高効率なガスタービンコンバインドサイクルに不可欠なガスタービン翼の冷却技術 脱炭素へのトランジションを支える火力発電技術の基盤 高橋 俊彦,酒井 英司 電力中央研究所 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

ガスタービンコンバインドサイクル発電 [1](以下 コンバインドサイクル発電)は,ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた火力発電方式の1つです.ガスタービン [2] で大気(空気)を取り込み圧縮機で圧縮し,燃焼器で燃料を投入して高温・高圧の燃焼ガスを作り,タービンを回して発電します.さらに,ガスタービンから出る排ガスの熱で蒸気を発生させて,蒸気タービンを回して発電します.現在は,ガスタービンの燃料にLNG(主な成分はメタン)を用いた大規模なコンバインドサイクル発電設備が国内外で運用されており,火力発電における主要な設備の一つになっています.

コンバインドサイクル発電は,他の火力発電方式(例えば,ボイラと蒸気タービンによる汽力発電 [1])に比べて,ガスタービンと蒸気タービンの両方で熱エネルギーを発電に使うため,発電効率(熱効率=(ガスタービンの仕事+蒸気タービンの仕事)/投入燃料の熱量)が高い発電方式です [*1].ガスタービンのタービンに流入する燃焼ガス温度を,適切な圧力比(=圧縮機出口圧力/入口圧力)の下で上げることにより,タービンの膨張過程において利用できる熱落差が増加するため,ガスタービンの仕事は増大します.また一方,ガスタービンからの排ガスの熱量増大により蒸気タービンの仕事も増えるため,コンバインドサイクル発電の熱効率が上ります [*2].また,ガスタービンが航空機エンジンを起源とすることからも推測できるように,コンバインドサイクル発電は,比出力(単位空気流量あたりの出力(発電量))が大きく,かつ機動性が高いなど,発電方式として優れた特性を備えています.こうした特性は,脱炭素を進める中では,他の火力発電方式に比べて二酸化炭素の排出量が少ないというメリットに繋がるだけでなく,太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの利用を増やしていく際に,自然環境に応じて変動する,これらの発電量に即応して,電力を補い調整するために適しています.さらに現在,燃料に水素やアンモニアを用いることで,火力発電自体の脱炭素を目指す技術開発が活発に進められています [3].

上記のコンバインドサイクル発電のメリットはいずれにしても,ガスタービンのタービンに流入する燃焼ガスの温度を高めて,作動圧力を最適化することを基盤として成立しています.ガスタービンのタービン翼や燃焼器は,信頼性とコストの観点から構造材に金属(超合金)が使用されますが,その超合金の融点と同等以上の燃焼ガスに晒されます(そのため高温部品と呼ばれます).したがって,コンバインドサイクル発電設備では,高温部品の冷却が不可欠であり,これにより十分に耐久性を確保することが必要になります.

以下では,高温部品の代表例として,タービンの回転翼(動翼)を用いて冷却技術の重要性を示します.タービン動翼は,動力回収を直接担う部品であり,ガスタービンの運転中は,常に回転による外力(遠心力)が作用し続ける,高温部品の中でも特に動作条件が過酷な部品です.図1は,タービン動翼の構造を示すとともに,各部の名称を青字で,また,燃焼ガスや冷却に用いられる空気(冷却空気)の流れ方向を矢印で示しています.タービン動翼の冷却には,他の高温部品と同様に,翼内部に設けた流路に冷却空気を流す対流冷却や,さらに翼内部の対流冷却に用いた冷却空気を,翼外面に貫通させた孔(フィルム冷却孔)から,燃焼ガスに曝される翼外面側に噴き出してガス温度を下げるフィルム冷却などがあります.翼内部の冷却流路は,伝熱面積を増やして冷却空気を効果的に使うために折り返した構造(サーペンタイン冷却流路と呼ばれる)が多く採用されます.またその表面には,突起(リブと呼ばれる)を付けて強い乱流を発生させることで,冷却(熱伝達)を促進させる構造も多く採用されます.また,タービン動翼をはじめとする高温部品には,冷却とともに,燃焼ガスに直接曝される壁面に,セラミックスのコーティング(遮熱コーティング: TBC)が施工されることも多くあります.ここで,冷却空気には,通常,圧縮機から抽出された空気が用いられ,その流量は,圧縮機に流入する空気の20%以上にも達すると言われています [4].冷却空気は,動力回収には直接寄与しないため,その増加は,出力の低下や,燃焼ガスと冷却空気の混合による温度低下や空力損失の増加に因る熱効率の低下を引き起こし,ひいてはコンバインドサイクル発電全体の効率を低下させます [5].

図1: ガスタービンの回転翼(動翼)概要.

そのため,コンバインドサイクル発電の高効率化にとって,個々の冷却の高性能化(すなわち,少ない冷却空気流量で高い温度低減効果(冷却効率)を得ること)は,最も重要なポイントになります.これには,冷却空気の乱流熱伝達を評価することが基本になり,熱伝達に影響を及ぼす様々な時空間スケール(すなわち,大小様々な渦)による流れの挙動を把握することが必要になります.フィルム冷却については,特に,冷却空気と燃焼ガスの混合状態を正確に把握することが重要になります.しかし,高温・高圧・高速のガスタービン実機の内部を計測することは難しいため,研究開発には,熱・流体に関する数値解析(いわゆるCFD: Computational Fluid Dynamics)技術が効果を発揮します.図2には,タービン動翼のフィルム冷却を評価するための非定常乱流CFD解析例を示します.左側の図は,タービン動翼前縁部を模擬したモデルにおけるフィルム冷却空気の挙動を示しており,図の上下は冷却空気流量の違いです.冷却性能を高めるには,冷却空気を翼の外面近くに広く分布させる必要があり,こうしたCFD解析で,フィルム冷却孔の形状や配置の違いによる冷却空気の挙動を把握することができます.また,右側の図は,フィルム冷却孔を介した内部対流冷却とフィルム冷却のモデルに関する解析結果です.内部対流冷却に使用された冷却空気がフィルム冷却孔から噴出する際に,内部冷却流路表面のリブの向きに依り,その挙動が変化する様子を示したものです.フィルム冷却の高性能化には,内部対流冷却の方法にも注意を払うべきことが明らかになりました.

