GX時代の電力システム パワーエレクトロニクスと技術者の役割 佐野 憲一朗 東京科学大学 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

1. 電気の利用を支える電力システムの進化

私たちは日々,家庭や職場で当たり前のように電気を使っています.普段見慣れたコンセントには,いつもと変わらず電気が届いているように見えますが,その背後には巨大な「電力システム」が存在しています.コンセントの向こう側には発電所がつながっており,今この瞬間にもどこかで発電されたばかりの電気が,電力系統を通して届けられているのです.しかも,その電気は特定の発電所から来ているわけではなく,北海道から九州に至る日本各地の発電所で作られた電力が,大きな “電気のプール” である電力系統で “調合” されて,私たちのもとに届けられています.

近年では,グリーントランスフォーメーション(GX)の進展により,再生可能エネルギー(再エネ)の普及が進み,太陽光発電や風力発電による発電所が増えています.中には,建物の屋根に設置されるような小規模な設備から,100 haを超える大規模な設備まで含まれています.このように発電方式が変化する中でも,私たちのコンセントには,「いつもと変わらない電気」が届けられています.しかし実際には,変わらないように見えるだけで,その裏で電力システムは日々進化を続けているのです.その進化を支える重要な技術のひとつが「パワーエレクトロニクス」です.ここでは,その技術が果たす役割を紹介していきます.

2. 再エネ電源のインターフェースとしてのパワーエレクトロニクス

火力発電や水力発電では,蒸気タービンや水車で発電機の軸を回すことにより交流の電力を作り,電力系統を介して送電します.このとき,同じ電力系統に接続された発電機や電気機器は,同じ回転速度(=周波数)で動くことで,送電が可能になります.これを同期運転と呼びます(図1).

図1 同期運転する発電機の概念図

近年は,再エネ由来の発電設備(再エネ電源)の利用が広がっています.再エネ電源の多くも電力系統に接続されますが,従来の火力発電等で用いる発電機とは性質が異なります.たとえば,太陽光発電では太陽電池で直流の電力を作ります.一方,風力発電では風速によって発電機の回転速度が変わるため,交流ではあるものの周波数が一定ではありません.これらの電力は,そのままでは電力系統と同期しておらず,直接つないで送電することができません.

そこで必要となるのが,パワーエレクトロニクスと呼ばれる,半導体デバイスを使って,電気の性質を効率よく変換する技術です.たとえば,直流を交流に変換したり,交流の周波数を変えたりすることができます.これにより,再エネ電源で作られた電力を,電力系統の周波数と同期させ,送電できるようにしています.いわば,異なる速度で回転する軸をつなぐ「歯車」のような役割を果たしています.

その代表的な装置に「連系インバータ」があり,これは直流を交流に変換する機能を持っています.日本ではパワーコンディショナという名称でも知られています(ただし,これは和製英語です).さらに連系インバータは,単に電力を変換するだけでなく,電力系統の利用ルール(系統連系規程)に従い,さまざまな制御・保護機能を備えています.これらの機能によって,多様な再エネ電源が接続されても,電力システムの品質が保たれ,災害のリスクも低く抑えられています.

このように,パワーエレクトロニクスは,再エネ電源と電力系統をつなぐインターフェースとして,重要な役割を果たしています.

3. 電力系統間のインターフェースとしてのパワーエレクトロニクス

火力発電や水力発電では,電力需要の変化に応じて発電出力を調整できます.これにより電力系統の周波数を,すべての機器が同期運転できる範囲内に保っています.一方,太陽光発電や風力発電では,日照や風速などの気象条件によって発電出力が変動するという特徴があります.こうした変動に対しては,これまで主に火力発電や水力発電の出力を調整することにより電力の需要と供給のバランスが取られてきました.ところが再エネ電源は,日照や風況に恵まれた地域に集中して設置される傾向があり,そうした地域では需給バランスを維持することが困難になってきました.需給バランスが崩れると,電力系統の周波数の変化が起こります.周波数の変化が過度に大きくなると,発電機が同期運転できなくなり停止することがあります.これが周波数のさらなる変化をもたらし,連鎖的に広がることで,大規模な停電に至ることがあります.

