GXに貢献するパワー半導体技術 パワーエレクトロニクスによる電力エネルギーの効率的利用 総論 須田 淳 先進パワー半導体分科会・幹事長/名古屋大学 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

グリーン社会実現のための重要な課題の一つが,電力を使うあらゆる機器における電力利用効率の向上,省エネの実現である。その鍵となる技術が,パワーエレクトロニクス(パワエレ)であり,パワエレの中核を担うのが半導体パワーデバイスである.

最も身近な電気機器として,スマートフォン(スマホ)の充電器(ACアダプター)を考える(図1).充電器はコンセントの100 Vの交流(AC)を,スマホに適合した5 Vの直流(DC)に変換する装置である.スマホの充電中に充電器が高温になっていて驚いたことがあるのではないだろうか.高温になるのは,電力変換時に損失が生じているからである.その損失はおよそ15%である.つまり,みなさんがスマホを充電するときに払っている電気代の15%は充電のためではなく,充電器を加熱するために支払っているのである.冬ならば充電器を触って温まるという手もあるかもしれないが,夏であれば,充電器の発熱分を冷やすためにエアコンの電力消費が増えるというさらなる無駄を生むことになる.しかし,これでも充電器の効率はパワエレのお陰でこの30年間で大幅に向上したのである.その話からはじめよう.

図1: 充電器(ACアダプター)の外観.左は最新型のスイッチング方式のもの.右側は30年前からある従来技術のシリーズレギュレータ方式のもの.両方とも出力は13 W程度と同程度だが最新型は小型軽量化されている.

パワエレ以前の電源回路:シリーズレギュレータ

直流電圧を所望の電圧に下げることを考えよう.例えば9 Vの電池があるが,機器が必要とするのが5 Vという場合を考える.中学の理科で,電圧は抵抗により降下させることができることを習う.この原理を用いれば良い.つまり,電源と機器の間に適当な大きさの抵抗を入れて,その抵抗の値を調節して機器に5 Vが供給されるようにすればよいのである(図2).

図2: シリーズレギュレータ方式の電圧調整回路.抵抗の電圧降下により電圧を調整する.電圧調整用の抵抗で電力が無駄に消費されてしまうため効率が悪い.

半導体デバイスであるバイポーラ—トランジスタは,ベースとエミッタ間の電圧を一定(シリコンの場合は0.65 V程度)に保つようにコレクタ-エミッタ間の抵抗が変化するという性質があるので,これをうまく使うと自動調整を行うことができる.これがシリーズレギュレータ方式の電圧調整回路であり,図1の右側に示すような30〜40年前の充電器(ACアダプター)はほぼすべてがこの方式であった.

図3: 半導体デバイスであるトランジスタを使ったシリーズレギュレータ方式電圧調整回路.トランジスタのコレクタ-エミッタ(C–E)間の抵抗はトランジスタのベース-エミッタ(B–E)電圧がほぼ一定になるように変化する性質を使っている.ベース端子に所望の電圧より0.65 V高い電圧を与えれば良い.

この方式の最大の欠点は,余分な電圧(9 V−5 V = 4 V)を抵抗(トランジスタ)での電力消費で下げるということである.例えば機器に1 Aの電流が流れているとすると,機器に供給される電力は5 V×1 A = 5 Wである一方,元の電源から供給されている電力は9 V×1 A = 9 Wとなる.つまり,4/9,約半分の電力を熱として捨てていることになる.

パワエレ時代の電源回路

抵抗による調節という枠組みを打ち破るのがパワエレである.パワエレの定義はいろいろあるが,基本的な考えはスイッチを高速にオン・オフすることで電力の変換を行うことである.つまり抵抗で電圧を落とすのではなく,高速にスイッチをオン・オフさせて,平均値として所望の電圧を得る方法である.図4のような回路となる.電圧を平均化するためにはコイルやコンデンサによる平滑回路を用いる.

図4: パワエレ技術であるスイッチング方式の電圧調整回路.電源から間欠的に電力供給を受け,平滑回路により,電圧,電流を一定値にする.スイッチや平滑回路の損失がなければ電力を100%有効利用できる.出力電圧はONとOFFの時間の比で調整する.実際の電流はもっと複雑な形状となる.

