高温超伝導誘導同期回転機 オームの法則を凌駕する超伝導材料で賢くて地球に優しい回転機の実現 中村 武恒 京都大学 特別WEBコラム GX : グリーントランスフォーメーションに挑む応用物理

私たちは,電気が持っているいろいろな働き(仕事)をする能力を電気エネルギーと呼んでいます.また,回転する物体が持っている能力を回転(運動)エネルギーと呼んでいます.回転機は,電気エネルギーと回転エネルギーを相互に変換できる装置であり,電気エネルギーを回転エネルギーに変換する装置をモータ(電動機),その逆の変換装置を発電機と呼びます.私たちの生活に欠かせない電力は,太陽光や風力などの再生可能エネルギー由来のものが増えている現状でも,主流は電力会社の発電機によって作られています.また,作った電力も実に半分以上がモータ運転によって消費されています.交流電力には,大規模な蓄電が難しいという特徴があるため,同時同量 [1] と言っていつでも出来たてホヤホヤの電力を使うことになります.私たちの生活で毎日コンセントなどから電気を使えているのは,回転機(発電機)でできた電力を回転機(モータ)で消費するという回転機を介した電気エネルギーの主流の流れがあるからこそなのです.現在,私たちを学校や会社,観光地などに連れて行ってくれる乗り物についても,電車だけでなく,これからは自動車,船舶,飛行機など,多様な輸送機器が電気モータに置き換わろうとしています.したがって,電気系の学問を志そうとすれば,このような回転機の知識は必要不可欠ということになります.

例えばモータは,電気エネルギーを回転エネルギーとしてぐるぐる回転する座標系(回転座標系)にため込んで,そのエネルギーの一部について,私たちのいる静止座標系に仕事をします.1.5トン位の乗用車に乗った私を京都から大阪まで運んでくれるのは,モータの回転座標系に蓄えたエネルギーのなせる業です.この変換を厳密に説明するためには,回転座標系にどのようにエネルギーが流れ込みかつ蓄えられるかを理解する必要があり,ちょっぴり難しい学問である電磁気学や相対性理論が必要です.回転座標系に注ぎ込まれるエネルギーは磁気エネルギーであり,つまりぐるぐる回転するN極とS極の磁気エネルギーが回転座標系の運動エネルギーに変換されることになります.私たちの生活を豊かにしてくれている回転機の理解には,重要な物理現象が深く関わっているのです.

上述したように,回転機は磁束を仲介役として電気エネルギーと回転エネルギーの相互変換を実現します.その場合,回転機内に電気を流し込む必要があり,通常は銅線等の導体(ここでは,常伝導体と呼びます)を使ってぐるぐる巻きのコイルを作って実現します.ところで,銅線はどのような電気的特性を持っているのでしょうか? ご存じの通り,発生する電圧が流れる電流に比例し,オームの法則と呼ばれます.この法則は,地球上で成立するとても分かりやすくある意味で奇跡的な法則で,温度などの条件が大きく変わらなければ,常伝導体の電気的特性をよく表現しています.一方で宇宙にまで想像を膨らませると,私たちが住んでいる地球空間はとてもちっぽけで,例外的な世界だと思い至ります.宇宙空間はとても冷たく,例えば−270 °C 位だったりします.つまり,地球上の室温という暖かい環境は,宇宙全体よりもとっても小さな空間の例外的なものであり,規模的にはるかに大きな宇宙の非常に冷たい空間の方が一般的のように思えます.その宇宙空間の温度では,様々な物質の電気抵抗が消失し,超伝導体 [*1] と呼ばれています.超伝導体は,臨界温度と呼ばれる極低温度未満において電気抵抗が消失するという不思議な現象を示します [*2] [2].電気抵抗が0ならば,その超伝導体に直流電流を流してもジュール損失と呼ばれるエネルギー損失が発生せず,熱くなりません [*3].したがって,ぐるぐる巻いたコイルに損失無く沢山の電流を流せれば,熱くならず非常に強い磁界(力)の回転機を実現することができます.

