storage: SMES)[6] と同様です.一方,この特殊な超伝導ケーブルは,電力を送る送電線(あるいは配電線)そのものがエネルギー貯蔵を行うためにエネルギー貯蔵にかかる付加的な設備を必要とせず,長いケーブルの体積を有効利用できるためにSMESで問題となっていたエネルギー貯蔵量の限界の問題も解決します.また,上記と同様の理由で貯蔵にかかる付加的なエネルギー損失も無く,再生可能エネルギーを余すところなく利用することが可能となります(図1参照).つまり,この超伝導ケーブルを用いた新しい電力系統を構築することで,再生可能エネルギー導入拡大の壁となる出力変動の問題を打ち破るとともに,その最大限の利用が可能になるというわけです(図2参照).


現在までに小型モデルケーブルを用いた原理検証に成功しています.もし読者のみなさんが超伝導に興味を持ち,革新的な超伝導材料を開発してくだされば,さらに大きなエネルギーをコンパクトなケーブルで貯蔵できるようになります.これこそが再生可能エネルギー大量利用の鍵であり,我が国のエネルギーセキュリティの確保,2050年カーボンニュートラル [7] へのGXにつながるものと期待しています.
参考文献など
- [1]資源エネルギー庁, 令和2年度(2020年度)エネルギー需給実績(確報)(令和4年4月15日公表)概要(閲覧日2022年4月30日).
- [2] 経済産業省, 再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会(第40回, 令和4年4月7日)資料(閲覧日2022年4月30日).
- [3]九州電力, 太陽光発電の天候による変動状況(閲覧日2022年4月30日).
- [4]NEDO, 未踏チャレンジ2050超伝導応用(閲覧日2022年4月30日).
- [5]K. Higashikawa and T. Kiss, “Novel Power System with Superconducting Cable with Energy Storage Function for Large-Scale Introduction of Renewable Energies”, IEEE Trans. Appl. Supercond. 29, 5402204 (2019).
- [6]電気学会, 用語解説第11回テーマ(閲覧日2022年9月12日).
- [7]第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説(2020年10月26日).