パワエレでは,トランジスタを,電圧を降下させる抵抗としては使わずに,導通状態と遮断状態のスイッチとして利用する.トランジスタが理想的な導通状態,つまり,抵抗0であるとすると,電力を無駄に消費する部分は回路に存在しない,つまり効率100%で電圧を変換することができる.

実際にはトランジスタがオンになったときもわずかの抵抗(オン抵抗)が存在し導通損失が生じ,また,トランジスタがオン・オフするときにスイッチング損失が発生するが,シリーズレギュレータと比べると飛躍的に効率が向上する.効率が高いと回路の発熱が少なくなるので,電源回路をコンパクトに作ることができるというメリットも生まれる.(発熱が大きいと放熱のための大きな表面積,あるいは冷却フィンなどが必要になってしまう.)

パワエレの高効率化の鍵を握るパワーデバイス

パワエレにおいてスイッチ機能を担うトランジスタや整流機能を担うダイオードをパワーデバイスと呼ぶ.パワエレの効率向上の鍵となるのがパワーデバイスの高性能化である.オン時の抵抗を極限まで低減して,さらにデバイスの高速化によりスイッチング損失を低減すれば,高い効率で電力変換を行うことができるからである.

例えばDCの電圧変換回路は,サイズや価格などを度外視して,効率向上を最優先に設計すれば98%以上の非常に高い効率を実現することは可能である.しかし,スマホやパソコンの充電器のように,それなりに小型軽量で,値段も安くという制約が加わると,なかなか難しく,冒頭で紹介したように85%程度の効率となってしまう.

人々が大きくて重くて高価な「超高効率充電器」を使うようになれば省エネは進むのだが,利便性や経済的合理性もやはり必要となる.応用物理学会には「先進パワー半導体デバイス分科会」という分科会がある.この分科会で活動している研究者・技術者はこの問題を解決しようと日夜努力を続けている.高性能なパワーデバイスを安く大量に作ることができれば,省エネパワエレの普及が進み,世の中の省エネを大きく加速することができる.また,価格は高くても非常に性能の良いデバイスを開発し,電力送電網の変換所など膨大な電力が変換される場面に適用すれば省エネに貢献できる.

省エネルギーを実現すれば,節約した分の電力が浮くので,結果としてその分電力を発電したことと同じ効果となる.太陽光発電は昼間にしか発電できないが,パワエレによる省エネは機器が電力を使っている時,つまり常に電力を節約することができる.創エネと同時に省エネはグリーン社会実現に向けて重要な意味を持つ.

充電器だけではないパワエレ

パワエレが使われているのは充電器だけではない.いわゆるインバータと呼ばれているモーターを効率的かつスムーズに駆動する回路もパワエレであり,冷蔵庫やエアコンから,電気自動車や鉄道車両にも使われている.電気自動車などではパワーデバイスを流れる電流は200 Aにもおよぶ.抵抗を電流が流れる時の電力消費は高校の物理で習う通り,電流×電流×抵抗と表される.パワーデバイスのオン抵抗が0.1 Ω(簡単な方法では測定が困難なくらい小さい値)と小さな値であっても200 A×200 A×0.1 Ω = 4000 Wとなり,これはホットプレート4台分(16名で焼き肉パーティーができる!)という,大きな電力損失となる.つまり大電力のパワエレではパワーデバイスのオン抵抗を極めて小さく,例えば0.0001 Ωなどにしなければならない.

太陽光発電所や風力発電所では発電した電力を電力網に送るために電圧や周波数の調整が必要となる.これらの発電施設には必ずパワエレ設備が設置される.(家庭用太陽光発電でパワーコンディショナーと呼ばれる装置がパワエレ機器である.)発電した電力を効率的に送電するためにもパワーデバイス技術が重要となる.

現在のパワーデバイスの限界

集積回路やイメージセンサ,太陽電池に使われている半導体の王様であるシリコン(珪素,Si)はパワーデバイスにも使われている.パワーデバイスの研究は50年以上行われているのに,スマホやパソコンの充電器のような,簡単そうに見えるパワエレ機器で効率100%を達成できないのはなぜだろうか?

