第2回(2023年度)応用物理学会ダイバーシティ&インクルージョン賞(D & I 賞) 受賞者

ダイバーシティ&インクルージョン賞(D & I 賞)
選考委員会委員長 齊藤公彦

応用物理学会ダイバーシティ&インクルージョン(D & I)賞は,応用物理分野で顕著な研究・開発の成果をあげた女性研究者・技術者(女性研究者研究業績賞,女性研究者研究奨励賞),および,応用物理分野におけるダイバーシティ&インクルージョンに大きく貢献する研究または活動を行なった研究者・技術者または組織・グループ(ダイバーシティ&インクルージョン貢献賞)の功績を讃え,応用物理学分野の一層の活性化を図ることを目的としています.第2回応用物理学会ダイバーシティ&インクルージョン賞については,機関誌『応用物理』7,9月号および学会ウェブページ,機関誌同封チラシ,SNSに掲載された公募に対して2023年10月11日(水) までに推薦のあった候補者について,選考委員会およびダイバーシティ&インクルージョン委員会で慎重な審議・選考を行った結果,正直 花奈子氏(女性研究者研究奨励賞)を受賞者と決定しました.女性研究者研究業績賞,ならびにダイバーシティ&インクルージョン貢献賞は受賞者なしとなりました.

なお,授賞式は2024年春季学術講演会(ハイブリッド開催)の初日3月22日(金) に現地にて行われます.また,女性研究者研究奨励賞の受賞者による受賞記念講演も同学術講演会の会期中に行われますので,是非ご参集ください.

女性研究者研究奨励賞
正直 花奈子 氏(京都大学大学院 工学研究科 電子工学専攻(附属工学教育研究センター)講師)
業績
N極性/III族極性窒化物半導体の結晶成長と光デバイス応用に関する研究

正直 花奈子氏の研究対象である窒化物半導体は,Al,Ga,InとNの組み合わせにより発光波長を赤外から深紫外まで変化させられる直接遷移型半導体です.これらの窒化物半導体の最安定構造であるウルツ鉱型構造はc軸方向に反転対称性が欠如していることからIII族極性(0001)(+c面)とN極性(0001)(−c面:+c面に対して裏面)を有しています.同氏は,従来用いられてきた+c面に対して,−c面の方がInGaN混晶のIn取り込み効率の向上が見込まれることに着目し,有機金属気相エピタキシー法(MOVPE)による結晶成長に精力的に取り組みました.同氏は,成長表面への原子ステップ導入や成長速度増大による成長中の非平衡度向上の効果の観点から,結晶の高品質化を実現し, −c面InGaNの発光層の高In組成化にともなう発光ダイオード(LED)の赤色領域までの長波長化に世界で初めて成功しました.また,深紫外発光デバイス用半導体材料として有望な+c面AlGaNの高品質結晶成長と光学特性評価を行い,265 nm帯で世界最高クラスの外部量子効率8.0%の深紫外AlGaN LEDの実現に寄与しました.さらに,N極性/III族極性窒化物半導体を用いた新奇光機能性デバイスとして,−c面/+c面AlNの極性反転構造の作製とこれを利用した第二高調波発生(SHG)に基づく遠紫外光(229nm)発生や,+c面および−c面のInGaN,AlGaN を用いた微小共振器および量子ドットのナノフォトニクス展開を行っています.

上記のように,同氏はN極性/III族極性窒化物半導体の結晶成長と光デバイス応用に関して先駆的な業績をあげており,今後益々の活躍が期待されている女性研究者です.

2023年度 応用物理学会ダイバーシティ&インクルージョン賞(D & I 賞)選考委員会

委員長
齊藤 公彦(東京都市大学)
委員
木本 恒暢(京都大学),松下 祥子(東京工業大学),小川 賀代(日本女子大学),近藤 高志(東京大学),田中 あや(NTT物性科学基礎研究所),筑本 知子(大阪大学),沈 青(電気通信大学),橋本 信幸(元シチズン時計),増田 淳(新潟大学)