ところで,超伝導体の電気抵抗が0の特性は,実はオームの法則では説明できません.つまり,電圧が電流に比例する比例係数としての抵抗が単純に0になったと捉える考え方は誤りです.図1には,超伝導体と常伝導体について模式的に描いた電圧–電流特性を示します.この図を見れば分かるように,超伝導体の電圧–電流特性は直線ではなく,臨界電流と呼ばれる閾値となる電流値を境に,形式的に抵抗0と非線形抵抗特性(直線では無く曲がった特性)に分かれています.つまり,超伝導体の電圧–電流特性は臨界電流において微分不可能です.さらに考察を進めると,超伝導体の電圧–電流特性の臨界電流をゼロにして直線に近づければオームの法則に漸近するとも考えられ,すなわち超伝導体の特性の方が一般的のようにも思われます.では,超伝導体を回転機に使うことを検討している研究者が「どうせ超伝導体を電気抵抗0の状態でしか使わないのだから,オームの法則を仮定して必ず臨界電流未満の電流値になるように設計すればいいんだ」と考える場合,果たしてそれは正しいでしょうか? 答えは,その考え方で大丈夫なこともありますが,厳密には間違っていることになります.特に,京都大学のグループが研究開発している高温超伝導誘導同期回転機 [4] では,そのような考え方では基本回転特性でさえ説明できません.これは,超伝導体の電気抵抗0が臨界電流という閾値が存在するからこそ実現していることによります.詳しい説明については良書 [3] をお読みいただくとして,比喩的に説明すると,川に流されている鯉のぼりをご想像ください.鯉のぼりが流れていたら有限の電気抵抗が発生し,止まっていたら0です.鯉のぼりの流れを止めるためには川の中に杭が必要で,その杭に引っ掛かることによって止まる(電気抵抗0)になります.つまり,この杭が臨界電流であり,臨界電流のお蔭で電気抵抗が0になるのです.詳しいことは割愛しますが,この考察を進めていくと,ある意味臨界電流という物理量がエネルギーを蓄えているが故に,抵抗0が実現できていると考えることもできます[5].


図1:導体の電圧–電流特性の概念図.

上記した超伝導体の特性を利用して回転機を検討すると,高機能でかつ賢い性能が実現されます.図2には,筆者らがイムラ・ジャパン株式会社(開発当時の社名: 株式会社イムラ材料開発研究所)様とともに研究開発した高温超伝導誘導同期モータの例を示します [6,7].これまでの一連の研究開発を通して,例えば効率(投入した電気エネルギーに対して回転エネルギーに変換される割合)が99.7%超の可能性を実験結果として見出しています [*4] [5].また,常伝導モータを遥かに凌駕する出力・トルク密度(単位体積あるいは単位重量当たりの機械出力(トルク))を達成可能で,小形であるにもかかわらず非常に力強い回転機を実現できます.さらには,停止状態から急加速させても,超伝導体の抵抗が自律的に生じたり消失したりすることで,たった1秒未満の時間で1800 rpm (1分間に1800回転)の回転数にまで加速できる性能をいとも容易く実現できたり,過大な力がかかってしまった場合には勝手に別の状態に遷移して安定に回転状態を維持するなど,とてもインテリジェントなモータを実現可能です.近年では,究極の高効率回転機として,全ての巻線を超伝導化する全超伝導回転機も実現していて,京都大学に来れば回転している様子を気軽に見学することができます.以上のような優れた賢い特性は,超伝導体の臨界電流や非線形抵抗といったオームの法則を凌駕する特性を巧みにコントロールすることで実現されます.現在は,この高温超伝導回転機の基礎理論をさらに深化させると共に,私たちの社会に役立つ多様な応用分野に展開すべく研究開発を進めています.

fig2(a) fig2(b)
図2:イムラ・ジャパン株式会社(開発当時の社名:株式会社イムラ材料開発研究所)とともに開発した高温超伝導誘導同期モータの例.(a) 20 kW級機 [6] .モータケースに収容された全体構造 ,(b) 50 kW級全超伝導機 [7]. 競走場(レーストラック)の形をした24個の高温超伝導コイルに取り囲まれた高温超伝導回転子.

以上,本稿では超伝導体のオームの法則を凌駕する不思議な電気的特性を巧みに利用した高性能回転機として,高温超伝導誘導同期回転機を紹介させて頂きました.物理学における最先端の研究分野の一つである超伝導現象について,それを私たちの生活に身近な回転機に適用できることはとてもエキサイティングで,私が超伝導の研究者を志した高校2年生から現在まで関われて本当に良かったと考えています.若い皆さんも,是非情熱と信念を持って勉学に励まれ,鳥肌の立つようなセレンディピティ―を目指してください.

注釈

  • [*1]本稿では,液体窒素大気圧沸点(77.3 K)程度以上の比較的高温度で超伝導状態となる「高温超伝導体」を想定して説明しています.したがって,説明の便宜上で単に「超伝導体」という表現が混在していますが,全て「高温超伝導体」と読み替えてください.
  • [*2]厳密には,不可逆温度と呼ばれる臨界温度よりももう少し低い温度未満で消失します [3].
  • [*3]超伝導体でも時間変化する交流電磁界が印加されれば小さいながら特殊なメカニズムで損失が発生しますが,この正確な理解にはやや難しい知識が必要ですので,詳細な物理には参考文献[3]をご参照ください.
  • [*4]図2の回転機を常伝導体で作った場合,効率は92~97%位になります.

著者プロフィール

中村 武恒

(なかむら たけつね)

1969年,山口県生.1993年九州大学工学部電子工学科卒業.1998年同大学院システム情報科学研究科博士後期課程(電気電子システム工学専攻)修了.同年京都大学大学院工学研究科助手.現在特定教授.京都先端科学大学工学部特任教授(非常勤).応用科学研究所招聘研究員.主に,回転機の基礎ならびに応用と周辺技術,電力変換,MRI用超伝導マグネットの研究に従事.低温工学・超電導学会,電気学会,IEEE,応用物理学会,自動車技術会会員.博士(工学).