Siパワーデバイスの研究者は手をこまねいていた訳ではない.オン抵抗を低減すべく大変な努力,さまざまな技術開発が進めてきたのである.しかし,50年の時を経て,その性能向上は頭打ちになっている.技術の進歩により,Siという半導体材料で実現可能な損失低減(オン抵抗低減)の「理論限界」まで性能を向上させつくしてしまったのである.30年前の技術では,実際に作製したデバイスは理論限界の理想値に遠く及ばず,たくさんの改良の余地があったのだが,今では改良の余地がほとんど残されていないのである.しかしグリーン社会実現のためにはもっと高性能なパワーデバイスが求められている.どうしたらよいだろうか?

研究者の挑戦

グリーン社会実現のためにパワーデバイス分野では二つの方向で研究開発が進められている.

一つはSiパワーデバイスにおいて,ウルトラCの技によって理論限界を突破する方法である.理論限界といっても,それは絶対的なものではない.それをどのような前提で計算したかに注目する必要がある.上で述べた理論限界は,面内に均一な層を積み重ねた単純な構造のパワーデバイスでの理論限界である.そのようなデバイスは製造が容易だからである.作るのは難しいが,面内にも構造を設けて3次元的な複雑な構造にすると計算結果は変わってくる.理論限界をさらに先まで伸ばせるのだ.そのような構造をどうにか作ることでSiパワーデバイスの性能をさらに向上する研究がおこなわれている.また,従来のトランジスタは3端子素子であったが,それに第4の端子を設けることでスイッチング時の損失を下げるような素子の開発も進められている.従来の枠組みにとらわれないアイデアで活路を見出すという挑戦である.

もう一つは,研究や技術の蓄積があり使い慣れたSiを離れて新しい半導体材料に活路を見出す考えである.ワイドバンドギャップ半導体と呼ばれる材料は,絶縁破壊電界が大きく,Siよりもパワーデバイスに適した材料である.その代表格の炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)は,理論限界の計算によれば,オン抵抗がSiの1/300〜1/500と非常に小さい夢の半導体材料である.そんな良い半導体があるなら,なぜそれを使わなかったのかと思うだろう.SiCやGaNはSiと比べて結晶成長やデバイス作製が極めて困難で,そもそも半導体の基本的性質も(最近かなり理解は進んだが)Siと比べると全然わかっていないという技術的な難しさがあったからである.しかし,研究者・技術者の苦労の甲斐あって,地下鉄銀座線を皮切りに山手線や新幹線N700SにSiCパワーデバイスが搭載され,大きな省エネ効果を発揮している.また,GaNパワーデバイスはノートパソコンの充電器に昨年ごろから搭載が進み,Siを使った充電器より,小型軽量で,高効率な充電器を実現している.ワイドギャップ半導体パワーデバイスはやっと実用化がはじまったところであり,まだまだ理論限界まで多くの改善の余地が残されている.また,Siパワーデバイスに比べると作製コストがかなり高価になってしまうという課題もある.これらの課題に取り組むべく,国内外で精力的な研究が進められている.

図5: 半導体材料毎のオン抵抗低減の理論限界.高い電圧を扱うデバイスほど,オン抵抗の低減が困難となる.現在の主流であるSiに比べると次世代半導体であるSiC,GaNは理論的には圧倒的な低オン抵抗化が可能なことが分かる.

パワーデバイスは,日本企業が世界屈指の地位を占めており,ある意味国産半導体デバイス産業の最後の砦ともいえる.また,ワイドギャップ半導体については基本技術の発祥が我が国であり,研究者の層も厚く,最先端研究で我が国が世界を先導している.最先端の研究の進展については別コラムでトピックごとに取り上げて紹介する予定である.

著者プロフィール

須田 淳

(すだ じゅん)

1992年京都大学工学部電気工学科卒,1997年同大大学院工学研究科電子物性工学専攻博士後期課程修了.博士(工学).京都大学助手,講師,准教授を経て2017年より名古屋大学大学院工学研究科教授.ワイドギャップ半導体の結晶成長,物性評価,デバイスプロセス,デバイス応用に関する研究に従事.応用物理学会先進パワー半導体分科会幹事長.

タグ

  • パワーデバイス
  • パワーエレクトロニクス
  • ワイドギャップ半導体
  • インバータ
  • 省エネ