特別WEBコラム 新型コロナウィルス禍に学ぶ応用物理 X線CTとAI画像診断2 AIによる画像診断支援 藤田 広志 岐阜大学

1. まえがき

第3次人工知能(Artificial Intelligence: AI)ブームが続いている.特に,機械学習の技術の一部である「ディープラーニング」(深層学習,以下DL)という従来よりも高度化された人工ニューラルネットワーク(神経回路網,以下NN)の登場により,医用画像のためのコンピュータ支援診断(Computer-Aided Diagnosis: CAD)の分野にも変化が起き始めた.最近,頻繁に用いられるようになっているAIに関する4つの用語の関係を図1に示す.

図1 AIからディープラーニングまで.

AIはコンピュータに人間のような知能をもたせる研究分野である.機械学習(Machine Learning)は,経験に基づいた学習をさせることで機械(コンピュータ)を賢くさせるAIにおける重要な技術の1つである.NNは脳の情報処理の働きをモデルにした機械学習の技術.DLは深層学習とも呼ばれ,従来のNNを多層化することや,新しい学習技術,あるいはコンピュータの性能向上などにより進化した機械学習の手法で,昨今のAIブームを牽引(けんいん)している.

DLの名称の由来は,“AI界のゴッドファーザー”とも称されるカナダ・トロント大学のヒントン教授(Geoffrey Hinton)が,2006年の論文で,“層が深い(deep)”(=多層の)NNを総称してDLと呼んだことに端を発している.そして,2012年の画像認識コンテストで,同教授らはDLを使って1年前の優勝記録の認識の誤り率(誤認識率)を25.7 %から15.3 %へと4割も削減させ,圧勝した.同教授は,2016年のある国際会議で,「5年以内にDLは放射線科の専門医のレベルに達するだろう」と述べ,大きな話題になった.

本稿では,医用画像診断領域におけるDLについて,初歩的な解説も含め,新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)の画像診断支援へのDL応用を概説する1)

2. AI-CADの利点

DL技術がCADシステムのエンジン部分にも活用されることにより,「従来型CAD」は,いま「新生CAD」(“AI-CAD”と呼ぶ)として,多様化・進化が始まっている1)

従来型のCAD開発においては,画像の中の認識対象の特徴量(例えば,がん領域の形状や濃淡情報)を,設計者(人間)が苦労して考案したのに対して,DLの利点は,このような特徴量を自ら作り出す(学習処理でこれを実行)ことにある.すなわち,従来型CADは図2(a) のような開発過程に従ったのに対して,AI-CADは図2(b) に示す開発過程を経るため,開発の手間が相当省けるようになった.従来では開発に何年もの期間を要したものが,DLを使えば数カ月でも開発が可能になった.なお,本稿では,DL型CADをAI-CADと定義している.従来型CADでもAIの機械学習の技術(サポートベクターマシンなど)が使われているが,それはAI-CADには含めないものとする.

図2 従来型CAD (a) vs AI-CAD (b).

3. ディープラーニング(DL)

さて,このようなDLとは何であろうか? DLは人間の脳の神経回路網を,人工的にコンピュータで実現した人工NNの進化版である.NNの進化版と称した理由は,過去の2回のAIブームとも呼応して,すでに過去に2回のNNブームがあったためである.

図3 畳み込みニューラルネットワークによる良悪性鑑別.例

今,画像認識で話題のDLは図3に示すような構造のもので,畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network: CNN)と呼ばれる.畳み込み層,プーリング層,全結合層の3種類の層構造が多重に積み重なった構造であり,たくさんの種類のものが次々に提案されている.例えば,胸部X線画像全体を図3の入力として,その出力に「異常/正常」の分類(判別),あるいは腫瘍周辺を切り出した入力に対して,出力に「悪性/良性」の分類(鑑別)が可能である.また,胸部X線写真全体を入力として,出力では異常部位を矩形状の枠で囲む(検出),あるいは病変部位を画素単位で決定する(領域抽出,セグメンテーション),さらには解剖学的な構造(例えば,心臓領域とか右肺上葉部など)を指摘する(認識)ことさえ可能である.また,骨年齢推定のようなことも不可能ではない(回帰と呼ばれる).画質改善(超解像,ノイズ減少など)や画像再構成にも応用されている.

