電動車におけるパワーエレクトロニクス  戸村 修二 豊田中央研究所 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

地球環境問題やエネルギー資源の制約を背景に,自動車の電動化が急速に進んでいる.電動車は,その駆動や補機の制御に多くの電力変換を必要とし,これを担うのが「パワーエレクトロニクス機器」である.本稿では,電動車に搭載される主なパワーエレクトロニクス機器や技術,そして今後の展望について解説する.

1. 電動車の種類と電動システム

電動車は大きく分けて以下の4種類に分類される.

ハイブリッド車(HEV)はエンジンと電動モータを組み合わせることにより,燃費向上と排出ガス低減を実現している.エンジンを停止してモータのみで走行が可能なストロングHEVと,アイドルストップと回生機能を主体としてEV走行は行わないマイルドHEVに分けられる.プラグインハイブリッド車(PHEV)は外部から充電可能なHEVで,一定距離を電動走行可能である.PHEVでは規定によりEV走行で所定の速度パターンを走行する必要があることから,電気システムの出力はHEVよりも大きく設定されている.電気自動車(BEV)はバッテリーのみで走行することから,走行時におけるCO2排出がゼロであり,近年の電池性能の進展により普及が加速している.全動力をモータから出力することが必要となるため,その電気システムにおいてはHEVやPHEVよりも高出力化が求められている.燃料電池車(FCV)は水素と酸素の化学反応で発電し,モータを駆動する.減速時の運動エネルギー回収や動力アシストを補うために二次電池も搭載されることが多い.

これら電動車において,パワーエレクトロニクス機器は電気エネルギーの効率的な変換と制御を行い,モータの駆動や電池への充電,補機部品への電力供給など様々な機能を担っている.

2. 電動車における主なパワーエレクトロニクス機器とその役割

電動車における電気システムには様々な電力変換装置(パワーエレクトロニクス機器)が搭載されている.図1にPHEVにおける電気システムの例を示す.電動車の電気系システムは,降圧DC–DCコンバータを境として主機系と補機系に分けられる.主機系は主機電池(駆動用バッテリー)や発電機からの電力をモータに伝達する系統であり,150V~700Vの高電圧で構成される.一方,補機系はこれらの制御ユニットや照明,各種センサ,アクチュエータなど,駆動系以外の電気機器に電力を供給する系統であり,14V系の低圧システムが一般に用いられているが,近年は先進安全のための各種センサやアクチュエータの増加に伴う補機系電力消費の増大が課題となっており,一部車種では48V系のシステムの採用も始まっている.

以下では,主機系,補機系の電気システムに用いられている代表的なパワーエレクトロニクス機器を紹介する.

図1. PHEVの電気システムの例
(出典:[1](梅野 2023)より改変)

<主機系>

インバータ(Inverter)
直流(DC)電力を交流(AC)に変換し,モータや発電機を駆動する装置.モータや発電機にはロータに永久磁石を埋め込んだ埋め込み磁石同期モータが用いられることが多い.電池は直流電圧であり,モータは交流電圧駆動であるため,パワー半導体デバイスを用いて電力変換を行っている.高効率かつ高出力応答が求められる.

昇圧DC–DCコンバータ(Boost Converter)
FCVや一部のPHEV・EVにおいて主機電池(二次電池または燃料電池)とインバータの間で使用され,主機電池の電圧を高圧化してインバータに供給することにより,モータの小型化や,システム効率の向上に貢献している.FCVにおいては燃料電池の電圧が負荷状態に応じて大きく変化することから不可欠となる.二次電池に用いる場合においては減速時に回生ブレーキによるエネルギー回収を行うため,双方向の昇圧DC–DCコンバータが採用されている.

インバータおよび昇圧回路に用いられるパワー半導体デバイスとしてはSi-IGBT (Insulated Gate Bipolar Transistor) をはじめとしたSiパワーデバイスが広く使用されているが,より低損失かつ高速スイッチングが可能な次世代デバイスとしてワイドバンドギャップ半導体であるSiCやGaNを用いたパワー半導体デバイスが期待されており,SiCについては一部の車種で採用が始まっている.

<補機系>

降圧DC–DCコンバータ
主機電池の電力を低電圧(12Vや48V)に変換し,照明やECUなどの補機へ電力供給を行う.主機系と補機系の間は電気的な絶縁を取る必要があり,かつ電圧比が10倍程度以上となるため,高周波トランスを用いた絶縁回路トポロジーが一般的に用いられている.

車載充電器(On-Board Charger, OBC)
PHEVやBEVにおいて,家庭用または公共の交流電源を直流に変換し,主機電池への充電を行う.家庭での充電を想定した~2kW程度の低出力のものから,近年はBEVの大容量電池での充電時間短縮のため,より高出力な車載充電器へのニーズも高まっている.力率改善や小型化・高効率化が技術的課題となる.

3. 高効率化および小型化に寄与する技術

電動車両においては,燃費や航続距離を延ばす上で車両に搭載したエネルギーをいかに効率的に使用するかが重要となる.そのためにはパワーエレクトロニクス機器の効率を最大化する制御技術が重要となる.

PWM制御 (Pulse Width Modulation) はモータの回転数や出力トルクを高精度に制御するために,電力の供給時間(デューティ比)を高速に切り替える技術である.インバータに用いられるパワー半導体デバイスのON/OFFの時比率を変えることでインバータの出力電圧の平均値を制御し,モータの高効率かつ精密な制御が可能となる.モータ効率が最大となる動作点に制御することによる高効率化の実現と共に,電動車のスムーズな加減速に貢献する.