図2: 冷却空気の挙動評価例(非定常乱流CFD解析).冷却空気の挙動を渦構造(上図中の雲状の塊)[注釈]で示す.

注釈

渦構造(雲状の塊)として,速度勾配テンソルの第2不変量(Q値と呼ばれる)の等値面を描いています.Q値は,速度勾配テンソルを,対称テンソル(流れの変形を表す;\(S_{ij}\))と反対称テンソル(流れの回転を表す;\(\Omega_{ij}\))に分解して,それぞれの2乗値の差をとったスカラー\(\Omega_ {ij}^2 – S_{ij}^2\)です.図2には,Q値の正の等値面を示しており,これは流れのなかで回転成分が大きい部分(渦)と解釈できます.

また,コンバインドサイクル発電のメリットを安定・安全に享受するには,タービン動翼に生じる損傷・劣化の主因となる,熱応力・熱ひずみを低減して,十分な耐久性を確保することが不可欠になります.これには,単に翼の温度を低減させるだけなく,温度の分布をできるだけ均一にすることも重要になります.翼内部からの対流冷却は,構造材の温度を下げますが,翼外面と翼内部の温度差は大きくなってしまいます.一方,フィルム冷却では,翼外面近くのガス温度を低下させるため,翼内外の温度差(すなわち熱流束)を抑える点で優れた方法であるものの,前述のように,冷却空気と燃焼ガスの混合により相応のエネルギー損失を生じさせるため,ガスタービンの熱効率とっては必ずしも優れた方法とは言えません.また,フィルム冷却に用いられる空気は,はじめに翼内部の冷却流路に導かれるため,熱応力・熱ひずみを低減するように温度分布を最適化するには,フィルム冷却孔や内部冷却流路の配置・組み合わせに拠る翼の温度分布を評価する必要があります.さらに,当然ながら,タービン動翼の温度分布には,構造材における熱伝導も大きな影響を及ぼします.例えば,構造材を薄くすることで,翼内外の温度差は小さくなり,その結果,熱ひずみも小さくなりますが,遠心力などに耐えるために基本的な強度(これも温度に依存)の確保は不可欠であるため,それらのバランスが重要になります.このように,タービン動翼の耐久性確保には,燃焼ガスによる加熱と個々の冷却,さらに構造材やTBCにおける熱伝導の全てが関与するため,これらを総合的に検討することが必要になります.図3は,燃焼ガス,翼内部の対流冷却やフィルム冷却の流れと熱伝達,および構造材やTBCの熱伝導を連成させて数値解析することにより,タービン動翼全体の温度分布を求めた結果の例です.風洞試験とともに,こうした数値解析を使うことで,個々の冷却方法の性能や翼の構造が温度分布,ひいては熱応力・熱ひずみに及ぼす影響等を,実機を計測するよりも低コストで仮想的に評価することが可能になっています.

図3: ガスタービン動翼の温度分布評価例(連成伝熱解析結果).

以上のように,脱炭素社会に向けて好適な特性をもつ,コンバインドサイクル発電による電力供給は,こうした冷却技術やその組み合わせに支えられています.

補足

  • [*1]1700 °C級ガスタービンを用いるコンバインドサイクルの熱効率(HHV基準,送電端効率)は57%とされ [9],ボイラと蒸気タービンによる汽力発電の熱効率(HHV基準,送電端効率)は,超臨界圧ボイラ(主蒸気温度600~630 °C)を用いた設備で40% [9],超々臨界圧ボイラ(主蒸気温度700 °C)を用いた設備で46%~48%とされています [9,10].
  • [*2] コンバインドサイクルの熱効率(LHV基準,発電端効率)は,1500 °C級ガスタービン(タービン流入ガス温度がおよそ1500 °C)を用いた設備では59%(ガスタービン39%,蒸気タービン20%)[11] であり,1600 °C級ガスタービンを用いた設備では60%を超える [10].

ここで,LHV基準やHHV基準とは,燃料が燃えた時に発生するエネルギー(発熱量)を表示する際の条件を示すものです.燃焼によって生成された水蒸気の蒸発潜熱を除いた発熱量がLHV(低位発熱量)であり,水蒸気の蒸発潜熱を含んだ発熱量がHHV(高位発熱量)です.また,発電端効率は,発電設備(発電機)から出る時点の熱効率であり,これから発電所内での所要動力分を差し引いた,発電所から出る時点の熱効率が送電端効率です.

著者プロフィール

高橋 俊彦

(たかはし としひこ)

1996年東北大学大学院博士後期課程修了.博士(工学).同年電力中央研究所に入所来,主にガスタービン高温部品の熱流動数値解析や保守技術の研究に従事.現在エネルギートランスフォーメーション研究本部プラントシステム研究部門上席研究員.途中2009年~2010年von Karman Institute for Fluid Dynamics(Turbomachinery and Propulsion Department)客員研究員.

酒井 英司

(さかい えいじ)

2006年東京大学大学院博士後期課程修了.博士(工学).2007年電力中央研究所に入所来,主にガスタービン高温部品の熱流動数値解析や保守技術の研究に従事.現在エネルギートランスフォーメーション研究本部プラントシステム研究部門上席研究員.途中2017年~2018年Imperial College London(Department of Aeronautics)客員研究員.