DLでは,大量の学習データによってハイパーパラメータを調整することにより,システムができあがる.そこで,DL型のAI-CADはデータ駆動型(data driven)といわれ,性能を決める勝敗は画像データの収集のパワーに依存する.単にデータの量が多いのみならず,データの質も重要であり,また,学習時に正解データも必要で,ラベル付きデータ(例えば,腫瘍の辺縁領域)とかタグ付きデータ(例えば,腫瘍の有無や種類)と呼ばれる.DLに必要な道具は,ハードウェアとしてのコンピュータさえあれば,ソフトウェアはオープンソースで簡単に入手できるため,今や誰でもDLを試せる時代になっている.

4. データベース

上述したように,DLの学習には大量のデータが必要になるが,医用画像の世界は,一般的な自然画像などに比べて,少数データといわれる.しかし,最近の学会や企業による開発の報告事例を見ていると,まず1000症例規模でシステムを作り上げ,1万症例規模でシステム性能を向上させ,次に10万症例規模で実用化を目指して,システムを開発しているという大雑把な印象がある.

そこで,公共の医用画像データベース(DB)が増えている.例えば,米国国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)から,約11万例の胸部X線写真の大規模DBや,1万例規模の体幹部CT(Computed Tomography)画像のDBも公開された.また,米国スタンフォード大学からは22万枚を超える胸部X線画像の大規模DBが公開された.このDBを使った同大グループの研究では,正常/異常の自動鑑別において,DLの学習に必要なデータ数は,2万枚との結果を報告している.

国内では日本医療研究開発機構(AMED)の支援の下,日本医学放射線学会など6学会がAI診断支援システム開発も目指した画像などのデータの収集,DBの構築を行っている.

DLの学習時にデータを増やす手法(画像の回転やノイズ付加など)としてData Augmentation(データ水増し)という方法が多く利用されているが,これに加えてGenerative Adversarial Networks(敵対的生成ネットワーク,以下GAN)と呼ばれる技術がある.このGANを使って,画像データを新たに生成することができるため,医療分野での研究成果が多い昨今である.

あるいは,転移学習(transfer learning)という手法を用いて,自然画像(2次元画像)で学習させたDLのモデルを,医用画像に応用(fine tuning)する方法も多く使われるが,医療画像では3次元であるケースもあるため,最近になってついに医用専用のDLモデルも公開され始めた.また,連合学習(federated learning)と呼ばれる手法が開発され,各病院のデータは全く移動させずに学習を個別に行い個々のモデルを作成し,これらを基に統合的なDLモデルを構築するため,倫理委員会の承認などが得やすくなる利点がある.

5. 胸部画像診断やCOVID-19画像診断への応用

医用画像領域では,胸部画像や乳房画像をはじめ,多くの診断領域にAI-CADが盛んに適用されており,すでに国内外で薬事などの承認を得て商用化されている製品が出ている1).ここでは,胸部画像診断領域におけるAI-CADを説明する.

胸部画像では,2次元画像であるX線画像と3次元のCT画像に分けられる.主も多いCADによる検出・鑑別対象病変は結節陰影であり,間質性肺炎や結核なども対象である.これらの画像に対して,AI-CADはすでに医師と同等の画像読影レベルか,あるいはそれ以上のレベルに達している事例が多く報告されている.最近では,トリアージ型あるいは読影順位の優先順位付けを行うシステムが米国食品医薬品局(Food and Drug Administration: FDA)で販売の承認がなされ脚光を浴びている.

昨今のコロナ禍において,COVID-19による肺疾患画像診断に対して,AIによる多くの取り組みがある.以下,いくつかの例を紹介する.

