GXに貢献する高熱伝導樹脂技術 高熱伝導半導体封止樹脂技術から電動車モーター性能向上へ 西川 敦准 住友ベークライト株式会社 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

高熱伝導半導体封止樹脂の開発

半導体封止樹脂といってもピンと来られない方もおられるだろうが,パソコン等の緑の基板の上に載っている黒い物質は見たことがあると思う.あの中には半導体チップや各種デバイスが入っており,それらを外部からの衝撃や環境変化から守る役割を果たしている.それが半導体封止樹脂である(図1).高い耐熱性,耐湿性,耐衝撃性,電気絶縁性が必要とされるため,非常に強固で安定的な樹脂である.一方で成形時には一般的にトランスファーモールド方式といって,高温で溶融させた樹脂を金型内に流し込む工程があり,その際,微細に張り巡らされた金ワイヤーを変形させることなく流し入れる必要があり,低い粘度,高い流動性を求められ,また生産性の観点から1~2分程度の短時間で硬化させる必要があり,これら特性を併せ持つ非常に高い素材技術が求められる.

図1:半導体パッケージの代表構造

これら要求特性を満たす樹脂として熱硬化性樹脂,中でもエポキシ樹脂が広く採用されている.その配合中にはエポキシ樹脂の他に,硬化剤,無機充填剤,着色剤,触媒,離型剤や,その他数多くの添加材が含有されており,多いものでは10~20種類以上の材料から構成されている.この中で最も配合割合が多いのは無機充填剤であり実に重量比で80~90%以上を占めている.無機充填剤として最も広く用いられているのはその化学的安定性,低熱膨張性,入手しやすさの観点からシリカフィラー(SiO2)であり,球状で平均粒径10~20 µmのものが使用されている.

近年,半導体パッケージの高集積化,高性能化にともなうチップの発熱が問題視されるようになっており,より高い放熱性を求め,半導体封止樹脂にも高熱伝導化の要求が多くなっている.このことから無機充填剤としてシリカフィラーより熱伝導率の高いアルミナフィラー(Al2O3)が採用されることが増えている.また熱伝導率は無機充填剤同士の接触により効果が発現され,その接触面積は高充填になるほど飛躍的に増大する.しかし無機充填剤が高充填になるほど樹脂の配合量は減ってしまう,すなわちより少ない樹脂量で成形時の低粘度・高流動性,また速硬化を確保しなければならない.この課題を解決するために,充填剤の粒度分布を最密充填に調整(図2),RVE(代表体積要素)シミュレーションにより複合材の材料特性を予測(図3),独自の充填剤の表面処理技術(図4)やその他配合技術により解決し,現在では一般的なシリカフィラーを用いた半導体封止樹脂の熱伝導率1 W m−1 K−1程度に対して,アルミナフィラーを用いた5~7 W m−1 K−1以上の非常に高い熱伝導率のものが上市に至っている.

非最密充填
最密充填
図2:充填剤の充填構造
図3:充填剤表面処理技術
表面処理無
表面処理有
図4:充填剤表面処理技術

電動車モーター性能向上へ

カーボンニュートラル,脱炭素社会の実現に向けて,CO2排出量の2割を占めるといわれる自動車分野では電動車の普及が進んでいることはご存じかと思う.その駆動部であるモーターは,出力向上により発熱の問題が大きくなっており,新たな解決策が求められている.モーターの発熱源は大きな電流の流れる銅コイルであり,それはステータコアという鉄心に巻かれている.そのコイルとコアの絶縁を確保するため絶縁紙を間に挿入し,固定のため液状樹脂等を注入する工法が一般的である.この時,コイルとコアとの間に空気層が多く含まれるため,コイルの熱をうまく外に逃がすことができずにいた.ここに高熱伝導封止樹脂を適用すれば諸問題を解決できるとの考えにおよんだ.

半導体封止樹脂に要求される,高い耐熱性,耐湿性,耐衝撃性,電気絶縁性は電動車のモーターでも同様であり,またその高い流動性は銅コイルの隙間を充填させるには十分すぎるほどであり,速硬化性は従来の絶縁紙を使用した工法と同等以上の生産性を見込むことができる.肝心の放熱性についてまず熱シミュレーションを行ったところ,条件設定にもよるが30~50°Cのコイルの温度低減が見込まれた.そこで実際にアルミナフィラーを高充填させた高熱伝導樹脂(5 W m−1 K−1)を用いてモーターを試作・評価を行ったところ(図5),ほぼシミュレーションで予測された温度低減効果が確認された.

この技術を用いることで高効率のモーター,すなわち小さく,軽く,大出力のモーターが実現可能となる.これは当然CO2排出量低減にも大きく寄与する.また電動車のみならず,多種多様な産業用向けモーターはもちろん,今後普及が見込まれる次世代モビリティー,ドローンへの適用も可能である.現在この技術は国内外多くの自動車メーカーが検討を開始しており,近い将来あなたが乗る車にも適用されていることと思う.

従来構造モーター
高熱伝導樹脂技術適用モーター
モーターの試験の様子
図5:高熱伝導樹脂技術適用モーター

参考文献

  • [1]Plastics e-Axle Study Program is granted as a part of “R&D and social implementation promotion program for energy-saving technologies for the realization of a carbon-free society,” by NEDO [Online] (Accessed September 21, 2023).
  • [2]S. Yamamoto, A. Nishikawa, T. Harada, and W. Kosaka, “Development of direct cooling stator structure using high thermal conductive epoxy molding compounds,” Int. Power Electronics Conf., Himeji, Japan, May 15–19, 2022, pp. 407–414.

著者プロフィール

西川 敦准

(にしかわ あつのり)

2000年京都大学大学院工学研究科物質エネルギー化学専攻修士課程修了,同年 住友ベークライト株式会社入社,長らく半導体封止樹脂の開発に従事,2019年 スマートコミュニティ市場開発本部(マーケティング)を経て,2020年から次世代電動アクスル事業化推進プロジェクトチームリーダーとして電動車への樹脂の適用開発を推進.