公益社団法人 応用物理学会

超電導リニアと中央新幹線 東京~大阪1時間がひらく日本の未来 北野 淳一 JR東海リニア開発本部 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

東京~大阪を1時間で結ぶ超高速鉄道の研究は,東海道新幹線の開業前の1962年に始まった [1].
夢は現実のものとなり,東京~名古屋~大阪を結ぶ中央新幹線の建設が進んでいる [2].

超電導リニアの原理と構成

超電導リニアは車上に搭載された超電導磁石と地上の浮上・案内コイルの誘導電磁作用により,およそ150 km/h程度以上の高速において支持輪タイヤを車体内に格納し,浮上して走行する.(それより低速では十分な浮上力が得られないため支持輪タイヤで走行する).浮上走行時には浮上のための制御なしでコンクリートのU字型ガイドウェイ内を500 km/hで超高速走行する.超電導リニアの浮上走行の鍵は超電導磁石による強力な磁力とリニアモータの技術である.超電導磁石はリニア同期モータ [*1] の界磁 [*2] と共用され,車両の両側は異なるモータを構成する(図1).16両編成の定員は約1,000人,毎時8本以上が走行可能な大容量輸送システムであり,鉄車輪を用いてレール上を走行する一般的な鉄道に比べて車両と軌道間の摩擦(粘着)の制約がないことから超高速・高加減速が可能となるため,車両の利用率が高く,少ない編成数で大量輸送を実現できるという利点がある.

図1: 超電導リニアの構成.車両:台車(中間車は連接)両側に超電導磁石(Superconducting Magnet),地上:側壁表側に浮上・案内コイル(Levitation and Guidance Coil),側壁裏側に推進コイル(Propulsion Coil).

超電導磁石の強力な磁力を用いて10 cm程度浮上し,非接触で高速走行するシステムは1966年に米国ブルックヘブン国立研究所のダンビー博士とパウエル博士により提案された [3].彼らの提案では超電導磁石は翼上の水平置きだったが,宮崎実験線 [*3] では1980年に導入されたMLUシリーズの試験車両以降,台車両側に縦置きとなった.低温超電導材料であるニオブ–チタン合金(超電導臨界温度:約9.5 K)の超電導磁石を用いる場合は,車上に搭載された4 K冷凍機により超電導磁石を極低温に保つことで超電導状態が維持される(図2)[4].

図2: 超電導磁石と車載冷凍機.上段写真:超電導磁石が搭載されている台車側面の外観図.下段写真:超電導磁石部分の拡大図.超電導磁石に用いられているのはニオブ–チタン合金(Niobium–Titanium alloy)で,超電導状態を維持するために液体ヘリウム(Liquid Helium)で冷却され,その周囲を液体窒素(Liquid Nitrogen)で冷却して断熱が図られている.

地上のU字型ガイドウェイの側壁には,車上の超電導磁石と対向して8の字型の浮上・案内コイルが設置されている(図3)[5].浮上・案内コイルは短絡コイル [*4] で,外部からの電力供給はない.低速では十分な浮上力が得られないため支持輪タイヤで走行するが,このとき超電導磁石の中心と浮上・案内コイルの中心高さは一致させてあるため,超電導磁石が進行しても浮上・案内コイルに誘導電流は流れない仕組みとなっている.一方,150 km/h程度で浮上走行のため航空機のように支持輪タイヤを格納すると,車両は重力で下方に移動するため,浮上・案内コイルに電流が誘導される.ここで,浮上・案内コイルは図3に示すように8の字型となっているため,上下の巻線には逆向きの電流が流れる.したがって,上側のコイルからは車両を引き上げる力(吸引力)が,また下側からは押し上げる力(反発力)がそれぞれ働くことで,強い浮上力が生じ,車両の重量とは上下変位40 mm程度で均衡する.浮上・案内コイルは常電導のため電流損失は抗力となるが揚抗比 [*5] 100以上の効率的な浮上系が実現できる.

図3: 浮上の原理(左)とU字型ガイドウェイの側壁に設置される浮上・案内コイルの模式図.

図4は走行時の位置案内の模式図である.ガイドウェイの左右の浮上・案内コイル間は図4のようにNull-fluxケーブルとよばれるケーブルで接続されており,上下の巻線を流れる電流は同相となる.よって,車両がガイドウェイ中心から左右に変位すると車両の遠ざかった側に吸引力が,近づいた側に反発力が働き,中心に戻すような案内力が生じる.

図4: 走行位置案内の原理.

リニア同期モータの界磁となる超電導磁石のNS極の間隔(極ピッチ)は1.35 mのため,リニア同期モータの固定子巻線 [*6] となる三相の推進コイル(U,V,W)が0.9 m間隔で浮上・案内コイルの裏側に設置されている(図5).周波数は500 km/hで51.4 Hzとなる.地上・車上が組み合わされてリニア同期モータとして機能するため,車両の長さは1.35 mの偶数倍(中間車24.3 m),構造物の長さは0.9 mの整数倍(基本ユニット長12.6 m)の制約を受ける.極ピッチは従来の鉄道におけるレールの間隔(軌間:新幹線では1,435 mm)よりも広範囲に影響する重要な要素である.リニア同期モータは,超電導磁石の磁極位置を検出して,常に最大能率となるように推進コイル電流を同期・フィードバック制御する [6].ブレーキ時の電力は電動機が発電機として機能し,電力変換装置を介して電源系統に回生される.

図5: リニア同期モータの構成.

紙数の制約のため基本原理の説明にとどめる.超電導磁石開発 [7],材料等 [8] の資料を参照ください.