ソフトスイッチング技術 (ZVS/ZCS) はパワーデバイスのオン・オフ時に電流をゼロ (ZCS : Zero Current Switching) あるいは電圧をゼロ (ZVS : Zero Voltage Switching) に近づけてスイッチングを行うことで,スイッチング損失や発熱を低減する技術である.高周波スイッチングが求められる降圧DC–DCコンバータやOBC (On Board Charger) などの回路トポロジーにおいて広く活用されている.車載パワーエレクトロニクス機器において課題となるEMI(電磁ノイズ)の低減にも効果がある.

車載パワーエレクトロニクス機器は高い電力を扱う一方,限られた搭載スペースに搭載するために小型化が求められており,素子や回路基板の温度管理や効率的な冷却が重要となる.これに対処するため,液冷システムやヒートシンク,放熱フィン,熱界面材料 (TIM) などを活用した高度な熱マネジメントが行われている.今後更なるパワー密度の向上が期待されており,熱マネージメントシステムの進化が求められている.

4. 次世代パワー半導体:SiCとGaNの車載パワーエレクトロニクス機器への適用

車載パワーエレクトロニクス機器の更なる小型化・高効率化を目指してSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)の活用が注目されている.これらのワイドバンドギャップ半導体は,従来のSiに比べて格段に優れた電気的・熱的特性を持つことから,電動車の高効率化・高性能化に大きく貢献することが期待されている.SiCは絶縁破壊電界がSiの約10倍であり,高耐圧・低オン抵抗が実現できる.オン抵抗と臨界電圧の特性はSiを遥かに凌駕し,同じ臨界電圧比でSiCはSiに比べて約2桁低いオン抵抗が実現できる.また,バンドギャップがSiの約3倍であり,高温動作が可能となる.Siパワーデバイスの動作限界温度が175°C程度に対して,SiCでは200°C以上も可能であり,冷却システムの簡素化や小型化に寄与できる.Siでは高耐圧化に伴うオン抵抗の増大を改善するためにIGBTなどの少数キャリアデバイス(バイポーラデバイス)が主に用いられるが,スイッチング損失が大きいという課題があり,高周波駆動に限界があった.これに対してSiCでは高速なデバイス構造である多数キャリアデバイス(ショットキーバリアダイオードやMOSFET)で「高耐圧」「低オン抵抗」「高速」の3者を同時に実現可能となり,インバータやDC–DCコンバータの電力変換効率を大幅に向上させることが可能になる.

SiC同様に代表的なワイドバンドギャップ半導体の1つであるGaNは,パワーデバイスよりも先に青色発光デバイス用に研究されてきたが,2000年頃から次世代パワー半導体としても期待されるようになった.SiCと異なり横型デバイスと縦型デバイスの2種類のパワーデバイスが研究されてきたが,横型GaNパワーデバイスはUSB充電器などの民生分野で実用化が先行しており,スイッチング周波数が数MHz以上でも安定動作が可能であることから,高周波対応が求められる用途に適している.一方,縦型GaNパワーデバイスは横型デバイスよりも電流を多く流せることから,大出力用途への適用が期待されており,研究開発が進められている.

図2にPHEV,BEVの場合における,SiCおよびGaNの車載応用先を示す.車載パワーエレクトロニクス機器へのSiCの適用例としては主にモータ駆動用インバータ,昇圧回路DC–DCコンバータで活用が進んでいる.GaNについては,横型デバイスでは高周波駆動が可能という特性を生かして,磁気部品縮小により小型化・軽量化設計が可能となるため,OBCや補機用DC–DC変換器において今後活用が期待されている.一方,縦型デバイスではSiCパワーデバイスと同様,主機用の昇圧DC–DCコンバータやインバータへの適用が今後期待される.

図2. SiCパワーデバイスおよびGaNパワーデバイスの車載分野への適用領域[1]

5. 将来展望

近年BEVの普及拡大に伴って,インバータ,モータ,減速機を一体化したeAxleが注目されている.さらにこれらに加えて充電器や降圧DC–DCコンバータなども統合したXin1(エックス・イン・ワン)と呼ばれるものも登場しており,駆動系およびパワーエレクトロニクス機器の一体設計と効率最適化,車両軽量化や部品点数削減が期待される.一方で,部品集積化に伴い熱設計やEMC設計の高度化が必要となっており,新たな技術開発が期待される.

地球温暖化対策として再生可能エネルギーの拡大が重要となる中で,EVやPHEVの主機電池を電力グリッドに接続し,電力の需給調整に活用する「V2G (Vehicle to Grid) 技術」も期待されている(図3).電動車の電池を系統における電力バッファとして活用することで,再生可能エネルギー導入の拡大や,系統の安定化につながることが期待されている.

図3. 電動車を活用したV2Gの概念図[1]

持続可能なモビリティ社会の実現のためには,エネルギー変換効率の更なる向上は勿論,LCA(Life Cycle Assessment)の観点での環境負荷低減が重要となる.材料や製造工程における環境負荷低減についても,今後の持続可能な車載パワーエレクトロニクスにおいては重要な課題と考えられる.

参考文献

  • [1]梅野, 孝治. (2023). 豊田中央研究所 自動車工学シリーズ「電動化技術」. 朝倉書店.

著者プロフィール

戸村 修二

(とむら しゅうじ)

2000年名古屋大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻修士課程修了,同年株式会社豊田中央研究所入社,長らくハイブリッド車を始めとした電動車両システムの研究開発に従事.