こうした発電出力の変動や地域的な偏りに対応するためには,電力系統をより広域で一体的に運用することが有効です.広域運用を行うと,再エネ電源の気象条件に起因する出力変動や地域的な偏りを平準化し,悪影響を緩和することができます.これまで日本の電力系統(島しょ部を除く)は,技術的・歴史的な背景から,北海道,東日本,中西日本,沖縄の4つに分かれて構築・運用されてきました.これに対し,2013年から進められた電力システム改革では,沖縄を除く3つの電力系統を一体的に運用するための仕組みが整えられてきました.

この広域運用を実現するには,制度や市場の整備だけでなく,地域間で電力を物理的にやり取りするための送電設備が必要です.先に述べた通り,送電を行うためには,同じ電力系統につながった機器が同期運転をする必要があります.ところが,東日本系統では50 Hz,中西日本系統では60 Hzと,異なる周波数が使われているため,これらを同期させることはできません.

そこで活用されているのが,パワーエレクトロニクス技術です.2つの電力系統のそれぞれにインバータを接続し,その直流側をつなぐことで,電力系統の同期を取ることなく,相互に電力をやり取りすることができるようになります.このように周波数が異なる系統間を接続する設備は「周波数変換設備(FC : Frequency Converter)」と呼ばれます(図2).

図2 広域運用の概念図

また,2つのインバータを異なる変電所に設置し,それらを直流送電線で結ぶ場合には「直流送電(HVDC : High Voltage DC)」と呼ばれます.たとえば,北海道系統と東日本系統の間で運用されています.これらの系統の周波数はいずれも50 Hzですが,両系統を結ぶ津軽海峡の部分は,高電圧の海底ケーブルで接続されています.交流送電では,海底ケーブルで送電できる距離に制約があり,交流で直接つないで同期運転させることが技術的に困難なためです.

現在は,これらの送電設備を通じて,北海道から九州まで,最大160 GWにも及ぶ巨大な電力システムを構成して運用がされています.こうした広域運用の取り組みは,日本だけでなく,欧州や北米など世界各地でも進められており,今日の再エネ電源の安定利用を支える基盤となっています.

4. GXの実現に向けた技術者・研究者の役割

このように,再エネ電源を電力系統に統合するうえで,パワーエレクトロニクスはインターフェースとして欠かせない役割を果たしています.一方で,パワーエレクトロニクスの導入によって,機器間の複雑な相互作用や,それに伴う意図しない電力品質の低下など,さまざまな技術的課題も生じています.現状の技術の延長だけでは,今後のGXの進展に十分に対応することは困難でしょう.

歴史を振り返ると,19世紀末から20世紀初頭にかけて起こった「電流戦争」では,直流電力システムから交流電力システムへの移行をめぐって,激しい議論と競争が繰り広げられました.この過程で,多くの技術者や研究者の地道な技術開発の取り組みが,技術を進歩させ,課題を克服してきました.

それから100年以上の時を経て,私たちは再び大きな転換点に立っています.化石燃料への依存を減らすため,従来の発電機が中心の電力システムから,パワーエレクトロニクスを介して多様な再エネ電源が統合された新たな電力システムへと移行する過渡期にあります.世界中の技術者や研究者たちは,私たちの子どもやその次の世代も,今と同じように,コンセントからいつもと変わらない電気を使える未来を,どのように実現するか,知恵を出し合い,議論を重ねているところです.

GXの歩みはまだ始まったばかりです.コンセントの向こうの世界は,これからも進化していく必要があります.そして,それを支える技術者や研究者の役割は,今後ますます重要になっていくでしょう.この記事を読んで興味を持った方,特に将来,技術者や研究者を志す皆さんには,GX時代の電力システムを一緒に創り上げ,電気を通じて持続可能な社会を実現する仲間になってほしいと願っています.

著者プロフィール

佐野 憲一朗

(さの けんいちろう)

2010年3月東京工業大学 大学院理工学研究科 電気電子工学専攻 博士後期課程修了.博士(工学).博士論文研究では高効率DC-DCコンバータの研究に従事.同年,一般財団法人 電力中央研究所に入所,基幹系統用の直流送電システム,インバータに起因する電力品質問題の研究に従事.2018年4月より東京工業大学(現・東京科学大学) 工学院 助教.2025年4月より東京科学大学 工学院 准教授.専門はパワーエレクトロニクス,電力系統工学.

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