山梨リニア実験線

山梨リニア実験線は将来的には中央新幹線の一部となることを考慮して,宮崎実験線後新たに建設された.1997年の走行試験開始からの累積走行距離は370万キロメートルを超えており,最高速度603 km/h,すれ違い最高速度1,026 km/h,1日の最長走行4,064 kmなど,実用化や技術基準の確立に大きく貢献した.現在は,快適性の向上や保守の効率化のための技術開発を中心として,日曜日を除き週6日の走行試験を続けている.以下に最近の状況を紹介する.

快適性の向上

乗り物にとって,走行抵抗の低減や乗り心地を含めた快適さの追求は不断のテーマである.また,リニアは超高速で急勾配を走行するため3分で最大1,000 mの高度差を生じ,車外の圧力変化に伴う,いわゆる「耳つん」現象の緩和も課題のひとつとなる.これらへの対策を含めた新しい技術の検証のため改良型試験車(先頭車・中間車各1両)が新製され,2020年に本実験線に導入された(図6).先頭車の空気抵抗は13%低減された.

図6: 山梨実験線車両(L0改良型試験車)先頭車の外観写真.

高温超電導磁石の長期耐久性検証

また従来の低温超電導磁石と互換性を保ちつつ,超電導状態となる温度が約90 K以上の高温超電導材料を用いた高温超電導磁石も開発されている.高温超電導磁石の場合には,従来の超電導磁石で必須であった液体ヘリウムや液体窒素などの寒剤を用いずに冷凍機での冷却のみで超電導状態が維持できるため,構造が簡素化され,製造費・保守費の低減が期待できる(図7)[9].営業線に導入すべく長期耐久性検証を進めている.

図7: 従来の低温超電導磁石(Low Temperature Superconducting Magnet: LT SCM, 上段)と
高温超電導磁石(High Temperature Superconducting Magnet: HT SCM, 下段)の比較.

非接触給電システム

山梨実験線では車上の電源としてガスタービン発電機を用いてきたが,営業線に向けて環境負荷の小さい非接触・誘導集電システムを開発・導入した(図8).すべての車両に集電装置が設備され,日々の運転に供されている.周波数は10 kHz未満,一両あたり75 kW供給可能で,最大電力は営業編成16両では1,200 kWとなる.実験線では12両編成により550 km/hまでの安定動作を確認している.非接触・誘導集電システムから発生する磁界は,解釈基準で定められた国際規格であるIEC/TS62597に準拠して測定を行い,ICNIRP2010ガイドラインの1%以下であることが確認されたている.また,電磁的エミッションは同規格であるIEC62236-2に適合している.

図8: 非接触・誘導集電システム.

中央新幹線

開業から50年を超えた東海道新幹線は,世界の高速鉄道のさきがけとなり,日本の大動脈に成長,1日に46万人,年間1.7億人を運んでいる.この地域には7000万人の人々が暮らし,GDP 330兆円は,英国・フランス一国よりも大きく,ドイツにも迫る [10].これら都市間を1時間程度で結ぶことにより,経済効果のみならず,東京~大阪間の20%程度を占める航空輸送からの転移による効率化も含め,交通体系にも大きな変革をもたらすものと期待できる.すでに,のぞみ号で1時間あたりに12本ダイヤを実現したところであるが,高経年化への対応や自然災害等への備えも重要である.このような観点から,JR東海は超電導リニアによる中央新幹線計画を全国新幹線整備法に基づき自己資本により進めている(図9図10).まずは,品川~名古屋開業を目指し,ターミナル・同変電所2ヶ所,中間駅4駅,本線変電所10ヶ所,車両基地・同変電所2ヶ所を設ける.東海道新幹線車両は130編成を超えるが,高速化と路線の最適化により到達時間が短縮される中央新幹線では同等の輸送量を1/3程度の編成数(車両資源)の実現が見込まれている.

図9: 中央新幹線(東京~名古屋~大阪)計画概要と路線.
図10: 縦断面図(品川~名古屋間,地図とは東西が逆).

おわりに

本稿では,超電導リニアと中央新幹線の概要をまとめた.革新的な超電導リニア技術は日本だけのものではない.東京と大阪を1時間で結ぶ新しい輸送システムが,日本にとどまらず世界に新しい可能性をもたらすことを期待する.

米国では1990年代に活発に検討されたが本格的な開発には至らず [11],現在は当社海外展開として北東回廊への導入計画が進んでいる [12].また,中国では600 km/hを目指した開発が行われている [13].

注釈

  • [*1] リニア同期モータ:一次側の電機子の作る移動磁界に同期して,二次側の界磁磁極が移動するモータのこと.
  • [*2] 界磁:電動機や発電機などの回転電気機械において磁界を作るために設けられる磁石(直流励磁の電磁石または永久磁石)のこと.
  • [*3] 宮崎実験線:超電導リニアの本格的な実験線として宮崎県に建設された全線7.0 kmの設備.1977年に開設され,1996年に走行実験を終了した.
  • [*4] 短絡コイル:単体のコイルまたは複数のコイル同士を抵抗の小さい導体で接続したコイルのこと.
  • [*5] 揚抗比:超電導磁石に作用する電磁的な揚力(浮上力)と抗力の比.
  • [*6] 固定子巻線:通常のモータで固定子の役割をする,リニアモータにおける一次側電機子巻線のこと.

著者プロフィール

北野 淳一

(きたの じゅんいち)

1985年東京工業大学大学院電気電子工学専攻博士課程単位取得退学.同助手を経て,1989年JR東海入社.以来,一貫して超電導リニア開発に従事.現在,リニア開発本部担当部長.電気学会フェロー.