2020年3月,COVID-19のAI研究を念頭においた胸部X線画像DBがカナダ・ウォータールー大学の研究者とDarwinAI社によって公開され,COVID-NetというDLモデルも公開されている2).ロシアの研究者らは1000を超えるCT画像DBを作成している3).5月,イスラエルのAidoc社は,CT検査時にCOVID-19の所見を捕らえたとき,検査室の医療従事者に警告を出すAIシステムを商品化している.6月3日,中国のスタートアップ企業Infervision社がCT画像をAIで肺画像解析をするプログラム医療機器に対して,本邦の薬事承認を得ており((株)CESデカルトより販売),これにより新型コロナに感染した可能性が表示されるという.エムスリー(株)なども中国アリババ集団が開発したCOVID-19による肺炎をCT画像から検出し画像所見の確信度を提示するAIソフトウェアについて,6月29日,製造販売承認を得ている.我が国のCT保有台数は世界一であり,COVID-19疑い例に対して積極的にCT検査を行い,その結果,CT所見を契機にCOVID-19の診断に至った症例も少なくないといわれ,このような製品が臨床現場で有効に利用され,早期の正確な診断に寄与されると期待したい.

最新の文献例を1つ紹介しよう.それは,米国マウントサイナイ医科大学の研究者による研究で,肺のCT画像鑑別などを基にAI(従来の機械学習やCNN)による診断支援の可能性を報告している(図4).すなわち,開発された胸部CT画像データを2つのCNNモデル(CTのスライス同定モデルと診断モデル)から成るCOVID-19予測モデルは,人間の医師(経験10年の放射線科医)より検出精度が高い結果であった(83.6 % vs 74.6 %).また,CT画像データに加えて,患者の年齢・性別,症状の有無,血液検査結果を総合的に機械学習させた総合的な予測モデルは,さらに精度が向上した.注目すべきは,放射線科医がCT検査で陰性と診断したが,PCR検査では陽性であった症例に対して,その68 %についてAIモデルがすでに陽性と判定した点であり,早期の隔離措置を行うべき観点から重要であるという.

図4 ディープラーニング(CNN)への入力されたCT原画像(左)と
その出力結果としてのヒートマップ(右:赤いほど,感染確率が高い).

(a) 発熱と感染歴のある51歳女性で,CNNモデルでは右下葉に異常(右肺下端の白色部分)が認められたが,2名の放射線科医はこれをCT陰性としたケース.
(b) 感染歴があり発熱と湿性咳嗽(しっせいがいそう:痰のからんだ咳,ゴボゴボといった咳)を呈した52歳女性で,両方の肺の辺縁部のスリガラス状の不透明度(矢印)があり,医師もCNNも正しく検出した例.文献4より許諾を得て改変のうえ,引用.
Reprinted by permission from Springer Nature: Nature Medicine, X.Mei, H-C.Lee, K.Diao, et al. (19 May 2020)

肺疾患以外では,FDAのCOVID-19対策として25日間という超短期間のレビューで認証されたという,米国Caption Health社の心臓超音波検査に対するAIガイド画像システムCaption Guidanceという商品がある.CODID-19による心疾患の検査支援に有益と期待される.

6. むすび

AI-CADは基本的に医師への診断支援ツールの役割であり,少なくとも現時点では,最終診断は医師が決定する必要がある(最終責任は医師にある)5)

AIのブラックボックス性のため,「説明可能なAI」の開発が医療分野では特に求められるが,この方面のさらなる研究進展に期待が大きい.図4に示したヒートマップと呼ばれる表示法で,DLが入力画像のどこに注目して出力を出したのかを確認する技術が,医用画像領域ではしばしば利用されるが,どの部分の特徴に注目したかを示してはいるが(偽陽性箇所の確認には利用可),ではなぜそこにという判断根拠の説明はなされない.

以上,紙面の制約により十分な説明はできなかったが,医用画像におけるAI-CADに興味ある読者は,拙著ではあるが,文献1を参照願いたい.また,COVID-19のAI解析に関するレビュー論文として文献6-9がある.

文献

著者プロフィール

藤田 広志

(ふじた ひろし)

1978年岐阜大学大学院工学研究科修士課程修了.83年工学博士(名古屋大学).同年米国シカゴ大学客員研究員,86年岐阜工業高等専門学校助教授,91年岐阜大学工学部助教授,95年同教授,02年同大大学院医学系研究科教授,17年同大工学部教授.18年同大特任教授/名誉教授,中国・鄭州大学客員教授,20年藤田医科大学客員教授.医用画像情報学会名誉会長,電子情報通信学会フェロー.